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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第二章 新しいお友達
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042 リコリス、温かい帰路

042 リコリス、温かい帰路


 囚われていたバーを出て、私たちは当初の目的通り最初の服屋へ向かうことになりました。

 一時期は、アルマン黒爵様に攫われそうになり、皆さんに大変なご迷惑をおかけしてしまいました。

 本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです。


 でも、それどころか、虎子さんからは当面の服や下着などまで、たくさん買っていただきました。

(必ず、代金はお返しします……!)

 そう心の中で強く願い、虎子さんの袖をそっと引いて、両手を合わせてお辞儀をしました。


 私の必死な様子に、虎子さんは優しく微笑んで頷いてくれましたが、言葉が出ないので、この感謝の気持ちがどれだけ伝わったか分かりません。

 もどかしくて、胸の奥がぎゅっとなり、少しだけ悲しくなります。


 そんな私の気持ちを察してくれたのか、虎子さんは私を元気づけようと、突拍子もない服の試着を勧めてきてくれました。

「リコリスさん、こちらもいかがです? きっとお似合いになりますわ」

 そう言って虎子さんが手に取ったのは、真っ白なフリルがたくさんついた、可愛らしいけれど少し大胆なデザインのワンピースでした。


 戸惑いながらも試着室に入り、慣れない服に袖を通します。

 生地はふわりとしていて、肌触りがとても気持ち良いです。

 鏡に映った自分は、まるで別人のようでした。


 試着室から出てみると、虎子さんとアカリちゃんが「可愛い!」「すごく似合ってる!」と、笑顔で褒めてくれました。

 アカリちゃんは目をキラキラさせて、親指を立ててグッドサインをしてくれます。

 虎子さんは、口元に手を当てて、うっとりとした表情をしています。


 次に、アカリちゃんが「リコリスちゃん、これも着てみて!」と持ってきたのは、黒い生地に白い襟とカフスがついた、まるでメイドさんのようなワンピースです。

 これも恥ずかしかったけれど、二人が「すごく似合う!」と言ってくれたので、嬉しくなりました。

 アカリちゃんはくるくる回って見せて、とジェスチャーしてくれます。

 虎子さんは、静かに見守ってくれています。


 そして、虎子さんが最後に「これはとっておきですわよ」と、少しいたずらっぽく微笑んで差し出したのは、まさかのバニースーツでした。

 耳としっぽまでついています。

 生まれて初めて着ましたが、鏡に映った自分を見て、思わず顔が真っ赤になってしまいました。

 耳としっぽがぴょこぴょこ動くのが、なんだか可笑しくて、少し笑ってしまいます。


 試着室から出てみると、アカリちゃんは目を丸くして、それから「うわーっ!似合う!リコリスちゃん、スタイル良い!」と、飛び跳ねて喜んでくれます。

 虎子さんは、真剣な顔で「完璧ですわ!」「素晴らしいですわ!」と、何度も頷いています。

 その真剣さに、なんだかおかしくなって、また少し笑ってしまいました。


 それからは私だけでなくアカリちゃんも色々な服を試着したりして、それになまず様も変な帽子とか被りだして、みんなでああでもないこうでもないと、小さなファッションショーみたいに盛り上がりました。

 色々な服を選びながらファッションショーをしていると、さっきまでの攫われたことへの恐怖や、言葉が出ないことへの悲しい気持ちは、どこかに消えてしまいました。

 友達とはしゃぐのが、こんなにポカポカして、楽しい気持ちになるなんて、数日前からしたら考えられません。


(ありがとう、虎子さん、なまず様、アカリちゃん……!)

 みんなの優しさに、心が温かくなります。

 おかげで、元気が出ました。


 さすがにバニースーツは買いませんでしたが、お会計の時、虎子さんが店員さんに「このバニースーツは後日必ず買いに来ますから、厳重に保管しておいてください」と言っているのが聞こえました。

 虎子さんも、バニースーツを着てみたかったのかな?


