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06 かっこいいなんて、言ってないし!

 二人の――ユリウスの圧に負けて、私は再び、判定の魔具と向き合った。

 仕方ない……やるしかない。


 嫌々、という顔をしながらも、私は内心少しワクワクしてきていた。

 自分の実力がいかほどのものか――一生知ることはないと思っていたのだが、いざ知れるってなったら、がぜん興味が湧いてきた。それに、私の実力に合わせた術環が刻まれるなら、もっともっと、高度で大量の魔力を消費するような大規模な魔術も試すことができるかもしれない。


 属性の判定は魔力の強弱には関係ないけど、術環の再刻印には必要だろう。


 まずはそっと魔力を流すと、やっぱり4色の光の玉か踊り出した。


「じゃあ、魔力量の方、やってみるわよ?」


 ユリウスとオクタリウス神官に視線を向け確認を取る。


「うん、遠慮なくやっちゃってよ。」


 ユリウスがおどけた口調で言った。


 それならば――


 私は、遠慮なく魔力を判定の魔具へと注ぎ込んだ。


 最初、さっきの判定の時のように、魔具は青白く輝いた。


「すごい……」


 思わずつぶやいたのはオクタリウス神官。

 そのときだった。

 魔具の中心に、ふっと黒い点が――まるで、焼け焦げるように――現れた。


 ――まずいっ、回路がショートする?!


 私は慌てて魔力を注ぐのをやめる。

 たぶん、これ以上注いだら、魔具は最悪爆発する。


 魔力を注ぐのをやめると、魔具は少しの間青白く輝いていたが、やがてじんわりと黒いシミが全体に広がって、まだらのまま光を失った。


 ――さて……術環は……うん、ちゃんと高魔力に対応できる形になってるわね。


 私が手のひらを撫でまわして面白がっていると、オクタリウス神官が青ざめて魔具を確認し始めた。


「魔具の回路が、焦げ付いています。よくあそこで止めましたね。もし止めてなかったら――……アナスタシア様……あなた一体……」


「で、アナの魔力量はどれくらいなんだ?」


 ユリウスがオクタリウス神官の手元をのぞき込みながら聞く。


「……そうですね。それは非常に難しい問いになってしまいました……判定の魔具は、最初青白く光りました。あれだけでも最高位の『金剛の座』を越えるサインですが、前例がなかったわけではない。しかし、アナスタシア様の魔力は、その域を越えて魔具の内部回路をショートさせてしまった。」


「ふーん……つまり、アナは『金剛の座』すら超えてるってこと?」


「……簡単に言えば、そう、ですが。でも、簡単に言っていい話じゃありませんよ。」


 オクタリウス神官は、壊れた魔具を撫でながら、眉間にしわを寄せてつぶやいた。


「……もうこれは、使い物になりませんね。私が魔具の管理を任されているので……まあ、在庫の帳簿はごまかせますけど……」


「……すみません」


 思わず申し訳なくなって、私は頭を下げる。

 オクタリウス神官は慌てて手を振りながら、軽く笑った。


「いえいえ、お気になさらず。むしろ止めてくださって助かりました。あれ以上やっていたら、爆発していたかもしれませんから……」


「いやぁ、俺の聖女は優秀でいいなぁ。これはもう、さっさと契約して囲い込まないと。

 ねぇ、もうこの足で契約の儀、やっちゃわない?」


 ユリウスが、冗談とも本気ともつかない口調で笑ってみせる。

 私が嫌そうに眉をしかめると、オクタリウス神官が、やんわりと咳払いしながら口を開く。


「殿下、あまりそういったお言葉で聖女様を焦らせてはなりませんよ。制度としての召喚や契約は確かに存在しますが……やはり最も望ましいのは、殿下と聖女様が心を通わせ、互いに尊重し合える関係を築くことです。」


