044 アカリ、歓迎会へ
044 アカリ、歓迎会へ
あの後、意外な事に第三回なまず会議は白熱するものとなった。
ナマズの粘液を販売するアイデアについて、真剣に議論するナマズ様とリコリスちゃん。
最初は「え、マジで?」って感じだった私も、二人のあまりの真剣さに、だんだん「もしかして、本当にいけるんじゃ…?」なんて気になってきて、いつの間にか会議に前のめりになっていた。
気が付いたら外はすっかり暗くなっていたけれど、ナマズ様がどこから出したのか、ランプを魔法?でポワンと光らせて、私たちの会議はさらに白熱していった。
紙に図を書いたり、身振り手振りで熱弁したり、まるでどこかの会社の重役会議みたいだ。
議題がナマズの粘液じゃなかったら、もっとかっこよかったのに。
「だぁ~かぁ~らぁ!!粘液を入れる小瓶はもっと高級感を出さないと、ダメって言ってるでしょうが!!」
私がナマズ様の髭を引っ張りながら訴えると、ナマズ様が「そんなコストかけてる余裕なんてないじゃろがぁぁ!!パッケージに金かけるより、中身の質で勝負じゃ!!」って怒り出して、私をピチピチ尾ひれで叩いてくる。
「いくら粘液が素晴らしくっても、手に取ってもらえないと意味がないでしょうぅぅ!!ドラッグストアの安売り化粧品だって、そこそこのボトルで売ってますよ!?」
「う、うるさいわい! ワシは神じゃ! 神の粘液じゃぞ! 有り難がって飲むのが当然じゃろがぁぁぁぁ!! 認知度を上げるなら、試供サンプルを配るとかあるじゃろがぁぁぁぁ!!」
「だから! その試供品を入れるボトルだって大事なんですよ! シャネルとか、ディオールみたいな、持ってるだけでテンション上がるような瓶にするんです!」
「しゃ、しゃねる? でぃおーる? なんじゃそれは! 美味しいのか!?」
「美味しいわけないでしょうがぁぁぁ!! 香水とか、化粧品のブランドですよ! 」
「聞いておるわい! だが、お主の言うことはコストがかかりすぎる! もっと現実的な話をせんか!」
「ナマズの粘液を商品にする時点で、全然現実的じゃないじゃろが!」
気が付いたら私がナマズ様の口をびろーんと広げ、ナマズ様が私のほっぺを両ヒレでムニッと摘まみ上げて取っ組み合いをしていた。
リコリスちゃんが、私となまずを止めようとオロオロと狼狽えているのがわかる。
安心してリコリスちゃん、もう少しでこの魚を絞めて、干物にしてあげるから!
そして、粘液の小瓶をドルガバみたいなイケてる感じにするからね!!
そんな私たちを見て、いつの間にか部屋に入ってきていたアポロン様が、カウンターの席に座ってて楽しそうに笑ってた。
カウンターには大きな紙袋が置いてある。
「ふふ、相変わらず賑やかで良いねぇ。喫茶店をやめて漫才でもすれば儲かるんじゃない?」
「失敬な!誰がおひげヌルヌル師匠やねん!…って、やかましわ!」
ナマズ様の右ヒレが、まるで熟練の漫才師が相方の頭を軽く叩くかのように、アポロン様の言葉をヒレの裏でシュッ!と払いのける。
「アポロンよ、今は重要な会議中だ。冗談はその非常識なキラキラだけにしておくんだな」
「そうかい?今のアカリちゃんとのやり取りだけでもお金取れそうなくらい面白かったよ?」
「うむ?そうか?粘液販売のプロモーションとしては有りなのか?」
ナマズ様が、たらいの中でふんぞり返ってアポロン様に言い放つ。
「おや、それは面白そうだ。コンビ名は『ぬるっとJ・K』でどうだい? 僕がプロデュースするなら、デビューライブは満員御礼間違いなしだよ。ギャラは僕が7で、君たちが3、いや、ナマズ君は特別に2でもいいかな?」
アポロン様が、悪戯っぽく微笑む。
「誰が『ぬるっとJ・K』じゃ! しかもギャラの配分がさっきより減っとるやないかい!ワシは神じゃぞ! 神の威厳というものをだな……というか、何しに来た?産業スパイはもれなく死刑じゃぞ?」
ナマズ様が、ようやく本題を思い出したかのように抗議する。
その手元には、いつの間にか水の槍が生成されている。
「まあまあ、そう怒るなよ、ナマズ君。ちゃんとリコリス君に入室の許可は取ったよ。それに、ほら、差し入れだ」
アポロン様が悪びれもせず、ウインクして紙袋を軽く持ち上げる。
そのウインクに、私の全身の細胞がまたチカチカと騒ぎ始めた。
(うわっ、またこの感じ!ま、まずい!土下座体制に移行しないと!)
