037 虎子、陽動に備える
037 虎子、陽動に備える
アポロン様の作戦会議が終わり、陽動組と救出組に分かれる事にきまりました。
アーサー様が私のことをご自分より強いと評価してくださいました、内心少し気恥ずかしさを覚えます。
まさか、あのアーサー様が、私にあのような評価をしてくれるとは。
アーサー様も、見た目はぶっきらぼうですが、根は優しく、そして強い方だと存じ上げております。
「では、作戦通りに。陽動組は私とアーサー君、虎子君。救出組はナマズ君とアカリちゃん。頼んだよ」
アポロン様が、いつもの優雅な笑顔でそうおっしゃいます。
はい、この虎子にお任せください。
リコリスさんを救い出すため、この命、惜しみはいたしません。
アカリさんは、まだ少し不安げな様子で、なまず様を抱きしめています。
あの、可愛らしい彼シャツ姿……。
アーサー様のぶかぶかのシャツに、華奢な体が埋もれているのが、なんとも……。
いけません、いけませんわ。
今は作戦に集中しなければ。
内心で、こっそりと頬が緩むのを抑えます。
美少女の危機に、私の武者震いは止まりません。
「よし、アカリ! ワシらの出番じゃ!」
ポーチの中のなまず様が、気合十分といった様子でヒゲをぴくぴくさせていらっしゃいます。
先ほど、アカリ様を怖がらせてしまったことを、まだ少し気にしているようですが、リコリス様のためとなると、やはり頼りになりますわ。
「うん……でも、どうやって潜入するの? 裏口って言っても、見張りがいるんでしょ?」
アカリさんが不安げに尋ねます。
無理もありません。
彼女は、このような修羅場には慣れていないでしょう。
「ふっふっふ……心配ご無用じゃ、アカリ! こう見えても、ワシは神じゃからのぅ!」
なまず様が得意げな顔をなさいます。
神様……。
私が加護を賜ったタモン様と同じ、神様。
私が眠りの中で迷い込んだ不思議な本屋で、タモン様はいつも黙々と本を読んでていらっしゃいました。
その筋肉質な体躯からは想像もつかぬほど、静かで穏やかな方。
初めてお会いした時は、まさか毘沙門天の分霊であられるとは思いもしませんでした。
何度かお会いするうちに、私の生きてきた世界のこと、この異世界のことをお話しするようになり……そして、あの時、タモン様は私に仰いました。
「そなたには、やるべきことがあるのだろう。この世界の理を知り、己の道を極めよ」と。
そして、私は加護を賜り、私はこの異世界と、元の世界を行き来するようになったのです。
少し、昔の事を思い出していたら、なまず様は首にかかったポーチから泥団子を取り出して掲げました。
なまず様が取り出したのは、泥団子。
神力凝縮泥団子、とおっしゃられてましたかしら。
神様の考えることは、時として凡人には理解しがたいものがございます。
ですが、タモン様の仰られた「神力」というものを使っているのですから、きっと効果はあるのでしょう。
アポロン様が、陽動開始の合図を送ります。
「では、行こうか。派手にね」
アポロン様が、楽しげに微笑まれました。
「俺は、正面から叩き潰す」
アーサー様が、静かに、しかし力強くおっしゃいます。
彼の武技と、黒騎士としての威圧感は、敵にとって大きな脅威となるでしょう。
「私は、お二人の後詰を。敵の側面を突き、撹乱いたしましょう」
私は、にこやかに答えます。
後詰は、戦局を見極め、最も効果的なタイミングで動く、重要な役割です。
アポロン様とアーサー様が頷きます。
信頼してくださっているのが伝わりますわ。
私たちは部屋を出て、バーの正面へと向かいます。
遠くから、微かに騒がしい音が聞こえ始めました。
陽動が始まりました。
敵の注意は、きっとそちらに引きつけられているはずです。
(アカリ様、なまず様……今ですわ。リコリス様を、頼みます)
私は、心の中で救出組の無事を祈ります。
(ふふ……美少女の危機……血が滾りますわ……)
内心で、黒い感情が湧き上がるのを感じます。
ダメですわね、私ったら。
ですが、これもリコリス様のため。大義のためです。
私は、腰に差した刀にそっと触れる。この異世界に来てからも、修行は欠かしておりません。
戦の場こそ、我が生きる場所。
リコリスさんのような美少女を、悪辣な輩の手に渡すなど、断じて許せません。
私は、静かに、しかし確固たる決意を胸に、戦場へと足を踏み入れるのでした。
今日のまとめ
虎子、戦が得意、陽動組
アーサー、戦闘準備中、陽動組
アポロン、キラキラしてる、陽動組
アカリ、救出組
なまず、救出組
神力凝縮泥団子、敵が見つけると抗いがたい食欲が溢れ、かぶりついてしまう。潜入ゲームにありがちな便利アイテム




