表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第四章 表と裏の物語
90/101

090、アレク、1日早く帰還する

090、アレク、1日早く帰還する


 光の海の中を浮上するような感覚。

 瞳を開くと、そこはいつもの閑古鳥専門診療所だった。


 カレンダーを見る。

 ふむ、今回はクールタイムが短かったな。ラッキーだ。


 目の前には、鎧姿のまま膝をついて茫然としているアーサーが、アカリとギルドの受付嬢アイに詰め寄られている。

 はい、コレだよ!

 コイツまた、美少女を無意識に引っ掛けてやがる!


 泥棒猫なんかに、私のアーサーは渡さないわよ!!

 私のお腹の中にはね!アーサーの赤ちゃんがいるんだから!!(もちろん嘘です)

 そんなくだらないことを考えていると、アカリが大きな目を見開いてこっちに駆け寄ってきた。


「あれ?アレクさん!こっちに戻って来るのは明日じゃなかったんですか?」

「ただいま、アカリ。俺はたまにこういう事があるんだよ。それよりどうした?アーサーが面白い事になってるぞ?」

 アカリと、アーサーの足にすがりつくアイの説明を聞く。


(なるほど、なるほど。つまり、こういうことか。小説のせいで、アーサーは『妹に手を出す小児性愛者の変態』という、もはや一周回って真なる愛の戦士と言うクズキャラに成り下がり、アカリは『12歳で出産した悲劇の姫君』にジョブチェンジ。

 その結果、アーサーの魂は肉体を離脱し、アマルガム領あたりで第二の人生を夢見ている、と。


 ……ふむ。俺が経験してきたゴシップ地獄に比べれば、まだ可愛いもんじゃないか。よしよし、状況は理解した)

 俺はあわあわと慌てるアカリの頭に手をポンと置き、安心させるように言った。


「話はよーく分かった。まあ、任せろ!こういうのは経験済みだ」

 自慢じゃないが、俺は世界一ゴシップ記者やパパラッチにご飯の種を提供した大統領だ。


 フェニックス事件から目が覚めたら、俺はいつの間にか祖国の大統領になっていて、一日のニュースの最後には今日のアレクシというコーナーが出来ていて、正月特番では小学生の時に書いたラブレターまでさらされたプロ中のプロだ。


 ゴシップの中には、俺が夜な夜なクラブへ繰り出しては、並み居る美女たちを花粉症シーズンのティッシュペーパーみたいに使い散らかしている、なんてものまであった。

 うらやましい!

 そのゴシップ記事に出てくるアレクシさんと是非お友達になりたいわ!

 記者たちが24時間監視しているせいで、そんな華やかな夜遊びなど夢のまた夢だったというのに!


 そんな中、ようやくハリウッド女優と結婚できたと思ったら速攻で浮気され、偽の証拠をでっち上げられ、今まさに泥沼の裁判中だ!

 見てろよ!

 悪魔に魂を売ってでも、ほえ面書かせてやる!

 そうだ、あとでグラ嬢に相談しよう、そうしよう。


 話がそれたが、そういうわけで、そこで膝をついてブツブツ言っている閑古鳥ドクターとは、経験値が違うのだ。


「おい、そこの受付嬢!」

「は、はい!」

 アイがビシッと背筋を伸ばす。

「こういうのはな、お前らがしっかりしないとダメだろうが!ハンターを守ってこそのハンターギルドだろ?まずはギルド組織として、新聞社に『事実無根である』と正式に抗議を入れろ。そして、そのふざけた書籍の出版差し止めを要求しろ」

 俺の言葉に、アイは泣きそうな顔で反論した。


「あ、あの、お言葉ですが、以前も『黒騎士物語』の件でギルドから正式に抗議したのですが……」

「したのですが?」

「そ、それが…もちろんギルドとしても新聞社と作者側に正式に抗議し、出版差し止めの裁判まで起こしたのですが……相手が王都で『悪魔の舌を持つ』と恐れられる超一流の弁護士を立ててきまして……」

「ほう?」

「はい……法廷で、ギルド側は完膚なきまでに叩きのめされました……。『そもそも本作はフィクションであり、特定の個人をモデルにしたものではない』『むしろ、ギルド側の過剰な反応こそ、高名な作家先生への名誉棄損であり、悪質な営業妨害である』『表現の自由に対する重大な挑戦だ!』と、それはもう理路整然と、しかし悪魔のような弁舌で反論されまして……結果、ギルドは敗訴。逆に、多額の賠償金を支払う羽目になったのです……。今では、この一件はギルド上層部のトラウマの一つとして、語り継がれております……」

