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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第二章 新しいお友達
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036 アカリ、作戦会議に参加する

036 アカリ、作戦会議に参加する


「……ん……?」

 意識が、ゆっくりと浮上してくる。

 頭が少し重い。


 昨夜は散々だったから、まだ眠っていたいような、でも、何か大事なことを忘れているような、不思議な感覚。

(あれ……私、寝ちゃってたんだっけ……?)


 重い瞼をこじ開けると、視界いっぱいに、誰かの胸板が広がっていた。

 硬くて、温かい。

 そして、少し消毒液のような、でも嫌じゃない匂い。


(え……?)

 状況が飲み込めず、視線を上にたどる。

 そこにあったのは、彫りの深い、見慣れない外国人男性の顔。

 黒髪で、少し癖のある髪が無造作に流れている。

 切れ長の目が、私を見下ろしていた。


「Hey. Finally awake?」

(よう。やっと起きたか?)


 低い、落ち着いた声。英語だ。

 この人、確か……診療所の先生? アーサーさん、だっけ?


(えええええええええええええええええええええええ!?)

 頭が真っ白になる。

 私、この人に抱きかかえられてる!?

 いわゆる、お姫様抱っこってやつ!?

 しかも、この人、顔面が濃い味イケメン!


 顔が、カァァァァァっと熱くなるのを感じた。

 乙女心、大爆発。

 恥ずかしすぎて、顔を隠したくなる。

 なんでこんな状況に!?


「You alright? Face is red. Got a fever?」

(大丈夫か? 顔、赤いぞ。熱か?)


 アーサーさんが、心配そうに眉をひそめる。

 違うんです!

 熱じゃないんです!

 恥ずかしいだけなんです!


「あ、あの……私、どうして……?」

 しどろもどろになりながら尋ねる。

 すると、アーサーさんは少し困ったような顔をして、私を優しく床におろしてくれた。

 お姫様抱っこからの解放、ぽーっと頭の熱が抜けていくにつれ、さっきまでの出来事が、断片的に脳裏に蘇ってきた。


 リコリスちゃんがいなくなったこと。

 ナマズと大喧嘩したこと。

 そして、アーサーさんが、アポロン様を呼び出したこと……。


(そうだ……リコリスちゃん……!)

 急に不安が込み上げてくる。

 リコリスちゃんは無事なんだろうか?

 その時、ふと、全身を悪寒が駆け巡った。


(……ぬるぬる……)

 指先にまとわりつくような、あの気持ち悪い感触。光の穴から出てきた時の、ナマズの粘液……。

 そして、あの、口がぱっくり割れて、触手がうぞうぞ出てきた、ナマズの恐ろしい姿……!


「ひぃっ……!」

 思わず小さな悲鳴を上げて、私の体が硬くなる。

 あの姿、思い出すだけで鳥肌が立つ。


 アーサーさんは、そんな私をすこし心配そうな目で見ながらも私をどこかに案内してくれる。

 ここはどこだろう?。

 見慣れない建物だけど、宿屋なのかな?

 なんとなく。


 部屋には、アポロン様、虎子さん、そして……虎子さんに抱えられているなまずがいた。

 さっきの恐ろしい姿はどこにもない。

 ナマズが、私に気づいて虎子さんに抱えられたまま、顔をこちらに向けた。


「おお、アカリよ! 目覚めたか! 心配したぞ!」

 心配?

 あんたのせいで気絶したんですけど!?

「ふむ、ワシの神力、どうじゃった? アポロンがワシにちらりと目配せしてきたのでな、とっさの判断で触手出してみたんじゃ。一発勝負じゃったが、上手くいったじゃろ? ! 感心したか!」

 ナマズが、得意げにヒゲをぴくぴくさせている、どうやら褒めて欲しいみたいだけど、


「……ヒッ」

 思わず息を呑む。

 自信作?

 あれが?

(……無理……)

