061 アレク、この世界の支配者を考える
061 アレク、この世界の支配者を考える
アーサーがアポロンを追って診療所のドアから勢いよく飛び出していったが、数秒も経たずに「……チッ」と盛大な舌打ちと共に、実に残念そうな顔で引き返してきた。
おーおー、やってるやってる。
これだよ、これ!
よく漫画とかアニメで見る一瞬で居なくなるアレ!
一体全体どういう仕掛けなんだろうな?
ドアを出るまでは超ゆっくり余裕綽々で歩いて、視界から消えた瞬間に爆速ダッシュでもかましてるのか?
そこまでして俺たちに見せつけたい演出なのか?
……いや、正直、俺も一回くらいやってみたい! !!
今度アポロンにコツでも聞いてみるか。
案外ノリノリで教えてくれそうな気がするぜ、あの神様。
さて、くだらない現行犯逮捕ごっこはここまでにして、状況は確実に、そして俺にとってあまり芳しくない方向に更新されたわけだ。
アカリ嬢の帰還用ワープホール(仮)が、よりにもよって魔獣のテリトリーなんぞにあるとはね。
しかも、なんか話の流れで、さりげな~く俺の現実世界からの帰還に合わせて出発する感じになってやがる。
いやいや、別に俺に遠慮なんかしなくて良いんだぜ?
俺のピクニック参加枠を、例えばタモン様とか虎子とかのガチ戦闘民族に変更したって、俺は全然、これっぽっちも気にしないんだからな!
……そこまで考えて、ハッとした。
どうやらアーサーも同じ結論に達したらしく、二人して顔を見合わせて深~いため息をついた。
間違いない。
これ、アポロンの掌の上だ。
俺たちが「タモン様か虎子がいれば安心だな!」なんて安易に考えつく程度の選択肢を、あのキラキラ神が潰してないわけがない。
十中八九、本屋の跡地にはしばらく留守にします。
とかの張り紙が立てかけてあるぞ!
ワンチャン虎子だが、虎子ってばタモン様が居ないとフラッとどっか行ってる事が多いので、捕まえられたらラッキーくらいに考えておこう。
あの神様、俺たちが楽できるような選択肢を提示してくれた試しがないからな!
ちくしょう!
それにしても、魔獣、ねぇ……。
ちょっとここで、このイカれた異世界のパワーバランスについて説明させてもらうぜ。
悲しいかな、この世界の支配者は人間様じゃあない。
じゃあ誰が頂点に君臨してるのかって?
そりゃあもう、ドキドキ弱肉強食アニマルプラネットの愉快な仲間たちだ。
人間様は、そんな彼らに畏敬の念(と、多大なる迷惑)を込めて、大まかに五つのランクを付けている。
まず、生態系の底辺……いや、土台をガッチリ支える働き者の皆さん、彼らは「獣」と呼ばれている。
ここらへんは、俺たち異世界人にもわかりやすい。
牛とか馬とか、猪とか熊とかかな。
異世界なのに共通の動物が結構いる、何故だろうな?
そんな人類のお友達のはずの獣が変な成長期に入っちゃう空気読めない子ちゃんがいる、それが怪獣。
基本的にめちゃくちゃ強い。
恐竜みたいにデカかったり、サーベルタイガーみたいに牙がエグかったりするが、まあ、常識の範囲内だ! 大丈夫!多分なんとかなる! 多分な!
次に、そんな「怪獣」さんたちを、スナック菓子感覚でモグモグしちゃうそんな困ったちゃんが「超獣」。
ここらへんから、俺たちの知ってる物理法則さんが「え、ちょ?え?」って感じで悲鳴を上げ始める。
火を吐いたり、電気バチバチさせたり、なんかもう色々だ。
良い子は真似しちゃダメだぞ!
そして、そんな超獣さんたちが、日々是鍛錬、努力と根性の精神で物理法則さんをボッコボコにして進化した結果、晴れて「魔獣」の称号をゲットする。
おめでとう!
君も今日から立派なファンタジー世界の住人だ!
魔獣はまず、明らかに頭が良くなる。
そこらへんでピクニック音頭を踊っている、ぱっぱらパーなJKよりは間違いなく賢い。
次に、なんか知らんけど結界を張るようになる。
はい!ここで物理法則さんが無事死亡確認!
お疲れ様でした!
最後に、お待ちかねの魔法攻撃だ。
俺が昔エンカウントした魔獣は、残像が見えるくらいの高速移動しながら、自分の分身を五体くらい生み出して、火の玉をガトリングガンみたいに連射してきた。
現代兵器?
んー、まあ、気休めにはなるんじゃね?
タモン様が昔、「結界を何重にも展開すれば核攻撃すら防げる(キリッ)」とか言ってたな。
魔獣に会ったら、次のキャラクターシートを用意しよう、今度は魔獣に会わないルートを選んでね。
……えっ?
もうお腹いっぱい?
大丈夫?
お残しは罰金ですよ?
そして、そんな魔獣がさらに訳の分からない方向に進化しちゃった最終形態、それが「神獣」。
こうなると、もはや我らがキラキラ太陽神アほロンや、筋肉達磨神タモン様ですら、分霊じゃ歯が立たないらしい。
「本体の僕なら余裕だけどね!」
とかアポロンはほざいてたが、ははは、負け神の遠吠えが心地よかったぜ!
……ん? ってことは、あのヌルヌルしたナマズって、もしかして神獣クラスだったりするのか?
おっと、余計なことは考えないでおこう。
見て見ぬフリ、これ社会人の基本な。
話が壮大に逸れたが、要するに、俺たち人間様なんてのは、そんな神獣様の縄張り(テリトリー)の片隅で、「住まわせてください、お願いします!(五体投地)」って感じで、か細く生きている弱小生命体ってわけだ。
だから、あんまり調子に乗らないようにね!
ちなみに、俺らが今いるここら辺一帯を支配する神獣様は、何を隠そうドラゴン様だ! 一度、すげー遠くからだけど、空を飛んでる姿を見たことがある。
マジでカッコよかったぜ!
で、だ。
話は最初に戻るが、今回のピクニック(笑)の目的地は、そんな愉快な魔獣様のテリトリー。
そう、物理法則さんの墓標の上で、今日も元気にタップダンスを踊っているファンタスティック素敵生物に会いに行けるんだ!
やったねアカリちゃん、冒険(物理法則さんの墓参りツアー)が君を待ってるよ!(白目)