体が勝手に反応し、膝がカクカクと折れ曲がろうとする。
「アカリ君は、ちょっと僕の神気と相性が良すぎるみたいだね」
アポロン様が、土下座しかけている私の前にひざまずき、私の手を取ってくれた。
ありがとうございますアポロン様、私この後この手を切り落として家宝にして飾ります。
「本当はサプライズプレゼントにしようと思ってたんだけど、君の反応を見ると、今すぐ必要みたいだ」
そう言いながら、アポロン様は私の手首に、銀色のブレスレットを優しくはめてくれた。
ひんやりとした感触。
腕輪の表面に、幾何学的な光のラインが走った瞬間、脳内でお祭り状態だった私の意識が、熱がひくように冷静になってくる。
「あれ?」
驚く。
今までアポロン様を見ると全身の細胞一つ一つがポップコーンのように弾けるようとしてたのに、今はアポロン様を見ても、すごい超絶スーパーミラクルイケメンだというくらいの感想にかわっていた。
キツネにつままれたような顔をする私に、アポロン様は微笑んだ。
「それは『アポロンリング』。僕の力を少しだけ込めた、特別な腕輪さ。まあ、君がこの世界で少しでも快適に過ごせるようにと思ってね」
「おおっ! アポロン、それは何じゃ!? ワシにも見せてみよ! キラキラしておるのう!」
たらいの中からナマズ様が身を乗り出し、興味津々といった様子で腕輪を覗き込もうとする。
アポロン様はそれを片手でひょいと押さえつけた。
「これはアカリ君専用だよ、君には後で鼻輪でも作ってあげるから、今日は我慢してね」
ナマズ様は「むー」と少し不満そうだったが、大人しく引き下がった。
「この腕輪の主な機能は、君自身の神力の簡単な制御。これで、僕のそばにいても神気にあてられにくくなるはずだ。それと、初回特典として、この世界の主要な言語を理解し、話せるようにしておいたよ。リコリス君との会話も、もっとスムーズになるんじゃないかな?」
え!すごい!
これで言葉の壁問題解決!?
リコリスちゃんともっとお話しできる!
こんなすごいもの貰っちゃっていいんだろうか……。
何かお礼をしないと!
「あ、あの、アポロン様! こんな素敵なものをいただいてしまって……何か、私にできることがあれば……!」
私が恐縮しながら言うと、アポロン様は「お礼は要らないよ、神の気まぐれさ」と、どこまでも優雅に微笑んだ。
その言葉と、凄まじいまでのイケメン圧に、私の理性は再び吹き飛んだ。
(ああああ、神々しい……! 尊い……! もう、拝むしかない!)
気づけば、私はアポロン様の足元にひれ伏し、一心不乱に拝み倒していた。
「アポロン様ー! ありがとうございますー! このご恩は一生忘れませんー!」
「おや? アカリ君、腕輪はちゃんと効いているはずだけど?」
アポロン様が、不思議そうに首を傾げる。
「いえ! コレは個人的な感謝ですので! アポロンリングの機能とは全く関係ございません! むしろ、この感謝の念でリングのエネルギーが増幅されるかもしれません!」
私は顔を上げずに、力強く断言した。
「ふふ、やっぱり君は逸材だね。面白い」
アポロン様が、心底楽しそうに笑う声が聞こえる。
「さて、話が少し逸れてしまったけど、実はパーティーの準備がすっかり整ったから、君たちを迎えに来たんだ。美味しい料理もたくさん用意してあるよ。さあ、行こうか! 素敵な歓迎会へ!」
アポロン様が、キラキラした笑顔で手を差し伸べる。
アポロン様の腕輪。
なんだかすごいものを貰ってしまった。
でも、これで異世界生活がもっと快適になるかもしれない。
そして、リコリスちゃんともっと仲良くなれる!
期待と、少しの不安を胸に、私はアポロン様の手を取った。
歓迎パーティー、楽しみだな!
今日のまとめ
アカリ、アポロンリングで言葉の壁突破




