表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第三章 ゴタゴタ新生活
73/101

073 虎子、堪能する。

073 虎子、堪能する。


 アカリさんが、こちらの世界に来るきっかけをお聞きしましたわ。

 コウタとかいうお猿でしたか。

 こんなにも愛くるしい逸材を袖になさるなんて、クズ、いえ、お猿の考えることは理解できませんわね。


 まぁ、でも、そのおかげでアカリさんがこちらに来れたと考えれば、そのお猿はお猿なりに生まれてきた意味を全うしたのでしょう。

 もう、いつ死んでもよろしいですわよ。

 来世は、便所コオロギにでも生まれ変わって、肥溜めにでも飛び込んで死ねば良いですわ。


 しかし、この流れ!悪くないですわ!!

 わたくしは、会話の流れから、戦況を把握いたします!

 男に振られた傷ついた乙女!隣にたたずむ経験豊富な大人の女(私)!


 この流れ!

 いけますわ!


 アカリさんを優しく抱きしめ、その細い首筋に顔を埋めます、どう見てもお姉さんが年下の少女を慰める美しい構図!

 完璧ですわ!

 先ほどまで炎天下で逆立ちをなさっていらっしゃったのか、乙女の汗の甘い香りが鼻孔をくすぐりますの。


 っかーーー!!たまんねぇぇ!!ですわ!!

 鼻息が荒くならない限界ギリギリの吸引力で、アカリさんの蒸発した汗の成分を余すことなく体内に取り込みます。

 ああ、この芳香、白米三杯はいけますわね!


 まだまだ攻めますわよ!!慰めるていで、その華奢な背中にそっと手を這わせます。

 昨日私が選んだ通気性のよろしい薄手のシャツ越しに、乙女の柔肌の確かな存在感を感じます!

 温かいですわ!

 柔らかいですわ!

 至福ですわ!

 よだれが!!よだれが溢れてしまいますわ!!


 このままアカリさんを抱きしめて、わたくしの隠れ家へ…!

 もう、違約金を払ってギルドのクエストなどキャンセルですわ!

 そうしましょう!私も帰らずの森に参加しますわ!!

 これから二人でテントを買いに行きましょう!

 寝袋はもちろん一つですわ!!

 夜通しアカリさんの(自主規制)を(自主規制)して差し上げますわ!


 脳内でそんなパーフェクトなプランが完成しそうになった、まさにその時、アーサー様がわたくしからアカリさんを奪い取るように引き離してしまいましたわ。


 許すまじ!!

 アーサー様、許すまじですわ!!


 アーサー様の後ろに、獲物を横からかすめ取るハイエナの幻影が、ギラギラと下卑た目で見えましたわ!

 おのれハイエナめ!

 わたくしとアカリさんの愛の巣作りを邪魔するとは!


 そんなことがございまして、街についてしまいました。

 わたくしとアカリさんはハンターギルドへ、アーサー様はピクニックとやらの準備に分かれるはずでしたが、ギルドに行く前にアカリさんの武器を買っておこうという話になりましたの。

 正直、アカリさんの初めての武器は、わたくしが手取り足取り腰取りで、それはもう熱く、ねっとりと選んで差し上げたかったのですが、そういえば今のわたくしったら素寒貧状態でしたわ。

 先日の地震(という名のなまず様の神力解放)で、虎子の虎の子貯金もろとも我が家は瓦礫と化しましたものね。


 たぶん、わたくしが懇願すれば、馴染みの店ならツケも可能でしょうが、わたくし自身、ツケ払いは好みません。

 金銭などの為に、信頼が傷つけるなんてもってのほかです。

 信頼とは一朝一夕に築けるものではなく、普段の行いや誠実さによって育まれるもの。

 信頼に頼るのは最後の最後、奥の手であるべきですわ。


 しょうがないですわね、本日はアーサー様を手足が生えた「歩くお財布様」だと思って、グッと我慢いたしますわ。

 そんなわけで、わたくしのとっておきの武器屋をご紹介しますの。


 ドワーフやって八十年、頑固一徹、槌一筋!『頑鉄工房がんてつこうぼう』の主、ボルガドン槌ノつちのすけ様ですわ!

 店内は、ドワーフの仕事場らしく、鉄と油の匂い、そしてむせ返るような熱気が満ちております。

 壁という壁には、剣、斧、槍、鈍器、果ては拷問器具かと見紛うような物騒な得物が所狭しと掛けられており、そのどれもが鈍い光を放ち、使い込まれた風格を漂わせています。

 作業台には年季の入った金槌や火箸、巨大な砥石などが無造作に置かれ、店の奥にある大きな炉からは、時折ゴォッと地鳴りのような音と共に真っ赤な火花が勇ましく舞い上がっております。

 アーサー様でさえ、興味深そうに壁の武器を手に取ってご覧になっていますわね。


 アカリさんは、目をキラキラさせて「うわー!かっこいいー!RPGみたい!」と、子供のようにはしゃいでいらっしゃいます。

 うふふ、可愛らしい。


 わたくしが「ボルガの親父殿ー!いらっしゃいますかー!」と声を張ると、店の奥から「あぁん?虎子か?なんだ、また新しい刀でもつくりに来たか?」と、実に気難しそうな、そして面倒くさそうなドワーフの親父殿が顔を出しましたわ。


