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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第三章 ゴタゴタ新生活
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065 アカリ、結界チャレンジする

065 アカリ、結界チャレンジする


 アレクさんが光の彼方へ消えていってから数分。

 私は、アレクさんが最後に残していった「3日で結界マスター」という、あまりにも壮大すぎる宿題と、手の中のただの石ころを交互に見つめていた。


「……気合い、ねぇ」

 とりあえず、言われた通りに石ころをギュッと握りしめ、目を閉じて「結界!結界!出てこいやー!」と心の中で叫んでみた。


 ……シーン。

 うん、知ってた。

 ですよねー。


 もう一度!「おりゃー!私の内に眠る聖なる力よ、今こそ目覚めよ!的な感じでバリアープリーズ!」

 ……やっぱり何も起こらない。

 というか、なんか虚しくなってきて涙出てきた。

 ただの石ころを握りしめて念を送るJK、どう考えてもヤバい人じゃん!

 誰か私を止めて!


「だめだこりゃ……」

 あまりの成果の無さにがっくりと肩を落とし、私はトボトボとグラちゃんたちのいる花屋へ戻った。


 花屋の中では、なまず様とグラちゃんが、何やら難しい顔で話し込んでいた。

「うわーん!なまず様、グラちゃーん!助けてくださいよー!アレクさんが無茶な宿題出していくんですー!」

 二人に泣きつくと、なまず様が「ふむ、結界とな?」と、得意げにヒゲをピクピクさせた。

「アレクの言う通り、気合いじゃ!まず、こう、腰をグッと入れて、両手を前に突き出すのじゃ!そうすれば、こう、ガッと結界が出る!はずじゃ!」

 なまず様が、たらいの中で謎のポーズを決めながら熱弁している。

 その姿は、どこかの武闘派の師範代のようでもあり、単にバランスを崩して溺れかけているようにも見えた。


 ……うん、やっぱりなまず様のアドバイスは期待するだけ無駄だったみたい。

 私の心の中の期待値メーターが、音を立ててゼロを振り切った。

「なまず、お主のその脳筋理論はアカリには通じんぞ」

 呆れたようにため息をついたグラちゃんが、私に向き直った。

 その小さな体から、なぜか後光が差して見える。

 グラちゃん、女神様なの?


「アカリよ、アレクの言うことも、まあ、あながち間違いではない。じゃが、少し説明が足りなすぎじゃな」

 グラちゃんはコホンと一つ咳払いをすると、いつになく真剣な目で私を見据えた。


「よいか、アカリ。この世界の、お主のような『異世界人』と呼ばれる存在は、我ら神や悪魔に近い体質をしておる。存在が世界の根源に近い存在なのじゃ。」

 え、私、神様とか悪魔とかに近いの!?

 なんかすごい話になってきたんですけど!

 もしかして、私にも隠されたチート能力が!?


「理論上では、妾たちと同じように世界に干渉し、あらゆる事象を引き起こすことが可能じゃ。じゃがな、」

 グラちゃんの目が、スッと細められる。

 その瞳の奥に、底知れない叡智のようなものがチラチラ見える気がする。


「世界というのは、お主が思うよりもずっと複雑怪奇な法則で成り立っておる。人間ごときが下手に手を出そうものなら、良くて自爆、最悪の場合、世界の法則そのものに修復不可能なバグを残してしまうことにもなりかねん」


 ひえっ!

 世界のバグ!?

 それって、なんかめちゃくちゃヤバいんじゃ……。


「もし、お主が何かやらかして世界にバグが発生した場合は、手近な神か悪魔か、あるいはそこにいる役立たずのなまずにでも、直ちに報告するように。放置すると、世界が終わるかもしれんからのぅ」

 グラちゃんが、チラリとなまず様を見る。

 なまず様は「ワシは役立たずではないわい!むしろ異世界の潤滑油、いや、癒し担当じゃ!」

 とパシャパシャ盥の中の水を叩いて猛抗議しているが、グラちゃんは涼しい顔で華麗にスルー。


「話が少し逸れたな。元に戻して結論を言うとじゃ、人間が三日で結界を張れるようになるなど、天地がひっくり返っても不可能じゃ!一生涯を修行に捧げたとしても、濡れたティッシュペーパーくらいの強度が出せるかどうか、といったところじゃろうな」

 ……ですよねー!

 やっぱり無理ゲーだったんじゃん!

 アレクさんの嘘つき!

 期待させといて、この仕打ち!

 あの筋肉大統領め!


