表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第二章 新しいお友達
30/101

030 なまず、今後の事を考え…させられる

030 なまず、今後の事を考え…させられる


 やれやれ、アポロンのやつ、ようやく腹筋の痙攣がおさまって笑い転げるのをやめたか。

 まったく、感情の起伏が激しい神よ。

 ワシの命がけの必死の召喚劇が、そんなに面白かったとは。

 神の神秘というものを理解できんとは、嘆かわしい。


 隣のアカリとかいう小娘は、いまだに床にひれ伏しておる。

 もはや床の一部と化しておるな。

 アポロンの放つ強い陽の気に当てられたか?

 まあ、ピクピク動いてはいるし、害意はないようじゃし、放っておくか。


「さて、と」

 アポロンが目尻の涙を拭い、何事もなかったかのように居住まいを正した。

 相変わらず、やけに存在感の強い神よ。


「それで、喫茶店はどうするんだい? このままじゃ、例の『改善指導』とやらで、本当に店を畳むことになりそうだけど。そうなったら、この可愛いリコリスちゃんも路頭に迷ってしまうじゃないか。それは僕としても忍びないな」


 む。

 そうじゃった。

 そもそもの目的は、この『喫茶なまず』の立て直しじゃった。

 ワシが召喚したこの小娘が、何か良い知恵を持っていると期待したのじゃが……。


「や、やります! 私が立て直します! この『喫茶なまず』を、異世界一のオシャレスポットにしてみせます!」

 バッと効果音がつきそうな勢いで小娘が勢いよく立ち上がった。

 おっと、その格好は少々落ち着かんのぅ。

 前開きの布一枚で、そんなに元気に動かんでもよいのではないか?

 色々と危ういぞ?

 アーサーが微妙に目をそらしておるぞ?


「ふむ、威勢がいいね。その心意気や良しだ!それで、何か策はあるのかい?」

 アポロンが面白そうに小娘を見る。

「えっと、おしゃれな内装にして、壁とかパステルカラーに塗っちゃって、ドライフラワーとか飾って!インスタ映えするメニューを開発して…… ラテアートとか、どうですかね? 可愛い動物とか描いちゃうの! ナマズとか! あと、Wi-Fiは必須だし、無料クーポンとかSNSで拡散してもらって、……最終的にはチェーン展開を目指しましょう! 『カフェ・ド・ナマズ』として世界進出です!」

 小娘が、目をキラキラさせながら、身振り手振りを交えて、何やら早口でまくし立て始めた。


 ……いんすた? ばえ? ? らて……あーと? わいふぁい??ちぇーんてんかい?? せかいしんしゅつ?? 何を言っておるのか、さっぱり分からん。

 異世界の言葉か? いや、日本語のようじゃが……。

 単語の意味が全く推測できん! 呪文か何かか?

 ワシのありがたい聖水だけでは不満とでも言うのか?

 あの御神水だけで十分じゃろうに!


「……」

 アポロンから説明を受けた アーサーが、眉間に深いシワを寄せ、「こいつは何を言ってるんだ? 頭は大丈夫か?」と顔全体で語りながら怪訝な顔をして小娘を見ておる。


 以前、アーサーがいたという世界(ヴィクトリア?とかいったかの?)の「コーヒーハウス」なるものの話を聞いたことがあるが、小娘の言っておることとは、どうも様子が違うようじゃな。

 アーサーの顔には「そんなものはコーヒーではない! 断じて認めん! 邪道だ! そもそもWi-Fiとはなんだ!?」と書いてあるように見えるわい。


 リコリスだけが、天使の微笑みを浮かべ、穏やかな気のまま、

 小娘を見てこくこくと頷いておるが……リコリスよ、お主も絶対分かっておらんじゃろう。

 その優しさが、たまに心配になるぞ…。

 というか、ワシの話もちゃんと聞いておったのか?