 服屋を出ると、外でアーサーさんがいっぱいの荷物を持って待っていてくれてました。

 大きな荷物を軽々と抱えていて、力持ちさんです。

 虎子さんもアーサーさんもそれに私たちも両手にいっぱいの荷物でしたので、虎子さんが荷運びを頼もうと馬車屋さんに連れて行ってくれました。


 馬車屋さんには、見たこともない様々な動物たちが繋がれていて、まるで小さな動物園みたいでした。

 毛並みが虹色に輝く犬のような動物や、水晶のコブを持つラクダのような動物など、珍しい動物がたくさんいて、アカリちゃんやナマズ様は目をキラキラさせながら動物たちを見ていました。


 馬車屋の敷地には、動物たちの鳴き声や、干し草の匂いが満ちています。

 そんな中から、私たちの荷物を運んでくれる大きなサソリ?さんがやってきました。

 五メートルくらいの体長があって、硬そうな外骨格をしています。


 アカリちゃんやナマズ様が面白がって背中に乗って騒いでいますが、サソリさんは嫌がる様子もなく、静かに、それどころか二人が落ちないように気を使ってくれていました。

 店主さんが、このサソリさんは隣の大陸から出稼ぎに来たアブダビさんと教えてくれました。


 隣の大陸は蟲族の王国で、こちらの大陸よりも恐ろしいところだと聞いたことがあります。

 簡単に行き来ができないらしいので、私も蟲族を見るのは初めてでしたが、アブダビさんはとても紳士的で良い人?でした。


 満場一致でアブダビさんに依頼する事になりました。

 荷物の扱いも丁寧で、道中、なまず様と社会情勢や蟲族の生態など、色々なことをお話しされていました。

 アブダビさんの外骨格は、触るとひんやりとして硬いですが、どこか安心感があります。

 触角が時々私の肩に触れるのですが、優しく、気遣ってくれているのが分かります。


 なまず様の翻訳で、私もお話に混じることが出来ました。

 アブダビさんによると、今、向こうの大陸の蟲族は2つの勢力に分かれて戦っているそうです。

 向こうの大陸にも人間がチラホラいるなんて、初めて聞きました。

 アブダビさんの話を聞いていると、遠い世界にも、私たちと同じように生活があり、悩みがあるのだと感じて、なんだか不思議な気持ちになりました。


 診療所までつくと、アブダビさんは荷物を下ろし、ハサミを挙げて帰っていきました。

 最後に、ハサミの中から名刺?のようなものを取り出して、アーサーさんや虎子さん、そして私たちにも一枚ずつ配っていました。

 そこには、アブダビさんの名前と、次回から指名で安くなること、予約だとさらに安くなること、さらにスタンプが溜まると名刺が割引券になるということが書かれていました。

 お礼を言うと、アブダビさんは私たちの名刺にちょっと多めのスタンプを押してくれました。

 ナマズ様はおひげをピクピクさせながら、感心なさっています。

 商売熱心な方なのですね。


 アブダビさんと別れて、アーサーさんが私たちの荷物と、ちょっと大きめの紙袋を喫茶店の前まで運んでくれました。

 紙袋は、日常で使う消耗品だそうです。

「買いすぎたから、もらってくれ」

 そう言って、紙袋を置いていきました。


 紙袋の中身は、石鹸やタオル、歯ブラシといった日用品が一通り、そしていくつかのお菓子でした。

 どれも綺麗に包装されていて、アーサーさんの優しさが伝わってきます。

「四時間後くらいに迎えに来る」

 それだけ言って、アーサーさんは去っていきました。

 皆さん、本当に良い人たちです。


 私のような、言葉も話せない、行く当てもない人間にも、こんなに優しくしてくれて。

 攫われてしまった時は、もうお終いだと思いましたが、皆さんのおかげで、こうして無事に帰ってくることが出来ました。


(ありがとうございます……)

 心の中で、何度も感謝の言葉を繰り返しました。

 お母様とお父様がなくなって、怖いことや悲しいこともたくさんありましたが、それ以上に、今は温かい人たちに出会うことが出来ました。


 喫茶店の前に置かれた荷物と紙袋を見て、なんだか、この場所が、私の新しい居場所になるような気がしました。

 母と父が大切にしていたこの喫茶店で、新しい生活が始まる。

 言葉は話せないけれど、ここには私を受け入れてくれる人たちがいる。

 皆、優しくて、少し変わっているけれど、温かい。

 これからどんなことが起こるか分からないけれど、きっと大丈夫。

 この場所から、また一歩踏み出せる。

 母と父が見守ってくれているような、そんな気がしました。


「リコリスちゃーん!私の部屋ここでよいの?」

 喫茶店の二階から、アカリちゃんの声が聞こえてきました。

 私はアカリちゃんのもとへ向かおうと、荷物を持ってドアを開けます。


 ドアを開けた時のカウベルが、『おかえりなさい、そして頑張ってね』と言ってくれているようで私は嬉しくなりました。


今日のまとめとか

041話のリコリス視点です。

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