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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第三章 ゴタゴタ新生活
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080 虎子、美しき闘争に酔う

080 虎子、美しき闘争に酔う


 ああ、なんと美しい光景でしょう。


 ギルドの中央で、屈強な男たちが己の全てを賭して殴り合っていますわ。

 迸る汗は、鍛え上げられた肉体を濡らす真珠。

 流れる血は、彼らの覚悟を彩る紅玉。

 骨の軋む音は魂の協奏曲。

 これこそが命と命がぶつかり合う瞬間にのみ咲き誇る、至高の華ですわ!


 ふふ、もうそろそろ決着が着きそうですわね。

 この素晴らしい戦いが始まった経緯を、私はゆるりと思い返します。


 アーサー様御一行と別れ、私とアカリさんでギルドを訪れたのが、ほんの少し前のこと。

 まずはアカリさんのハンター登録ですわね。

 専属受付のミミさんに話を通せば、話は驚くほど円滑に進みます。

 必要な書類をよどみなく揃えてくる姿、さすがはミミさんですわ。


 アカリさんに書類を書いていただきます。

 はいはい、現住所ですね?お任せくださいまし。

  ……あら?ハッと私は気が付いてしまいましたわ。

 この角度からアカリさんの手元を覗き込むと、偶然、重力にたわむシャツの胸元にできた空間から、その…いえ、なんでもありませんわ。

 役得ですわね。


「あの、虎子さん…?顔が近いです…」 アカリさんが大きなお目をぱちくりさせて、戸惑ってらっしゃいますね、あらあら私としたことが少しがっつきすぎたかもしれませんわ。

「保証人は二人…私と黒騎士様(アーサー様)のお名前を。出身地は不明でよろしいですわ。特記事項に『明日までに壁の外に出る事が出来るライセンス必須』と。これだけは忘れずに書いて、と」

 はい、出来ましたわ!


 そう言って書類をミミさんにお渡しすると、彼女の顔色が見る見るうちに青ざめていきましたわ。

「しょ、少々お待ちくださいませ!」と叫び、飛ぶように部屋を出て行かれるミミさん。


 そうだ、護衛の件も手配しなければ。

 私はアカリさんをつれてカウンターに顔を出すことにいたします。

 いつもはミミさん越しに依頼を受ける私が、本日は依頼主。

 うふふ、新鮮な心持ちですわ。


 受付嬢から依頼申請の書類を受け取り、必要事項を書き込んで提出いたします。

「か、帰らずの森ですって!?」

「しかも、明後日ご出発!?」

 受付嬢が目を丸くして驚いておりますね。

 そんなに難しいことですの?

 私が小首を傾げると、彼女は非常に答えにくそうに顔をしかめました。

 困りましたわね、最悪、私が今受けている依頼を違約金覚悟で破棄し、同行するしかありませんわ。


 そう考えていると、書類を見ていた別の受付嬢が、少し大きな声で叫びました。

「えっ!?同行者に、あの黒騎士様のお名前が!?」

 慌てて口を押さえていらっしゃいましたが、時すでに遅し。

 ハンターの方々は地獄耳ですもの。

 数名の歴戦の猛者たちが、興味深そうにこちらへ集まってきましたわ。

 おずおずと依頼内容を尋ねてくるハンターに、私はにこやかに答えます。

「ええ、明後日から一週間ほど、この可憐な少女の護衛をお願いしたいのです。場所は、かの有名な『帰らずの森』。同行者は黒騎士様とアレク様。そして、もう一人、黒騎士様と同等か、それ以上の実力者ですわ」

「報酬は…」と言いかけて、そういえば報酬を決めていなかったことを思い出しました。

 受付嬢に視線を送ると、困ったように目を逸らされてしまいましたわ。

「まあ、わたくしが普段受けている依頼の倍額はお支払いしましょう。それでも足りぬというのなら、わたくしや黒騎士様ができる限りの『お礼』をいたしますわ」


 その瞬間、場の空気が変わりました。

 まるで、決戦前の鬨の声を待つ、歴戦の武士たちのようですわね!