 そう言い残して、オクタリウス神官は静かに部屋を辞した。


 扉が閉まる音がしてすぐ、ユリウスは腕を組み、不満げに私を見た。


「……そうなんだってさ。でも君は、俺の聖女として召喚されちゃったんだから、もういい加減、あきらめて受け入れてよ」


 いつものように軽い口調。でも、目元がほんの少し曇っている。


「ねぇアナ。どうしたら――君は俺と、ちゃんと向き合ってくれるの?」


 言っていることは相変わらずひどいのに、どこか不安げなその表情が、本当にずるい。


 ……あなたのような、イケメンの王子様に召喚されて、私嬉しい♪


 そんなふうに笑って言えたら、どんなに楽だっただろう。

 なのに私の口から出たのは、まったく別の言葉だった。


「だ…だって! 私、召喚してほしいなんて、一言も頼んでないっ!」


 目覚めかけた気持ちを必死に押さえるためだったのに。

 自分でも驚くほど強くて、鋭い声になってしまった。

 ユリウスの目が、一瞬だけ、傷ついたように揺れる。


「ちがっ……そうじゃなくてっ!」


 慌てて否定するけど、言ってしまった言葉は取り戻せない。

 静まり返った空気が、思った以上に冷たかった。


「ごめん、強く言いすぎた……私も昨日の今日で、まだ戸惑ってるんだよ?

 昨日まで、聖女として召喚されることも、あんたのパートナーになるってことも、全然思いつきもしなかった。私なりに、将来の夢とか、進路とか考えて、それに向かって努力したり、行動したりしてきたの。それが、昨日突然……あなたが目の前に現れて、『聖女だ』って……」


 私は必死で言葉を探していた。

 ユリウスは黙って聞いている。その視線に、私は勝手に圧力を感じていた。


「正直、あなたのことは、かっこいいなーって思うけどっ、この国の王子ってことくらいしか私は知らないし――」


 ――あーーー、私、絶対に余計なこと喋ってる……

 自分の失態を自覚した時、ユリウスが動いて、私をその腕で捕まえて抱きこんだ。


「アナは……俺のこと、かっこいいって思ってくれてるんだ?」


「~~~~っっっっ」


 うぅぅ、ちゃんと聞いていた~~


「俺の顔、好き?それとも……この騎士団で鍛えた身体の方?」


 赤面して俯く私の顔を、ユリウスはあごに手を添えて上向かせた。

 そのまま、目と目が合う距離で、いたずらっぽく囁いてくる。


「言ってくれたじゃん、アナ。俺のこと、かっこいいって」


 あー、もう、心臓が壊れそうだよ……

 もう限界を迎えているのに、ユリウスはさらに私の腰に手を回して、自分の方へと私を引き寄せ身体を密着させてきた。


「ねぇ?俺さ、君に好かれるためなら何でもするからさ?してほしいこと、何でも言ってよ。俺、君を手放す以外なら、何でも叶えてあげる。」


 ――叶えてくれるって……そんなこと……


「……私を……って……」


「ん?」


「私を、一回家に帰して、荷物を取りに戻らせて……」


 自分好みのイケメンに、抱きすくめられて口説かれる、という絶体絶命の状況下で、私はやっと一言言えた。


「そんな事でいいの?お安い御用だよ。」


 ユリウスは肩透かしを食らったみたいな顔を一瞬したが、嬉しそうに笑うと、こつんと額をぶつけてくる。


「じゃあさ、この帰りに王都の伯爵邸に寄るから――ここにキス、ちょうだい?」


 ふざけた仕草で、ユリウスは自分の頬をとんとんと叩いて見せる。

 このぉぉぉぉっっっ、調子に乗りやがってぇぇ


 私は腹を立てた勢いのまま、彼の頬にキスをした。


 ユリウスは、ハトが豆鉄砲を喰らったみたいな、マヌケな顔をしていた。


 ざまあみろっ。


 ――と、思ったのも束の間。

 また、抱きすくめられて。


「ちょっ、ま――」


 うぅ……苦しい……

 胸も、頭も、おなかのあたりも、全部。


 でも、まんざらでもないって思っている自分もどこかにいたけど……まだ気づかない振りをした。

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