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01 アナスタシアです!

 私、アナスタシア・ノルヴェールは、17年前に伯爵家の次女として生を受けた。


 王国の南側にそこそこの領地を持っている、可もなく不可もない伯爵家だ。

 領地は代官に任せ、父と母、既に王城に仕官している年の離れた兄と、未婚の姉と私は、王都で暮らしている。姉はミレイユという名前で、2歳年上の、華やかで美しい人だ。

 が、私とは、致命的に馬が合わない。

 彼女は、15でデビュタントを果たすとあちらの夜会からこちらの舞踏会へ、殿方を取っ替え引っ替え浮き名を流してるとかなんとか。

 私も15でデビュタントは果たしたものの、ドレスは姉のお下がりに、髪型は母にお任せで、おおよそ主体性などというものはなく、最初はミレイユの妹ということで、興味本位の殿方が寄ってきたが、すげなくしてたら来なくなった。

 私はとにかく、夜会も舞踏会も興味がなく、なるべく避けて通りたい。そんなことに費やす時間があるならば、古文書の一つでも解読したい。

 そう思うタイプの、偏屈な令嬢だった。

 そんな姉と私は、とにかく馬が合わなかった。


「アナスタシア!今日は神殿に行く日でしょ!?ほら、第二王子殿下と第三王子殿下の聖女召喚の儀があるのよ!」


 いつも通りに、王立図書館へ行こうと準備をしていると、母が部屋に怒鳴り込んできた。


「え、そうだっけ。忘れてた。じゃあ、欠席で……」


 私が気軽に言うと、母はすぐに頭に血を上らせて怒り出す。


「もう!召喚の儀に招待されて、断る令嬢がどこにいますか!それに、その言葉遣いは何?年頃なんだからーー」



「でも、私が行ったって、聖女に選ばれるでも無しに、無駄じゃない。」



 借りていた本を鞄に詰めながら言うと、母はますます怒り出す。



「別に選ばれに行くわけじゃないのよ!あの儀式への参列が許された。それだけで、貴族令嬢としての箔が着くの!あなたったら、ただでさえ殿方の覚えがめでたくないんだから、こういうことをちゃんとしないと、お嫁に行けないわよ!」


「あー、私のこと、従兄弟のセドリックがもらってくれるって言ってたー」


「あなた、それ、いくつの時の話よ!」


 母と言い合っていると、私の部屋の扉をノックも無しに姉が入ってくる。


「アナスタシアが行きたくないなら、私が代わりにいきましょうか?」


 姉は私をバカにする表情を隠しもせず、提案してきた。


「だって、招待状はノルヴェール家宛てで、アナスタシア個人に届いてるわけじゃないのでしょう?」


 姉はさも名案を思いついたと、微笑む。

 素晴らしいじゃない!私も大賛成よ!たまにはいいこと言うわね。


 と思っていたら、母はまだ渋い顔をしていた。


「でも、ミレイユは、4年前のカシオン殿下の時に出席したじゃない?それにあなたはひっきりなしに婚約の申し込みがくるような子なんだし、今更召喚の儀に出なくでも……」


「お母様、4年前、わたくし15歳よ。選ばれたのは、地味だけど大人っぽいセレニア様だったじゃない。19の今の私なら、きっと選ばれるような気がするの!それに、召喚の儀に立ち会った方が、選ばれる可能性も高くなるって噂ですもの!」


 姉は脳天に響くような声でまくしたてる。いつもは不快なこの声が、ここまで好ましく思えたことがあっただろうか。


「よーし、じゃあ決まりね!こういうのは、行きたい人が行ってこそ、価値があるのよ。ではでは~よろしく~~」


 私は手早く荷物をまとめると、母のわきをすり抜けて、姉にウインクして部屋を出た。


「アナスタシア―――っっっっ!」


 背中に母の怒号を感じながら、身も心も軽く、私は伯爵家を後にした。


 私が向かったのは、王立図書館。

 実は先日、王都地下の古代遺跡から、新しい古文書が発見され、私はその補修計画に参加させてもらう予定になっていた。なんと、あの高名な古術式学のガラトゥス・ミルドア先生が、主導して行われる、ということである。


 鼻歌交じりに図書館の入り口をくぐり、顔なじみの司書さんに挨拶して、関係者以外立ち入り禁止の区域に入れてもらう。

 ミルドア先生は遅れてくるそうで、通された部屋にはすでに遺跡から回収された古文書の束が木箱に入れられ積み上げられていた。

 あー、すぐにでも中を見て見たい!

 でも、それは先生の信頼を損ねることになる。我慢我慢……


 手持無沙汰だった私は、先週図書館で借りて、帰りに返すつもりだった古い本を取り出した。

 私は一度読んだ本は二度と読まないことが多いのだけど、ぼーっとしているのも性に合わない。


 しばらく本のページをめくっていると、廊下の方から足音が聞えてきた。

 ノックはなしに扉が開かれ、ミルドア先生が数名の助手を伴って部屋へ入ってくる。

 助手の中の一人に従兄弟のセドリックがいて、こっちに小さく手を振っていたが、私にそれに応える余裕はなかった。


「こんにちは!これからよろしくお願いいたします」


「ああ、君がノルヴェール君か。館長からはかねがね聞いているよ。この経験が君の糧になることを願っている。」


 ミルドア先生は、優し気に笑うと、握手の手を差し出してくれた。

 私は嬉しくて、その手を取ろうとした、その瞬間だった。


「え?」


 私の足元に、何やら魔法陣が浮かび、光に包まれる―――




「……君が……俺の聖女?」


 眩い光に包まれたと思ったら、目の前に王子様がいた。


「アナって呼んでいいかな?」


「は?嫌です」


 反射的に断ってしまった。


 嫌に決まってる!私は王子様なんかに呼ばれている暇はない!

 私はこれからミルドア先生に師事して、王国創成期の謎を明かすんだ!!


 ……なのに、なんで私が呼ばれる側なのよ。

 私は、女神様の伝説を呼び起こす側の人間のつもりだったのにっ!

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