 アイの報告を聞き終えたアカリとアーサーは、一言も発さず静かにテーブルに突ッ伏した。


「……終わった。完全に終わった……」

 アーサーが、もはや魂の抜け殻のような声で呟く。

「そんな……!じゃあ、私たちは泣き寝入りするしかないってことですか!?」

 アカリが悲痛な声を上げる。


 だが、俺はニヤリと口角を上げた。

「いや、まだ手はある。というか、ここからが本番だ」


 俺の言葉に、三人が一斉に顔を上げる。

 その目は、まるで暗闇の中で一筋の光を見出したかのように、藁にもすがる思いで俺に注がれている。


 よしよし、良い感じに絶望してやがる。ここからが俺の腕の見せ所ってやつだ。

 アカリは涙目で「本当ですか…?」と潤んだ瞳でこちらを見上げ、アイは「アレク様…!」と、まるで救国の英雄を見るかのような熱い視線を送ってくる。

 アーサーだけは、まだ魂がアマルガム領あたりを放浪しているのか、虚ろな目で「……もう、どうにでもなれ……」と呟いているが、その耳がピクリとこちらを向いているのを俺は見逃さなかった。


「お前ら冷静になれ、今一番問題なのはアーサーが近親相姦ロリコン野郎になった事じゃないぞ!」

 俺がそう言うと、アーサーの肩がビクッと震えた。

 よし、魂が少し戻ってきたな。


「一番の問題は、アカリが今後普通の生活を送れなくなったというところが問題なんだ!もっと詳しく言えば、明日からの帰らずの森のピクニックにすら影響があるかもしれないというところが最大の問題点だ」

 三人ともハッとした顔になったな。そうだ、まずは現状認識からだ。


「良いか、出版社はアカリの登場を元に利益の最大化を狙っているんだ、黒騎士物語というフィクションの火で、アカリという燃料をくべ、大衆を燃え上がらせて現金化しているに過ぎない、ここまでは問題はない!ちゃんとフィクションと言っているんだから、だからアーサーは堂々としていれば良いんだ」

 俺の言葉に、アーサーの虚ろだった瞳に、ほんの少しだけ理性の光が戻ってきた。


「しかし、ここで一番むかつくところは、顔を隠している黒騎士では無く、素顔のアカリを巻き込んだことだよな、この場合の落とし前は必ずつける!必ずな!」

 その言葉に、アカリがコクンと力強く頷いた。その瞳には、もう涙はなく、怒りの炎がメラメラと燃え上がっている。

 よし、良いぞ!

 その意気だ!


「だが、ここで優先順位を間違ってはいけない、1、アカリの帰還準備 2、アカリの日常生活 3、出版社への報復 だ」

 お?アカリの俺を見る目がキラキラ輝いている!よしよし、完全にこっちのペースだ。


「良いか、お前たち、今からやることをまとめるぞ!まずは!ロリコン黒騎士!とヤンママJK!は気持ちを切り替えて怪獣社会科見学へ行ってこい!」

 ロリコン黒騎士呼びにアーサーはギリッと俺を睨んだが、その目にはもう完全に闘志が戻っている。

 いいぞ、その調子だ。


「次に、ダメギルド受付嬢!ギルドとして正式に遺憾の意を出版社に叩きつけろ!ギルド上層部には黒騎士と虎子脱退の危機とか言ってケツに火をつけろ!」

「は、はい!やってやります!」

 アイが力強く拳を握りしめる。もう泣き虫の受付嬢はそこにはいない。

 立派な戦士の顔だ。


「俺は、アカリの日常生活を守るため、今からへべ様となまずとグラ嬢に話を通してくる」

 アポロン?

 うふふ、誰でしたっけ?

 蛍光灯のメーカーにそんなのがあった気がしますわ!


 俺がパンっと手を叩くと、三人の目に理性の光りが宿った。

「凄い!なんか何とかなる気がしてきました!」

 もっと、もっと俺を賞賛しろ!

「アレク、極稀にまともな事を言うんだな」

 うるさい!殴るぞ!


「あっ!今から出れば少し遅刻位で案内人に間に合います!!」

 時計を見ながらアイが騒ぎ出した。


 ほらほら、後の事はこっちでやっておいてあげるから、はよ行け、はよ行け!

 俺が目線でアーサーに合図を送るとアーサーは「すまない、取り乱していた」といつもの視線を返してきた。


 早く行け、この近親相姦ロリコン野郎!と目線で返すと、アーサーも黙れ!寝取られ筋肉大統領!って返しつつ、後は頼むって目線で返して、慌ただしくアカリとアイを連れて診療所を出て行った。


 ふぅ…


 アーサーとの視線での会話、なんかどんどん精度が上がっている気がする。

 大丈夫だよな?これ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