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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第二章 新しいお友達
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022 アカリ、神さまとお話しする

022 アカリ、神さまとお話しする


(……娘よ)


 ん……?

 なに……?

 誰の声……?


 さっきまでペカテウぬいぐるみを殴りつけていたはずなのに、なんだか奇妙な感覚。  

 体は鉛のように重いのに、意識だけがふわふわと暗い水の中を漂っているみたい。

 さっきまでの怒りはどこへ行ったんだろう…?


 頭がぼーっとする…。


(……娘よ、ワシの声が、聞こえるか……?)

 また聞こえた。

 低く、落ち着いた、不思議と耳に心地よい声。

 どこか古めかしい、おじいちゃんみたいな響きだ。

 

 でも、やっぱり耳からじゃなくて、頭の中に直接響いてくる。

 脳みそに直接イヤホン突っ込まれてる感じ?

 気持ち悪い…。  

 夢……なのかな。

 あのムカつくカップルのことを考えすぎて、とうとう頭がおかしくなったとか?

 それか、呪いが強すぎて変な電波でも受信しちゃった?


「……聞こえてるけど……どちらさまです? ていうか、人の夢に勝手に入ってこないでくれる? プライバシーの侵害なんですけど」  

 まあ、夢の中ならどうでもいっか。

 どうせ変な夢だろうし。

 とりあえず返事をしてみる。


(む? プライバシー? 神たるワシにそのようなものは通用せんぞ? ワシは、ナマズ。この地の片隅にて、古くより人々の営みを見守りし者……まあ、平たく言えば、神じゃ)


 ……は?

 なまず?

 神?

 ナマズって、あの、川底とかにいる、ヒゲの生えたぬるっとした魚の?  

 それが神様?

 しかも、さっき私が全力で呪……いや、お願いをかけた、あの寂れたお社の?


  ……え、マジで? ナマズ……?  

 神様ってもっとこう、龍とか、火の鳥とか、せめて白い狐とか、そういう神々しい感じじゃないの?

 ナマズかぁ……。  

 なんか、こう……地味っていうか、マイナーっていうか、正直……ハズレ感がすごいんですけど……。

 

 いやいや、夢だし!

 相手がナマズだろうがカブトムシだろうが関係ない!

  ……はず。

 うん、きっとこれはただの疲労が見せる幻覚だ。


(……ぬぅ……。何かとてつもなく失礼なことを考えておる気配がするが……。まあよい)

 ナマズ神は、少し咳払いをして気を取り直したように続けた。

(それより娘よ、お主、相当強い『思い』を放っておったな? 久方ぶりに、ワシの所までビリビリと響くほどの強烈な祈りじゃった。なかなか見所があるではないか!)


 うっ……。やっぱり、あの呪詛じみた願い、全部筒抜けだったんだ。

「クズ男不幸になれ」とか「ミカの前髪変になれ」とか、全部聞かれてたんだ…。

 恥ずかしすぎる…。  

 まあ、あれだけ全力で祈ったんだから、聞こえててもおかしくないか……って、相手はナマズだけど。       

 どうせなら、もっとキラキラしたポジティブな願いを聞いてほしかったけど、自業自得だよね。

「素敵な出会いがありますように」とか、そういう時に来てほしかった…。


「……まあ、ちょっと人生に絶望するレベルで色々ありまして。それで? ナマズの神様が、わざわざ私の夢にまで出張ってきて、何かご用ですか? 暇なんですか?」  

 どうせ夢の中だ。少し強気に出てみる。  

 相手が(自称)ナマズの神様なら、多少失礼な態度でも許される……かもしれないし?

 バチが当たってもナマズだし、大したことなさそうだし。


(むむ…暇ではないわい! うむ。実はお主に、頼みがあるんじゃ)

 ナマズ神の声が、心なしか、しょんぼりとした響きを帯びる。


 あれ?

 急に弱気になった?


(ワシ、訳あってのぅ、異世界で『喫茶なまず』なるものを営んでおるんじゃが……これが、どうにもこうにも、上手くいかなくてな、もう首が回らん…いや、ヒゲが回らんのじゃ…)


 喫茶店?

 異世界で?

 ナマズが?

 情報量が多すぎて処理しきれない!

 ちょっと待って!  

 神様のくせに、喫茶店経営って……。

 しかも異世界でって、スケールでかいんだか小さいんだか…。  

 しかも店名が『喫茶なまず』って、そのまんま!