「虎子様!そのお話、本当ですか?」

 顔中傷だらけの巨漢が鋭い眼光で訊ねてきました。

 ふむ、死地に赴く覚悟を秘めた、なかなかの面構えですわね。


「ええ、まことですわ。ただし、相手は『帰らずの森』。相応の覚悟と実力がなければ、骸を晒すことになりましょう。ですが、無事生還なされた暁には、わたくしも黒騎士様も、相応の礼を尽くすことをお約束いたします」

 私の言葉に、男が「おおっ!」と拳を握りしめました。

 それを皮切りに、「私が!」「いや、俺が!」と、何人もの猛者が名乗りを上げ始めます。

  良いですわ!素晴らしい!負け戦と知りつつ、我こそがと殿しんがりにと名乗りを上げる、そんな力強さを感じます。

 その心意気!武士の誉ですわ!名乗り出た 6対のぎらついた瞳が、私を射抜くように見つめております。


「うむ!その覚悟、天晴れなり!なれど、必要な強者はただ一人!ならば、互いにその力を示し、最強の座をその手で掴み取るがよい!」

 私の声が、闘争を求める魂に火をつけたのでしょう。

 私にに向けられていたギラギラとした視線は、今や互いの喉元を狙う獣のそれに変わりました。


  「おおおおおっ!!」

 誰からともなく雄叫びが上がり、観客となるハンターたちがフロアの机や椅子を壁際へと手際よく片づけます。

 この場は、今、神聖なる死合の会場へと変貌を遂げたのです!

 受付嬢が何か叫んでいますが、もはや誰にも止められませんわ。

 この猛者たちの覚悟を邪魔することは、神にさえ許されません!

  私は高らかに宣言いたします。

「さあ、始めなさい!もののふ達よ!己が命の全てを賭して眼前の敵を打ち砕き、その屍の上に、自らの栄光を咲かせてごらんなさい!」


 私の言葉を合図に、ギルドホールは怒号と雄叫びが渦巻く、灼熱の闘技場と化しました。

 6人の猛者たちは、もはや言葉を交わしません。

 互いが互いを、栄光への道を阻む障害物としか見ていないのですから。


 最初に動いたのは、両腕に嵌めた巨大なガントレットが特徴の男。

 彼が地を揺るがす勢いで踏み込むと、ガントレットに刻まれた古代のルーン文字が淡い光を放ち、その拳から衝撃波が散弾のように放たれます!

「オオオオッ!」

 狙いは、蛇腹剣を構える軽装の女剣士!しかし彼女は、まるで氷上を舞うように衝撃波の弾幕をくぐり抜け、逆に男の懐へと鋭く踏み込みました!

 その瞬間、横合いから別の男が操る、不気味にうねる鋼鉄の鎖が、女剣士の足に絡みつきます!

「もらったぁ!」

 鎖の主が叫びますが、女剣士は体勢を崩しながらも、その蛇腹剣を巧みに操り、鎖を断ち切ると同時に、刃先を近くにいた別のハンターの喉笛へと走らせます!

 しかし、その一撃は、巨大な塔の盾を構えた重装の騎士によって防がれ、甲高い金属音を響かせました。

「よそ見とは、余裕だな!」

 盾の騎士が女剣士を弾き飛ばした、その刹那!

 今まで気配を消していた短剣使いの男が、幻のように騎士の背後に現れ、その鎧の隙間を狙って毒の刃を突き立てます!


 ああ、素晴らしい!

 裏切り、奇襲、連携、そして一瞬の油断が命取りとなる死闘!

 これぞ、戦場の華ですわ!


 一人、また一人と、強者がふるいにかけられていきます。

 誰もが満身創痍。

 されど、その闘志はますます燃え上がっているようです。

 美しい。実に、美しいですわ!


 ああ、そして今、フロアの中央では、生き残った二人の強者が対峙していますわ。

 ルーンのガントレットをつけた大男は、左腕が不自然な方向に曲がり、顔の半分は自らの血で赤く染まっています。対する盾の騎士も、その巨大な塔の盾は見るも無残に砕け散り、鎧の至る所がへこみ、立つのがやっとの状態。

 もはや闘技などという生易しいものではありません。

 先ほどまでの熱狂はどこへやら、二人の瞳には闘志の炎ではなく、相手の命を刈り取るためだけの、冷たい殺意の光が宿っています。

 それでもなお、彼らの心は猛り狂っているのです!

 互いを打ちのめし、ただ一人、栄光を手にするために!

 この瞬間は、どんな宝石よりも、どんな芸術よりも、美しい!


 さて、二つの魂が激突した後、立っているのはどちらでしょう?

 私は固唾を飲んで、運命の瞬間を見守ります!!



 ガキンッ!!!



 呆気に取られてしまいましたわ。

 言葉も出ません。

 命と魂の、あの美しき衝突が、起きませんでした。

 血飛沫をあげ、骨を砕き、それでもなお立ち上がろうとする二人の間に、見慣れた黒い鎧が割り込み、無粋な、本当に無粋な結界で、あの尊き一撃を防いでしまいました!!


 我が心に棲む龍が、怒りで荒れ狂うのを感じます。

 この神聖な死合を邪魔するとは、何事ですの!

 万死!まさに万死に値しますわ!


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