053 アレク、帰還プロジェクトを説明する
053 アレク、帰還プロジェクトを説明する
テーブルがすっきりしたところで、俺は本題を切り出す。
「それでは、アカリ帰還プロジェクトについて話をしよう」
アカリがゴクリと喉を鳴らすのが分かった。
ナマズも、どこか神妙な顔つきでこちらを見ている。
リコリス嬢は、心配そうに、しかし真っ直ぐな瞳で俺を見つめていた。
「まず、アカリが元の世界に帰る方法だが……正直なところ、ナマズの口から出てきた以上、帰りもナマズの口を通るのが一番手っ取り早い。だが、それはナマズもアカリも望む方法ではないのだろ?」
俺の言葉に、アカリは顔面蒼白になり、ナマズはブルブルと小刻みに震え、ヒゲの先まで恐怖に染まっている。
リコリス嬢だけが、心配そうに俺たちを見ている。
「昔、ヘベ様に世界と世界を繋ぐ『穴』の話を聞いた事がある。かなり詳しく教えてもらったが、悲しいかな、内容は完璧に忘れた!」
俺はドヤ顔で胸をはる!
「でも安心してくれ!たとえ覚えていたとしても、ちんぷんかんぷんで意味が分からないという事だけは覚えている!」
こう見えて、俺はそこそこ頭がいい方だと自負している。
だって大統領だぞ!
高等教育も受けてるし、ボードゲームで頭も柔らかく柔軟、こっそり読んでいる漫画で得た付け焼刃のSF知識も、まあ、そこそこばっちりだ!
でも、そんな次元の話じゃなかった、たぶん物理学者や数学者が聞いたら喜びのエウレカ走りするくらいの内容だった。
あっ、ちょっとだけアカリの目線が痛い。
彼女の中の英雄アレクシ像にダメージでHPが10くらい減った感覚がする。
「まぁ、とにかくそんな俺でも分かった事を伝えると、この世界にもあっちの世界にも大小さまざまな穴が開いているという事、その穴は出現と消滅を繰り返しているという事、そして、神と呼ばれる存在はある程度その穴の管理運用ができるという事」
あっ、アカリの目線に少し尊敬の念が宿った。
アカリの中の英雄アレクシが初級回復魔法くらいには回復した気がする。
「で、ヘベ様の話では、その穴の管理運用が得意な神がアポロンだという事、ちなみに、アポロンはこの大陸の穴の位置や状態をけっこう調べつくしているらしい」
あのキラキライケメン太陽神は結構すごい奴なのだ。
「結論!アポロンに聞けば解決しそう!ご清聴ありがとうございました」
俺が頭を下げると、アカリとリコリス嬢が期待に満ちた目で拍手してくれた。
だが、俺はその拍手を手で遮った。
「と、思うじゃん?」
アカリ達が「え?」って顔をする。
こういう時のアポロンは大抵居ない!
賭けても良い!
俺のボードゲームコレクションを掛けても良い!
いや!
まて、この思考を読んでたまに居るからアポロンはアポロンなんだ!
よし、賭けるのは、便所掃除一週間だ!
ははは、ざまぁ見ろアポロン!
おっと、アカリが少し不審そうな目で俺を見ている。
あぶないあぶない。
「たぶん、しばらくアポロンは俺たちの前には現れない。きっとアーサーのところに行ったら、『あとはよろしく♪』的なヒントになるメモか何かが置いてあるだけだと思う。賭けても良い、便所掃除一週間な!」
アカリの瞳が困惑している。アポロンがそんなことするわけないと思っているんだろう?
甘い、甘すぎるぞ!
俺もこっちに来たばっかりのペーペーの時は、アポロンを「様」付けで呼んでいた時期があった。
だが、上手く乗せられて利用されて、挙句の果てには、王都の歴史的建造物を破壊せざるを得ない状況に陥り、今ではその賠償金で異世界借金生活だ!(もちろん、アポロン金融!)
あー腹立ってきた!
リコリス嬢を見て怒りを中和しないと!
あーかわいい。
お?アカリがアポロンを信じる選択肢を選んだようだな?
へへへ、面白くなってきた。
先輩としてアポロンに裏切られた時のフォローはしてやるからな!
そんなわけで、俺たちはアーサーの診療所に行くことになった。
が、リコリス嬢が申し訳なさそうに手を挙げた。
どうやら何か用事があるらしい。
両手を頭にのせてそのかわいいお手手で耳のような形をとった。
ナニコレ、ちょっとかわいすぎるんですけど!
でも、リコリス嬢の手が水仕事か何かでボロボロなのを俺は見逃していないぜ!
あとで、ハンドクリームでもプレゼントしよう。
次は、手で鳥のように翼をはためかせた。
ああ、分かった、簡単だ!リコリス嬢は大空を舞うエンジェル、つまりやっぱり天使だという事ね!間違いない!
「グラちゃん?グラちゃんの所に行くの?」
リコリス嬢はコクコクと超かわいくうなずく。
そっかー正解は二つあったのか!おじさん見抜けなかった!
そういえば、昨日の夜、アポロンとグラ嬢がリコリスの周りで何かコソコソとやってた気がする、そん時約束でもしたのかな?
まぁ、約束があるなら仕方がない、が、正直俺の帰還の時間が迫っている、あと三時間くらい?しょうがないから、グラ嬢の方はなまずとリコリス嬢に行ってもらう事にして、俺はアカリと診療所に行くことにした。
アーサーの診療所につくと、そこには優雅に紅茶をたしなむ、後光が差しているとしか思えない金髪イケメンがいた。
「やあ、アカリ君、アレク君、おはよう!君たちがそろそろ来る頃だと思って、お茶を用意して待っていたよ」
ちきしょおおおおおおおおおおおおおお!!!!なんでいんだよぉぉぉぉぉぉ!!
アカリのキラキラした瞳が槍のように痛い!
「ほら、やっぱりアポロン様は私たちのことを見捨てたりしない、良い神様なんだよ!」
って、その目が雄弁に語りかけてくる!
違う!違うんだ!それこそが奴の巧妙な罠なんだ!気が付いてくれアカリ!!頼むから!
アカリの中の英雄アレクシ像に会心の一撃を喰らってHPが1になった感触がする。
英雄アレクシ、完全にグロッキー状態で立ってるのがやっとだ。
でも、危なかった、ボードゲームコレクションを賭けなくて本当に良かった!
便所掃除一週間にしていた俺の判断は間違えじゃなかった!
勝った!これはコラテラルダメージというやつだ!肉を切らせて骨を断つ!また大統領として一つ上の高みに昇ってしまったようだ。フフフ……。
「アレク君はなんでそんなに不気味な笑みを浮かべているんだい?君、たまにそういう笑い方するよね?」
部屋の奥で、アーサーが「こいつら、早く用事を済ませて出て行ってくれないかな……」と顔全体で訴えながら、クソデカため息をついているのが見えた。すまんアーサー、もう少しだけ辛抱してくれ。