 センスどうなってんの……。もうちょっと捻りなさいよ…。


(異世界の役所みたいなところから、既に二度も『改善指導』とやらを受けてしもうてな……。『次はない』とまで言われておる始末じゃ。ワシなりに、赤字覚悟で心を込めた商品を提供しておるつもりなんじゃが……何がいかんのか、さっぱり分からんのじゃ……)


 ええ……。

 神様のくせに、経営下手すぎでしょ……。

 しかも、原因が分からないって。

 でも……なんか、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、同情心が湧いてきた。

 このナマズ、本気でポンコツなのかもしれない…。

 相手はナマズだけど。

 しょんぼりしてるナマズって、想像するとなんか面白いかも。

 ヒゲがしょんぼり垂れてる感じ?


(そこでお主じゃ! あの強烈な『思い』……。何かを成し遂げんとする、その強い意志を感じた。藁にもすがる……いや、人にもすがる思いで、お主に声をかけてみたんじゃ。どうか、ワシの喫茶店を助けてはくれまいか? )


 助けるって言われても……。  

 私、喫茶店経営なんてやったことないし。

 ていうか、高校生だし。  

 でも……。

 さっきまでの怒りが、少しずつ別の感情に変わっていくのを感じる。  

 これは……もしかして、チャンスじゃない?


 ハズレっぽい神様だけど、神は神。

 なんかすごい力を持ってるかもしれないし!

 あの呪いを叶えてくれるかもしれないし!  

 それに、異世界ってちょっと面白そうかも…。

 コウタのことなんて、忘れられるかもしれないし…。


「……ふーん。助けてあげてもいいけどさ」

 私は、企むようにニヤリと口角を上げて言った。  

 どうせ夢なんだし、無茶な要求したってバチは当たらないでしょ! ここで一発逆転よ!

「見返りはどうしてくれるわけ? タダ働きは絶対お断りだからね。」


(み、見返り……? む、無論じゃ! 助けてくれるというなら、お主の望むものを……できる範囲で、とはなるが……)


 ナマズ神の声が、ちょっとだけ焦ってる。分かりやすっ!

 よしよし、いい感じ。  

 ナマズでも、ちゃんと取引はできるみたいだ。

 チョロいかも、この神様。


「じゃあ、決まりね!」

 私は、ここぞとばかりに要求を突きつけた。


「私に、超絶イケメンを紹介すること! 身長180cm以上、髪の毛サラサラで、切れ長の目で、ミステリアスな雰囲気で、スポーツ万能で、頭も良くて、性格も良くて、お金持ちで、女の子に優しい、そういうパーフェクトなイケメン! 少女漫画に出てくる王子様みたいなやつ! 」

 

 コウタみたいなクズ男のせいでできた心の傷は、最高の男で上書きするしかない!

 ナマズ神でも、イケメンの一人や二人、どうにかできるでしょ!

 ……たぶん。


(い、イケメンを紹介じゃと……? しかも条件が細かいのぅ…!)

 ナマズ神の声が、急に弱々しくなる。

(……わ、ワシ、そのような知り合いはおらんのじゃが……)


 チッ、やっぱりハズレかよ! 使えない神様! 期待した私がバカだった!


(……ん? おお、そうか? アイツで良いのか? ばっちぐ!とな!?)


 突然、ナマズ神が誰かと話しているような気配がした。

 通信……?

 夢の中なのに?

 誰と話してんの?


(コホンッ)

 ナマズ神が咳払いをする。

(……いや、すまんすまん。心当たりが一人だけおったわい! 金髪のさらさらイケメンで、背も高くて、たぶん、ものすごい金持ちじゃ。性格も……アーサーが、良い性格しているって言っておったし……たぶん。根はいい奴…のはずじゃ…うん)


 なんか、歯切れ悪いな……。

 大丈夫なの、それ?

「たぶん」とか「はず」とか多すぎ!

 ちょっと引っかかるけど……まあ、イケメンならいっか!

 贅沢は言うまい!


(……よかろう! 約束しよう! ワシらの『喫茶なまず』の立て直しを手伝ってくれた暁には、必ずやお主の望む『超絶イケメン』とやらを引き合わせよう! ワシの神としての名誉にかけて!)


「よっしゃ! 交渉成立!」

 私はガッツポーズをした。  

 夢のたぶんとはいえ、最高の気分! ナマズ神、意外と話がわかるじゃん!

 ポンコツっぽいけど!


(では、早速じゃが……契約成立ということで、こちらへ来てもらうぞ! 歓迎するぞ、我らが救世主よ!)


「え? こっちって、どこに……? 心の準備が…!」

 私の言葉が終わるか終わらないかのうちに、視界がぐにゃり、と歪んだ。



今日のまとめとか

アカリ、なまずと交渉する

なまず、経営が致命的に下手


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