1 天使との邂逅
彼に出会ったのは、隣町でのお使いを済ませた帰り道だった。
丘を越え、領主様の館へ続く雑木林の中の坂道を下っていると、突然、空から何者かが降りてきたのだ。
見たことのない真っ白な服に、同じく見たことのない真っ白な兜。兜の前面には黒い板が付いていて、顔は見えなかった。
そして、背中から広がる一対の大きな輝く翼……
天使が舞い降りた……私はそう思った。
美しい翼が消え、天使が兜を脱いだ。私と同じ10代くらいの見た目の若者だった。中性的な整った顔立ち。背は私より少し高いくらい。私は呆然と彼の顔を見つめていた。
天使が私に知らない言葉で話しかけてきた。落ち着いた、優しそうな声色。
私が戸惑っていると、天使は、左手に顔を近づけ、何やら呪文を唱えた。
「これで言葉は分かるかな?」
「は、はい!」
何度も頷く私に、天使は苦笑しながら言った。
「驚かせてごめん。ちょっと……があってね。……のために真水が必要なんだけど、どこかに湧水の出ている場所があるか知ってる?」
「み、水ならここに……」
天使の言っていることは十分には分からなかったが、とにかく水が必要らしい。私は震える手で水筒を差し出した。
「出掛ける途中みたいだけど、この水筒の水を貰っても大丈夫?」
天使が少し心配そうに言った。私は何度も頷いた。領主の館までは後少し。水の心配はない。
「ありがとう」
天使がニッコリ微笑んだ。その優しい笑顔に、私は思わず赤面してしまった。体が熱い。胸がドキドキする。
私の手から水筒を受け取った天使は、背中に背負っていた白い鞄のようなものを地面に置くと、その中に水筒の水を少しだけ入れた。
「これでもう大丈夫だ。本当にありがとう!」
天使が白い鞄のようなものを背負いながら笑顔でそう言った。
「よ、良かったです!」
私は何故か裏返った大きな声でそう返事をしてしまった。恥ずかしさに顔が真っ赤になる。
「ふふ、驚かせてごめんね。それじゃあ」
天使はそんな私に微笑むと、白い兜を被った。背中に輝く大きな翼が現れる。
天使はフワッと空に浮かび上がると、空高く舞い上がり、飛んで行ってしまった。
私は呆然と天使の飛翔を見つめ続けた。今思えば、私はすでにあの時から彼に恋をしていたのだと思う。