 生理的な嫌悪感が、全身を駆け巡る。

 ナマズの姿が、さっきの恐ろしい姿にオーバーラップする。


「……う……う……!!」

 もうダメだ。

 涙が止まらない。

 恐怖と、気持ち悪さと、情けなさで、大きな涙の粒がこぼれてくる。

 あれ?涙が止まらない、なんでだろう。


 さっきまで、ちょっと変だけど、頼りになるかもしれないって思ってたナマズが、急に触手のお化けになっちゃったんだ。

 あの、口が割れて、うぞうぞ動く触手。思い出すだけで、全身の血の気が引く。

 身近だと思ってたものが、突然、得体の知れない恐ろしいものに変わったショックが、思っていたより大きかったのかもしれない。


「な、なんじゃ!? どうした、アカリ!? なぜ泣くのじゃ!?」

 私の突然の号泣に、ナマズが慌てている。


「ひっく……ひっく……あ、あれ……き、きもちわるい……こわい……もう、やだぁ……」

 泣きながら、か細い声で訴える。

 ナマズの触手、本当に無理……。


 私の本気の拒絶反応を見て、ナマズのヒゲが、みるみるうちにしょぼん、と垂れ下がった。

 さっきまでの得意げな顔はどこへやら、まるで叱られた子供のような顔をしている。


「……す、すまん……。そんなに、嫌じゃったか……。ワシは、役に立つと思ったんじゃが……。お主を怖がらせるつもりは、なかったんじゃ……」

 ナマズの声が、弱々しく、落ち込んでいるのが分かる。

 そこまで落ち込まれると、なんだか可哀想になってきた。

 それに、ナマズなりに、リコリスちゃんのために頑張ってくれたんだし……。


「……うぅ……わ、わかった……もう、私の前で、あ、あれ……しないなら……許して、あげる……ひっく……」

 涙声で、なんとかそう伝えた。


 その言葉を聞いたナマズの顔が、パアァァァァっと明るくなった。

 しょぼんとしていたヒゲが、ピン!と元に戻る。

「おお! 本当か、アカリ! 許してくれるのか! よかったぁ! ありがとう、アカリ! さすがワシが見込んだ娘じゃ!」

 ナマズが、虎子さんの腕のなかでぴょんぴょん跳ねている。

 虎子さんも少し嬉しそうに微笑んでくれた。


 そんな私たちを見て、アポロン様が、ふふ、と優雅に微笑んだ。

 その笑顔は、場の空気を一瞬で和ませる力がある。


「"Alright then. Now that everyone's settled down, let's get to the strategy meeting." 」

(さて、と。みんな落ち着いたところで、作戦会議といこうか)


 アポロン様の言葉で、場の雰囲気が引き締まる。

 そうだ、一番大事なのは、リコリスちゃんを助け出すことだ。

「"The safety of Miss Lycoris is our top priority. The enemy's goal is to hand her over to this 'Black Baron' person. Since their objective is to transport her unharmed, it's best not to provoke them unnecessarily."」

  (リコリス嬢の安全が最優先だ。敵の狙いはリコリス嬢を『黒爵』という人物に献上すること。無傷で運び出すのが目的だろうから、下手に刺激しない方がいい)


 アポロン様が、冷静に状況を説明する。

「"The enemy is in the bar's basement. About five guards. Armed with swords and knives. A frontal assault isn't wise. A diversion is best." 」

(敵はバーの地下にいる。見張りは5人程度。武装は剣やナイフ。正面から突っ込むのは得策じゃない。陽動がベストだろう)


「"A diversion, you say?" 」

(陽動?)


 アーサーさんが、真剣な顔でアポロン様を見つめる。

「"Yes. Arthur, Torako, and I will create a diversion. While we draw the enemy's attention, you'll rescue Miss Lycoris through another route."」

(ああ。僕とアーサー君、それに虎子君で陽動をかける。敵の注意を引きつけている間に、別のルートからリコリス嬢を救出する)


 アポロン様の言葉に、虎子さんが力強く頷く。

 そして、アポロン様はこっちを見て、日本語で話しかけてきた。

「救出組は、ナマズ君とアカリちゃん、君たちだ」


「え!?」

 思わず声が出た。私とナマズで救出組!?

「僕としては、アカリちゃんには安全な場所にいてほしいんだけどね」

 アポロン様が、少し申し訳なさそうに言う。

「でも、ナマズ君が……ほら、見ての通り、非常識すぎるから」

 アポロン様がちらりとナマズを見る。

 ナマズは「む! ワシは非常識ではないぞ!」と抗議しているが、誰も聞いていない。

「常識的な判断ができるアカリちゃんが、ナマズ君のストッパーとして必要不可欠なんだ。頼めるかな?」


 アポロン様が、私の目を見て尋ねてくる。

 その瞳は真剣だ。

 そのキラキラした瞳に見つめられると私の体の細胞がチカチカと共鳴をはじめ、つい、無意識に土下座したくなってくる。

 でも、ここで私がしっかりしないと、リコリスちゃんを一刻も早く助けなきゃ!

 そう心を奮い立たせて、カクカクの膝に力を入れ、お腹に力を込めて返事をする。


「……はい! 頑張ります!」

 私の返事に、アポロン様が満足そうに頷いた。


「"I'll devise the diversion strategy. Arthur, Torako, is that alright?"」

(陽動組は、僕が作戦を立てる。アーサー君、虎子君、いいかな?)


「承知いたしました」

 虎子さんが、凛とした声で答える。

「……ああ、分かった」

 アーサーさんも、やれやれといった風情だが、覚悟を決めた顔をしている。

 陽動組は、アポロン様、アーサーさん、虎子さん。

 救出組は、私とナマズ。作戦は決まった。


 でも……。

 虎子さん……大丈夫かな……

 虎子さんは、優しくて、美人で、でも、どこか儚い雰囲気がある。

 そんな虎子さんが、危険な陽動組に入るなんて……心配だ。


「アーサーさん……虎子さん、大丈夫でしょうか……?」

 思わず、隣に立っていたアーサーさんに尋ねてしまった。

 陽動は危険な役割だ。

 アーサーさんは、私の言葉を聞いて、一瞬、何かを考えるように目を伏せた。

 そして、ゆっくりと顔を上げ、私を見つめた。

 その瞳には、確かな信頼の色が宿っている。


「"Don't worry, Akari." 」

(心配するな、アカリ)


 アーサーさんの声は、静かだが、力強かった。

「"She's stronger than me." 」

(虎子は、俺より強い)


「……え!?」

 予想外の言葉に、私は思わず目を見開いた。

 アーサーさんより強い?

 信じられない。


 でも、アーサーさんの顔は真剣そのものだ。

 虎子さんって、一体どれだけ強いんだろう……。

 驚きで、私の頭はしばらく混乱していた


今日のまとめとか

アカリ、グロ耐性低め

なまず、アカリに嫌われると落ち込む

アーサー、実は裸彼シャツJKに脳を焼かれかけていた

虎子、実は強い

アポロン、キラキラしながら作戦をたてる

現在の場所、リコリスが捕らえられている敵のバー黒猫の髭の前の宿屋

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