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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第四章 表と裏の物語
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091 アレク、診療所を施錠する

091 アレク、診療所を施錠する


 診療所の重い扉を閉め、慣れた手つきで鍵をかける。

 そして、その鍵を俺の空間ポケットにしまう。

 アポロンの奴が、こっちの都合なんてお構いなく色々えげつなく予定を差し込んで来るので、俺とアーサーはお互いの拠点の施錠用カギを交換し合っているのだ。


  ふふん、小娘たちよ、見たか!

 アーサーの聖域サンクチュアリへの鍵を持つ者は、この俺ただ一人!

 これぞ正妻の余裕というやつだ!


 神力に目覚めると、個人差はあれど、大抵の奴は別空間にポケットを持つことができる。

 俺の場合、容量はコンビニでもらえる大きめのレジ袋くらいか?


 我が能力『お手軽レジ袋』

 俺の背後に前衛的なデザインの人型のシルエットが手にレジ袋を持って現れた気がした。

 愛用のガントレット一式と銃、鍵束、それから非常食のビーフジャーキーと、いざという時のためのカードゲーム位なら余裕で入る。


 ガントレットを諦めれば、もっとボードゲームが入るのが悩みどころなんだよな。

 あっ!

 ウソウソ、ガントレットちゃん!

 俺が愛してるのは君だけさ!


 あれ??

 今、あっちの世界じゃレジ袋は有料だったっけ?

 マジかよ。

 能力名『お手軽じゃないレジ袋』になっちゃうじゃん?

 大統領が誇大広告で捕まっちゃう!

 帰ったら環境大臣と真剣に協議せねばならんな。いや、待てよ?

 俺が大統領なんだから、鶴の一声で無料に戻せるんじゃね?

 よし、帰ったら大統領令を発令しよう!


 そんなアホな事を考えながら、今後の算段を立てる。

 ラッキーな事に、今回は一日早く帰還できた。きっと、俺の日頃の行いが良すぎるからに違いない!

 ……いや、待てよ?

 もしかして、あっちの世界のサミットから逃げたいと言う俺の魂の底力か?

 隣国の首相タヌキ達め!

 大国に言い難い事を俺に言わせようと結託しやがって!

 何が『アレク君は英雄だからね、ガツンっと言ってやってくれ』だ!

 大国のトップにガツンと言うくらいなら、怪獣の群れに飛び込む方がまだマシじゃ!

 あいつら(大国のトップ達)まじ、やべぇからな!

 眼力だけで言ったら超獣超えてるからな!



 おっと話がそれてたな!

 今後の事を考えないと。

 段取り的には、まずなまずとグラ嬢に報告して状況を把握し、その後、俺のボスであるヘベ様に相談、だな。

 ほうれんそうは大事だって、ポパイさんも言ってたしな!


 そんなわけで、やってきました、グラ子の花屋さん。

 ドアをノックすると、中からシモがひょっこり顔を出した。

 相変わらずの無表情だが、俺の顔を見ると、わずかに目を見開いた気がする。


「よ!シモ!今日の新聞見たか?アーサーがとんでもないことになってるぞ!あれ、俺がプロデュースしてやったんだぜ(大嘘)!」

  俺が親指を立てて言うと、シモは神妙そうに、しかし確実に軽蔑の色を瞳に宿してコクリと頷き、花屋の中へ俺を招き入れてくれた。

 なかなかツッコミが来ないので、冗談だぜって親指を立てたら、シモはコクリと頷いて親指を立ててきた。

 コレはアレだな、シモ的な大爆笑のサインだな!


 ちなみに、豆知識なんだが、俺とシモは時代は違うが同じ国の出身だったりする。

 極寒の雪の世界、美しいオーロラと湖の国。

 サウナは最高だぞ!

 あの極寒の地で育つと、シモのように寡黙で思慮深くなるか、俺のように寒すぎて脳みそまで凍ってパーリナイになるかの二択なんだ。

 父親には「お前はアフリカあたりで拾ってきた」って出生の秘密を暴露されたが、正直、自分でも納得してしまった。

 よっし、明日からンガポポと名乗ろう!


 そんなことを考えていると、花屋の奥にある事務部屋に通された。

「今、大事なお客様が来ている。落ち着くまでここで待ってて」 ボソっとした声でシモが伝えてきた。

 大事な客?

 まあいい、時間を潰すのは得意なんだ!

 俺は部屋の隅にあった『踊るサボテン』の植木鉢を眺めながら時間を潰すことにした。

 こいつ、意外とリズム感いいな。

 今度、俺のバーでDJデビューさせてやるか。


 ガチャっと部屋のドアが開いたと思ったら、ピンク色のぬいぐるみ?がトコトコと歩いて入ってきた。

 なんだ?

 このモコモコは?


 俺がひょいと摘んで持ち上げると、モコモコは手足をジタバタさせて、甲高い少女の声で喚き散らした。

「無礼者!わたくしを離しなさい!」


 ほう、喋るぬいぐるみか。

 面白い。

 どんな仕組みで動いてるのか気になった、だって私、男の子だもん!


 俺がそのモコモコを軽く摘んで逆さ吊りにして、内部機構の確認を行おうとしたところ、モコモコは超音波みたいな悲鳴を上げて、見えない斬撃を俺の首目掛けて放ってきた!

