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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第三章 ゴタゴタ新生活
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070 虎子、アカリに出会う

070 虎子、アカリに出会う


 ギルドを出てから、わたくしは町で手早く軽食を済ませ、その足で職場であるタモン様の書店(現在は瓦礫の山ですが)へと向かいました。

 あの瓦礫の中から、長年使い慣れたわたくしの具足を発掘できるやもしれません。

 もし見つかった暁には、なまず様にお願いして、その神力で修復していただきましょう。

 うふふ、楽しみですわ。


 そんなことを考えながら診療所の前を通りかかりますと、あらあら、アカリさんが壁を背に、見事な逆立ちをしていらっしゃるではありませんか。

 お召し物が重力に従ってめくれ上がり、形の良い可愛らしいおへそが、こんにちは、と顔を覗かせておりますわ。

 そして、天に向かって真っ直ぐに突き出された、しなやかで瑞々しいおみ足…!

 ああ、一日中でも頬ずりしていたくなるような、素晴らしい眺めですわね。


 いけません、いけません。

 またこの身に宿る龍が、喜びのあまり暴れ出してしまいそうです。


「ごきげんよう、アカリさん」

 わたくしが声をかけると、アカリさんはくるりと華麗に逆立ちを解き、太陽のような笑顔をこちらに向けてくださいました。

 あぁ、眩しい。

 天使ですわ、ここに天使がいらっしゃいました。


 何をしてらしたのか伺ってみると、どうやら心の門を開くための修行をなさっていたとのこと。

 さらに詳しくお話を伺ってみると、なんと、リコリスさんの声を取り戻すため、そしてアカリさん自身の帰還用の穴とやらを確保するために、あの『帰らずの森』へ向かうご予定だとか!

 それを聞いた瞬間、わたくしは激しく後悔いたしました。


 今からでもギルドへ駆け戻り、先ほどの無謀なクエスト三昧の予定をキャンセルしなくては!

 ああ、ですが、違約金で今度こそ首が回らなくなってしまいますわ!


 ほぞを噛むとは、まさにこの事。

 …アカリさんのお臍でしたら、わたくし、いくらでも甘噛みして差し上げますのに!!


 リコリスさんとアカリさんがそのような大変な冒険に赴かれるという時に、わたくしがお手伝いできないなんて…!

 申し訳なさで胸がいっぱいになりながら謝罪いたしますと、アカリさんは「とんでもないです!虎子さんも大変なのに、気にしないでください!」と、逆にわたくしを気遣ってくださるのです。

 うふふ、本当に良い子ですわ。健気で、優しくて、そして美味しそう…いえ、愛らしい。


 それならば、お姉さんが一肌脱いであげましょう!

 アカリさんのためならば、一肌どころか、この身に纏うもの全て脱ぎ捨てて差し上げますわ!

 そうですわ、全てが無事に終わりましたら、皆で温泉旅行にでも参りましょう。


 アカリさんとリコリスさんの、湯けむりに濡れたお肌を想像するだけで…ぐへへ。

 おっと、また龍が荒ぶりそうでしたわ。

 いけません、いけません。


「冗談はさておきまして」

 わたくしはスッと右手をくうに滑らせ、空間の裂け目から愛刀の一振りを取り出します。

 うふふ、驚きました?

 アカリさんも心の門を開けば、この程度の芸当は朝飯前になりますわよ。


 あら、ありがとうございます。

 この刀をお褒めくださるとは、お目が高い。

 これは「姫鶴一文字」。

 こちらの世界に来てから、ようやく作り上げた渾身の一振り。


 こう見えてわたくし、美しい刀剣には目がございませんの。

 いずれ、わたくしの他の愛刀たちも、アカリさんのお部屋でゆっくりと見せて差し上げますわね。

 夜通し語り明かしましょう。


「さて、では特訓を始めましょうか?」

 そう言うと、わたくしは姫鶴一文字をスッと上段に構えます。

 アカリさんがゴクリと唾を飲む音が聞こえましたわ。


「アカリさん、今からわたくしは、この刀でアカリさんに斬りかかりますわ。もちろん、絶対に寸止めいたしますのでご安心を。むしろ、下手に動かれますと逆に危険ですから、できる限り動かず、私の剣を感じてくださいね。死と向き合う、それすなわち心と向き合う事ですわ。」


 宣言と共に、わたくしは振り上げた刀をアカリさんの鼻先めがけて振り下ろし、ピタリと止めます。


 うーん、0.5ミリメートルくらいですわね。

 もう少し攻めてみても良いかもしれませんわ。

 次は突きで参りましょう。


 アカリさんの左目の、その長いまつ毛の先端で、切っ先を止めます。

 ふふ、わたくしの愛刀の切っ先と、アカリさんのまつ毛がご挨拶ですわ。


「お見事ですわ、アカリさん。瞬きすら我慢なさるなんて。おかげで今度は0.3ミリメートルまで縮められましたわよ」

 うふふ、お姉さん、なんだか楽しくなってきましたわ!


 特別に、わたくしの奥義をお見せいたしましょう!

 気分が最高潮に高まったわたくしは、再び刀を上段に構え、精神をさらに研ぎ澄ませます。

 この身の内、心の奥底に渦巻く龍の力を感じ、わたくしの心と魂を重ね合わせ、完全に一体としますの。


(オン !ベイシラマンダヤ ソワカ!)


 世界とわたくし、そしてこの姫鶴一文字を通して、あらゆる事象を断ち切る。

 狙うはただ一点、アカリさんの右目のまつ毛の先!

 世界の全てがそこに集約し、この空間には、もはやわたくしと愛刀、そしてアカリさんの美しいまつ毛しか存在いたしません!


「奥義―――刹那神閃せつなしんせん!!」


 そう言って、わたくしは渾身の力を込めて剣を振り下ろしました。

 アカリさんのまつ毛を綺麗に二枚おろしにしようとした、まさにその刹那!まつ毛に到達する寸前、剣先に何か見えない障壁のようなものに阻まれる感触がございました。


 ですが、わたくしの剣技は止まりません!

 その不可視の障壁ごと、アカリさんのまつ毛を見事二枚おろしに…!


 今の手ごたえはきっと、よく見ると、アカリさんの二枚卸になったまつ毛の付近に、本当に小さな、陽炎のように揺らめく光の膜が一瞬だけ現れて、すぐに消えてしまいましたわ。


「やりましたわね、アカリさん!今!ほんの僅かですが、結界が発動しておりましたよ!!」

 アカリさんは、目を見開いたまま、カチンと固まっておりますわ。

 どうやら、あまりの衝撃に気絶なさったようですわね。

 あらあら、可愛らしい。


 その後、どこからかアーサーさんが血相を変えてやってきて、わたくし、こっぴどく叱られてしまいましたわ。

 解せません。

 わたくしはただ、アカリさんの才能開花のお手伝いを、ほんの少し、愛をもってお手伝いさせていただいただけなのに。


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