「あらあら、相変わらずお元気そうで。本日は、こちらの可愛らしいお嬢様の得物を選んでいただきたくて参りましたの」

 わたくしが愛想よく言うと、親父殿は渋々といった感じでカウンターまで出てきましたわ。

 その無骨な顔、頑固そうな顎鬚、どことなく雰囲気がアーサー様に似ていらっしゃいますわね、と心の中で思っていると、アーサー様がムスッとしたお顔をなさいました。

 あらあら、顔に出ておりましたかしら。うふふ。


 親父殿は、アカリさんをジロジロと品定めするように見つめます。その太く短い指でアカリさんの手を取り、肩に手を置き、腕をむにむにと揉みしだき、まるで家畜市場の目利きのように、真剣な顔つきでアカリさんを調べておりますわ。


(う、羨ましい…!わたくしもアカリさんの柔肌をむにむにと…!)

 わたくしが羨望の眼差しで見つめていると、アーサー様が「ダメだこりゃ」という顔で深いため息をつきましたわ。

 失礼ですわね、乙女の純粋な探求心ですのに。


 ひと通り調べ終わると、親父殿は腕を組み、フンと鼻を鳴らしました。

「ど素人よりもひどいな。なんだこの娘、筋肉のきの字もついとらんぞ。お嬢ちゃん、よく今まで無事に生きてこれたな?なんでまた、うちみたいな物騒な店に来たんだ?」

 憤慨を通り越して、憐れみすら込めておっしゃいます。


 はぁ、アカリさんのこの無限の可能性を秘めた素晴らしい肉体を理解しないなんて、この親父殿も耄碌もうろくなさいましたわね。

 わたくしなら、そのスレンダーな体に秘められた無限のポテンシャルを(以下自主規制)。


「店主、一応聞いておくが、この娘が扱えるような武器は何か無いか?」

 アーサー様が、やれやれといった風情で尋ねてくれましたわ。

 さすが歩くお財布様、仕事が早いですわね。

「いや、無理じゃろ?筋肉が無さ過ぎて話にならん。なに?この娘、どっかの貴族かなんかのご令嬢か?それなら、護身用の仕込みナイフくらいにしとけ」

「そういうわけじゃないんだが、『帰らずの森』へ行って帰ってこれるような、そんな武器はないだろうか?」


 アーサー様の言葉に、親父殿は「ぶはっ!」と豪快に噴き出し、腹を抱えて笑い出しましたわ。

「帰らずの森だと!?嬢ちゃんが?あんた、本気で言ってるのか!?あそこはなぁ、魔獣の縄張りだぞ!ワシでも裸足で逃げ出すわ!さすがのワシも、そんな場所で通じる武器なんぞ用意できんわ!あぁ、神獣様の宝物殿にでも忍び込めば、何か見つかるかもしれんな!わははは!」

 冗談の質問に、上手く冗談で返せたとでも思ったのか、親父殿は実に楽しそうに笑っております。

 面白いですわね、明後日、本当にその『帰らずの森』に行かなければならないというところが、最高に笑いのツボを刺激しますわ!


 何かのスイッチが入ったのか、親父殿の機嫌がみるみる良くなっていきます。

 わたくしでも、こんなにご機嫌な親父殿は見たことがございません。

「おっ!そうだ!良いのがある!ちょっと待ってろ!!」

 そう言って親父殿は、店の奥からゴソゴソと一本の片手用の手斧を持ってきましたわ。


「これはな、うちの常連の一人が、ワシに無理を言って作らせた奴でな。なんでも、有名な一つ目のゴーレムが持っている由緒正しい武器らしい。あいつは、『スイッチ一つで刃が高熱化して鉄もバターみたいに溶かせるようにしてくれ』とか無茶を言ってきたんだが、それを再現するにはサラマンダーの素材が必要でな!さすがに用意できないから、形だけは忠実に再現した、ワシの会心の逸品だ!」

 親父殿がニカッと歯を見せて差し出してきたのは、確かに精巧な作りの手斧。

 刃は鈍く黒光りし、柄には滑り止めの革が丁寧に巻かれています。

 シンプルながらも、実用性を追求した美しいフォルムですわ。


「これなら、小柄な娘さんでも扱えるだろうし、近接戦闘はもちろん、投擲武器としても使える。木の伐採や、獲物の解体にも重宝するぞ!まさに万能!帰らずの森へ行くなら、これしかないぜ!」

 親父殿からトマホーク(という名前らしいですわね、この手斧)を受け取ったアカリさんは、なんとも微妙な、困惑と不安が入り混じった顔をしていらっしゃいます。

 ですが、わたくしはアーサー様と目配せを交わします。

 アーサー様もわたくしと同じ結論に至ったようで、親父殿と値段の交渉に入りましたわ。


 アカリさんは、「え?冗談だよね?私、こんなので戦うの?」みたいな顔をなさってますが、大丈夫ですわ、アカリさん。

 その理由は、後でわたくしが、二人きりで、手取り足取り腰取りで、じっくりとご説明いたしますから。

 うふふふふ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