  おっと、危ない危ない。

 咄嗟に結界を展開して防ぐと、モコモコは信じられないという顔でコッチを見ている。

「何すんだ!?今の斬撃、俺じゃなきゃ死んでたぞ!」

「わたくしを誰だと思っておりますの!?地獄の王、パイモン様の側近が一人、大悪魔セレスが娘、ベレスですわ!」

 なるほど、悪魔のお姫様か。俺は対抗心を燃やして、ふんぞり返ってやった。

「それならば俺の方が立場は上だな。こう見えて俺は、一国の大統領だ!ガハハ!」

 どうだ!モコモコの分際で俺に勝とうとは!アー気持ちいい!

「だ、大統領ですって……!?そ、そんな……ありえませんわ!」

  大統領という言葉の響きにショックを受けたらしく、モコモコ姫は脱走を諦めた子猫が母猫に首根っこを咥えられるように、四肢の力を抜いてブランと垂れ下がった。


 勝利の余韻に酔いしれていると、ガチャっとドアが開いてグラ嬢と、その頭や肩に乗った大量のモコモコ達が部屋に入ってきた。

  「姫様!」

 モコモコ達に囲まれて慰められるモコモコベレス

 彼女は一縷の望みを掛けて、グラ嬢に尋ねた。 「グラシャラボラス様、その男は本当に一国の大統領なのでしょうか?」

「うむ。このアレクシという男は、こう見えて信じられんかもしれんが、一応、英雄であり、一応、一国のボスではあるな、一応。」

 その言葉に、モコモコ姫はトドメを刺されたようにぐったりとしなだれた。

 あのーグラさんや、私、本当に大統領なんですよ!もっとビシッと言って良いんですよ。

 なんだか『一応』が多い気がしますよ。


「アレク、お主、何をした?あのお転婆姫、明らかに牙を抜かれてシナシナしておるぞ」

「悪かったか?」

「いや、良い気味じゃ」

 あらやだ、グラちゃんったら嬉しそう!

 貴方も苦労しているのね。


 グラ嬢と小声でそんなやり取りをしていると、なまず達がパイモン詣でに出発する時間になったらしい。


 俺はアーサーとアカリの現状を伝え、帰ってきたら力を貸してくれるという言質をきっちり取った。

 なまずは髭をビシッとたててプリプリ怒ってたし、グラ嬢は腹を抱えて笑っていた。


 そろそろ時間だというので、見送りのため、花屋の地下にある魔法陣の部屋へと向かう。

 せっかくだから俺はみんなを見送ることにする。

 ひんやりとした石の階段を下りていくと、そこにはドーム状の広大な空間が広がっていた。

 ご近所の花屋の地下にこんな空間があったとは、きっと役所には届け出してないに違いない。

 さすが悪魔だ。


 壁には夜光石が埋め込まれ、まるで星空の下にいるかのような幻想的な雰囲気を醸し出している。

 空気は澄み渡り、どこか甘い花の香りと、オゾンにも似た魔力の匂いが混じり合って、肌をピリピリと刺激する。

 部屋の中央には、黒曜石を磨き上げたような床に、銀色の未知の金属で描かれた巨大な魔法陣が鎮座していた。

 幾何学的な紋様が複雑に絡み合い、それ自体が一つの芸術品のようだ。

 陣の中心には、人の頭ほどの大きさの水晶が浮かび、静かに明滅を繰り返している。


 ドーム状の壁際に沿って、等間隔に人影が立っているのに俺は気づいた。

 いや、人影と言うよりは、闇そのものが人の形をとったような、輪郭の曖昧な黒い影だ。

 その数は十体ほどか。


 彼らは微動だにせず、まるでこの空間の一部であるかのように静まり返っているが、その内側に秘めた力は、並の魔獣など比較にならんほど濃密で禍々しい。

 グラ嬢が部屋に入ると、その影たちが一斉に、音もなく深々と頭を垂れた。


 うわ、マジかよ。こいつら、全員グラ嬢の部下か?

 その絶対的な忠誠心と、底知れぬ実力。

 この犬耳少女、俺が思っている以上に、とんでもない大物らしい。


「よし、皆の者、準備は良いか?」

 グラ嬢が言うと、魔法陣のルーン文字が一つ、また一つと淡い光を放ち始めた。

 呼応するように、中央の水晶の明滅が速まり、ブゥゥン…という低い共鳴音が空間に響き渡る。

 床から魔力の粒子がキラキラと舞い上がり、俺たちの周りを蛍のように飛び交い始めた。

 

 なまずとリコリス、グラ嬢とシモ、そしてモズルとモコモコ軍団が、光る魔法陣の上へと足を踏み入れる。

 光の柱が立ち上る、まさにその瞬間だった。


「今ですわ!!」

 場違いなほど甲高い、モコモコ姫の叫び声が響き渡った。

 その瞬間、俺の視界がぐにゃりと歪み、体が勝手に魔法陣の中心へと引き寄せられる!


 そして、元々俺がいたはずの壁際で、信じられないという顔でコチラをみるシモと、バッチリ目が合った。


 え?


 0.3秒後にシモと俺の立ち位置が入れ替わったと理解した!


 次の瞬間、瞬きの隙間もない刹那、凄まじい光の奔流が俺を飲み込んでいった。


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