 アーサーが、やれやれといった風に、天を仰いでから深くため息をついた。

 そして、小娘に向かって何か英語で諭すように、しかし若干呆れたように話し始めたが、小娘はキョトンとしておる。

 言葉が通じんようじゃな。アーサーは早々に諦めたように、今度はワシの方を見て、まず衛生面の問題を指摘してきた。


「"First, hygiene... that slime... seriously questionable in a kitchen. And as a doctor, hygiene is a major concern... Is that water even safe to drink? Where exactly did it come from? Don't tell me... straight from your... mouth? Seriously?")」

(まず、衛生面だ…あの粘液…キッチンにあるのは問題外だ。それに、医者として衛生面は非常に気になる…その水は飲んでも大丈夫なのか? 正確にはどこから出したんだ? まさかとは思うが…お前の…口からか? 直接? 本気か?)


 むむ……。ワシの聖なる粘液を不浄なもののように……。

 まあ、見た目はアレかもしれんが…。

 え?

 口から出したのがまずかったのか?

 それは認めざるを得んか。


 次に、食材がないこと、特にまともなコーヒー豆の入手が困難であることを訴えておる。

 そして、小娘の言っていた「らてあーと」とやらを指してか、カップの上に絵を描くような仕草をしながら、断固として首を横に振っておる。

「コーヒーとは、そんな軽薄なものではない」とでも言いたげじゃな。

 アーサーの世界の喫茶店は、もっとこう、紳士が集まって新聞を読んだり議論したりする、厳かな場所じゃったらしいからのぅ。


 頑固者め…。

 アーサーの頑なな態度とド正論に、小娘の勢いも、みるみるうちに少しずつしぼんでいくのが分かる。

 さっきまでのキラキラした目はどこへやら、「え…ダメなの…?」と不安げにしょんぼりしておる。


「まあまあ、アーサー君。固いこと言わずに。若い娘の意見は大事だよ。 インスタ映え、大事!」

 アポロンが、また面白そうに茶々を入れる。

 アポロンにかばわれたのが分かったのか、アカリはまた溶けるように土下座に戻った。


「いっそ、神様特製のメニューを出したらどうだい? 例えば、僕の聖なる光を浴びせた『アポロン・サンシャイン・ブレンド』とか、 僕の美貌を模した『太陽神アポロン・ゴールデン・パフェ』なんてのもいいかもね! 金箔とか乗せちゃってさ!」

 ……こやつ、ふざけておるのか?

  完全に面白がっておるだけじゃな!

 しかも自分の名前ばっかり!

 そんなものを出したら、それこそ役所が飛んでくるわい。

 また牢屋にぶち込むぞと怒鳴られるわ!


 すると、リコリスが、何かを思いついたように、テーブルにあった紙ナプキンにサラサラと絵を描き始めた。

 それは、木の実や、見たことのない野菜のようなものが描かれた、素朴じゃが滋養のありそうな軽食の絵じゃった。

(おお、リコリス! やはりお主が一番まともじゃ! しかも絵が上手い! )

(……ふむ。やはり、地道に、この世界にあるもので工夫を凝らすのが一番か)


 小娘の突飛な発想も、アーサーの古風な考えも、どちらもこの状況には合わんようじゃ。

 まずは足元を見ねばな。

 リコリスの描いた素朴な軽食の方が、よほど現実的じゃ。

 ワシがそう結論付けかけた、その時じゃった。


「まあ、メニューも大事だけどさ」 アポロンが、にこやかに口を挟んだ。

 その顔には「面白いこと思いついた。というか、核心を突いてやろう。そしてちょっと困らせてやろう」と書いてあるように見える。

「一番の問題は、そこじゃないかな? つまり、運転資金だよ。お金がなくちゃ、食材も買えないし、内装も変えられないだろう? 御神水とリコリス君の笑顔だけじゃ、店は回らないのさ」


 運転資金……。

 うむ、確かにその通りじゃ。

 金銭という概念は、ワシのような古い神にはあまり馴染みがないが、この世界で店をやる以上、避けては通れん問題じゃ。


「おお、アポロン! さすが太陽神! もしや、援助してくれるのか!? ぽーんと、金塊の一つや二つ! 」

 ワシは期待に満ちた目でアポロンを見た。

 こやつ、なんだかんだ言って面倒見が良いところもあるからのぅ。

 じゃが、アポロンはワシの淡い期待を無慈悲に、そして満面の笑みで粉々に打ち砕くようにあっさりと裏切っりおった。


「いやいや、勘違いしないでくれよ。僕は基本的に、お金は貸さない主義なんだ。ただでさえ、この診療所の再生と妹へのお酒の弁償でお金も神力もカツカツさ!」 にっこりと、実に爽やかに言い放つ。

 この外道神め! 絶対金持っておる!