「じゃあ、どうすればいいんですか!?」

 私が絶望的な声を上げると、グラちゃんはニヤリと口角を上げた。

 その笑顔は、まるで全てを見通しているかのようだ。

「ふむ、ある程度簡単な結界の『型』をあらかじめお主の中に組み込んでおいて、必要に応じてそれを起動すればよいのじゃ!」


「おおっ!なんかそれっぽい!ハイテクな感じがします!」

 急に希望の光が見えてきた!

 アレクさんも、もしかしてこれを知ってて……


「というわけで、今、妾がアカリのために、パパパッと簡易防御結界を組んでやったぞ!」

 グラちゃんがそう言うと、その指先からキラキラと輝く光の帯が現れ、空中を優雅に舞った。

 そして、まるで指揮者のタクトのようにグラちゃんの指が動くと、光の帯は私に向かって飛んできて、スルスルと体に絡みついたかと思うと、まるで砂が水を吸収するように、あっという間に私の体に溶け込んで消えてしまった。


「おおー!なんか、あったかい感じがします!ポカポカする!」

「うむ。魔獣程度なら、その結界でもなんとかなるじゃろう。じゃが、神や悪魔などが相手なら、その程度の結界は指先一つで解除されてしまうゆえ、過信は禁物じゃぞ!カカカ!」

 グラちゃんが高らかに笑う。

 すごい!

 グラちゃん、どこぞの役立たずなまずとは大違いだ!

 めちゃくちゃ頼りになる!

 まさに救いの女神!

 いや、悪魔だけど!


「むむむ!ワシにだってそれくらいできるわい!」

 グラちゃんへの称賛の眼差しを向ける私に、なまず様が対抗心を燃やしたのか、たらいの中でバシャバシャと水飛沫を上げながら暴れだした。

 子供か!


「アカリよ、よく見ておれ!ワシの神技、とくと味わうがよい!」

 なまず様がヒレをパタパタと激しく動かすと、その周囲に禍々しい紫色の光の帯がグネグネと現れた!

 うわ、なんかグラちゃんのより強そう!

 というか、ちょっと禍々しすぎて怖いんですけど!

 そんな禍々しい紫の光が、まるで獲物を絞め殺す蛇のように私の腕に絡みついてきて、肘関節あたりから私の中に入ってきた!

 痛くはないけど、これって大丈夫なの?


「うむ、ワシのはグラのよりすごいぞ!起動と同時に周囲100メートルを完全なる真空状態にして、相手を呼吸困難で確実に仕留める!名付けて!なまず式・真空玉じゃ!!これなら多少結界を張ろうとも耐えられるのは数秒!どうじゃアカリ!ワシを見直したか!」


「すごい!なまず様!それならどんな魔獣もイチコロですね!」

 私が目をキラキラさせて喜ぶと、なまず様は「ふんぞり返る」という言葉を具現化したかのようなドヤ顔で胸(?)を張った。ヒゲがピーン!と天を向いている。


 その時、グラちゃんが冷静な声でボソリと一言。

「……起動したアカリも、仲良く真空パックで即死じゃがな」

 ……え?

「なまず!何て物騒なモンを私に入れやがったのよ!今すぐ取って!私の中からさっきの禍々しいやつをデリートしてよぉぉぉ!!」

「起動してから息を止めて100メートルダッシュで解決じゃ!!」

「出来るかぁぁぁぁ!!ボケなまずぅぅ!!」


 私はなまずのヒゲを掴んで、割と本気で前後にガクンガクン揺さぶりながら絶叫した。

 たらいの水がバッシャバシャ跳ねて、花屋の床が水浸しだ!

「ひやややや!ゼッタヒニホッテヤハン!ムヒロホックホハヘヘヤッハホ!!イハヒイハヒ!」

(訳:嫌じゃ!絶対取らん!!むしろロックを掛けてやったぞ!!痛い痛い!)

 なまず様は、ヒゲを引っ張られて宇宙人と交信してるみたいな声で抗議しながらも、なぜかちょっと楽しそうだ。

 このドMなまずめ!


「アカリ、なまず、お主ら、いい加減にせんか!店が水浸しじゃ!」

 グラちゃんが、額に青筋を浮かべながらも、どこか面白そうに私たちを見ている。

「だってグラちゃん!このなまずが!私を真空パックにしようとするんです!」

「それはそれ、これはこれじゃ。まあ、なまずのは『お守り』として持っておけ。

 万が一、本当にどうしようもなくなった時の、最後の手段じゃな。

 もっとも、使えば自分もタダでは済まんが」

「そんな物騒なお守りいりません!」

 結局、なまず様の「真空玉(自爆スイッチ付き)」は私の体に入ったままらしい。

 ……もう、どうにでもなれ。


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