序 召喚なんて聞いてません
「……君が……俺の聖女?」
眩い光に包まれたと思ったら、目の前に王子様がいた。
「は……い?」
私は確実に疑問形で答えたはずだ。
断じて認めたわけではない!
「そうなんだ!俺は、ユリウス・ヴァルトリア。この国の第三王子だ。よろしくね」
彼が少しはにかみながら、右手を差し伸べた。
金の髪に瑠璃色の瞳、整った甘い顔立ちだけど、頭はめっぽうキレるっていう!
知ってる。私、これでもこの国の貴族だから知ってる。
でもなんで、さっきまで王立図書館にいたはずなのに、なんで目の前に王子様がいるのよ!
まわりを見回すと、少し離れた所にもう1人女の子がいて、明らかに戸惑っている。
彼女の前にも王子様!
知ってる!あの人は武闘派の第二王子のルキアス殿下だ。
後ろを見た。
ズラリと並んだ、今をときめくご令嬢方々……
殺気がすごい。研ぎ澄まされたナイフというか、いや、私は不可抗力でここにいるのよ?
「両殿下、まだどちらがどちらの聖女が分かりませんぞ!」
明らかに地位が高い神官が進み出て王子たちをいなした。
「そんなの、一目見たらわかるよ。俺の聖女はこちらのご令嬢だ。君、名前は?」
「えっ!アナスタシアです。アナスタシア・ノルヴェール。」
サラッと聞かれて、思わず答えた。
「そう、アナって呼んで良いかな?」
「は?嫌です」
反射的に断ってしまった。
王国暦750年、私は聖女に召喚されたらしいです。