 ワシのゴッドセンスがそう言っておる。


「な、なんじゃと……!? じゃあ言うなよ! 思わせぶりな態度を取りおって! この期待させといて突き落とす手口! 性格悪いぞ!」

 期待が大きかった分、落胆も大きい。では、何のために資金の話など……。

「まあ、絶対に貸さないわけじゃないけどね」

 アポロンは、悪魔のように、いや、悪魔よりタチが悪そうに楽しそうに言葉を続けた。


「貸してもいいけど……僕の利息は、とーっても、凄く重いよ? 君のその大事なヒゲとか、リコリスちゃんの笑顔とか、そういうので払ってもらうことになるかもね? くくくっ」


(ヒゲ!? こやつ悪魔か!? 人の心とかないんか!?)


 その言葉を聞いた瞬間、隣にいたアーサーの表情が、苦虫を百匹ほど噛み潰した上にレモン汁をぶっかけられたかのように苦々しく歪んだのが分かった。

 何かを言いたげに口を開きかけたが、過去の経験が囁いたのか、結局、固く唇を結んで黙り込んでしもうた。

 アポロンから何か借りた経験でもあるのか、あるいは神に借りを作ることの意味をよく理解しておるのか……。

 すこしだけに同情したぞ。

 アーサーよ、お主、苦労しておるのう…。心中お察しするわい…。


 神の貸し……。

 それは、単なる金銭の貸し借りでは済まぬことが多い。

 特に、アポロンのような気まぐれで力の強い神となれば、その見返りは計り知れない。

 下手をすれば、ワシやリコリス、あるいはこの喫茶店そのものが、アポロンの気まぐれに未来永劫縛られることにもなりかねん……。

 それは、絶対に、避けねばならぬ!


 ワシのヒゲなんじゃぞ!あとついでに母上の形見の店なんじゃぞ!

 ワシがうんうんと唸り、難しい顔をしておると、アポロンはそんなワシの様子を実に愉快そうに面白そうに眺めながら、ポンと手を打った。


「まあまあ、難しい話は一旦置いておこう! そんな顔しないでよ、ナマズ君。 それより、今日はせっかく新しい仲間が増えたんだ。

 アカリちゃんの歓迎パーティーといこうじゃないか!

  夕方、またここにおいでよ。僕らが腕によりをかけてご馳走を用意しておくからさ! 」


 歓迎パーティー?

 ご馳走?

 アポロンはそう言うと、有無を言わさぬ笑顔で、ワシたちを部屋の外へと促した。

 これは……さりげなく追い出されておるな?


「……どうせ、準備するのは俺なんだろうが……」

 アーサーが、深いため息とともに、ぼそりと英語で呟いたのが聞こえた。

 ワシは同情の念を禁じえなかった。

 アーサーよ、強く生きろ…。ワシは応援しておるぞ…


 部屋を出ようとするワシたちに向かって、アポロンが思い出したように声をかける。

「ああ、そうだ。アカリちゃんの服だけど、タモンの本屋に行けば、何か面白いものが見つかるかもしれないよ。」

 タモンの本屋? 服が? まあ、行ってみる価値はあるかもしれん。


「じゃあ、また夕方にね! 楽しみにしてるよ! 」

  アポロンは、実に楽しそうに手を振った。

 その笑顔が、やけに胡散臭く、そして何かを企んでいるように印象に残った。

 まったく、食えん神よ。


 ワシは、この先どうなるんじゃろうか……。

 不安しかないわい…。



今日のまとめとか

なまず、お金が大事と気づく

アカリ、裸ガウンで土下座中

アポロン、貸しをつくると高くつくらしい

アーサー、ヴィクトリアから来た

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