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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第二章 新しいお友達
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021 アカリ、振られる

021 アカリ、振られる


「悪い、アカリ。別れてくんない?」


 は?

 放課後の校舎裏。


 夕日がやけに眩しくて、目の前のコウタの顔が妙にキラキラして見えた。

 あの時、告白してきた時と同じように。あの時は、そのキラキラが嬉しかったのに。

 それが無性に腹立たしい。


 今、なんて言った?

 こいつ。聞き間違い?


「……は? 別れるって……なんでよ!? 意味わかんないんだけど!」

 思わず声が裏返る。

 心臓がドクドクうるさい。

 頭が真っ白になりそうだ。


「いやー、なんか違うかなって。つーかさ、アカリ、付き合ってんのにキスもさせてくんねーじゃん? 俺、そういうの待てないタイプなんだよね」

 コウタは悪びれもせず、むしろ面倒くさそうに頭を掻いた。

 まるで、私が粘着質なストーカーか何かのように。


 はぁ!? キス!? 付き合ってまだ1ヶ月だし!

 それに、そういうのはもっとこう……ロマンチックな感じでするもんでしょ!?

 夕暮れの帰り道とか!

 文化祭の後とか!

 そういうのを夢見てたのに!


 なんなのその言い草!

 まるで私が悪いみたいじゃん!

 待てないタイプって何よ!

 ファストフードか何かと勘違いしてんじゃないの!?


「そ、それは……! タイミングとか、あるでしょ! 心の準備とか!」

「まあ、そういうワケだから。じゃあね」


 コウタは一方的に話を打ち切ると、ひらひらと手を振って背を向けた。

 そして、物陰で待っていたらしい、隣のクラスのミカと腕を組んで、ヘラヘラ笑いながら去っていく! 最初から、これが目的だったんだ!  


 ミカがこっちを見て、勝ち誇ったように、フンッ、と鼻で笑ったのがハッキリと見えた!

 あの女…! いつも猫なで声でコウタに媚び売ってたのは知ってたけど! まさか本当に!


 ――――――ぶちぃっ


 頭の中で何かが決定的に切れる音がした。

 怒りが、まるで沸騰したマグマのように、腹の底から一気に噴き上がってくる!


 なんなのアイツら!

 最低!

 最悪!

 クズ!

 人間のクズ!

 ゴミ以下!


 人の気も知らないで!

 こっちは初めての彼氏で、手繋ぐのだってドキドキしてたのに!

 帰り道、どっちから手をつなごうか、そればっかり考えてたのに!

 キスさせないから別れる!?

 ふざけんな!!!!!!


 そもそも、最初に「アカリちゃんが好きだ! 付き合ってくれ!」って告白して来たのはオマエだろうがぁ!!

 あの時の言葉は全部嘘だったってわけ!?


 ムカつく!

 ムカつくムカつくムカつくムカつくムカつく!!!!!!


 はらわたが煮えくり返るってこういうことか!  

 近くを通りかかった下級生が、私の形相を見て「ヒッ!」と小さな悲鳴を上げて石のようにかたまってたのが視界の端に入ったけど、今はそんなことどうでもいい!


 見せもんじゃねぇぞゴルァ!


 気づいたら、私はもはや人間とは思えない獣みたいな唸り声を上げながら駐輪場までダッシュして、愛車のママチャリに、憎しみを込めて蹴りつけるように飛び乗っていた。


 ペダルを、ありったけの怒りと憎しみを込めて、猛烈な勢いで漕ぐ!

 ジャコジャコジャコジャコ!!

 ギアが壊れそうな悲鳴を上げている!

 知るか!


 生暖かい風が顔に叩きつける!

 涙で視界が滲む!

 髪がぐちゃぐちゃになる!

 スカートがめくれ上がる!

 全部どうでもいい!


 ただただ、この煮え繰り返る怒りをぶつけるように、ペダルを踏みしめる!

 あのクソバカップル!

 今頃どこかでイチャイチャしてんでしょ!


 キィィィィィィィィィッ!!


 想像しただけで吐き気がする!

 道端で気持ちよさそうに日向ぼっこしてた野良猫が、鬼のような形相で突進してくる私を見て、シャーッ!と全身の毛を逆立てて威嚇した後、脱兎のごとく逃げていった!


 うるさいんじゃ!

 通行人(特にカップル!)も、なんかヤバい奴が来たって感じで、サーッと道を開けていく!

 邪魔する奴は轢き殺すぞゴラ!


 帰り道、ふと視界の端に、古びた小さなおやしろが入った。

 普段は気にも留めない、地域の片隅にある、寂れた神社。

 鳥居は色褪せて、境内には雑草が生い茂っている。


 ……そうだ。神頼みだ。

 いや、呪いだ!


 私は急ブレーキをかけ、タイヤをロックさせながら砂利道に自転車ごと突っ込んだ!

 ガッシャーーーン!と派手な音を立てて自転車を乗り捨てて、お社の前に仁王立ちになる。

 息が荒い。

 心臓がまだバクバク言ってる。


 埃っぽい賽銭箱には、財布に入っていたけっこうな額の小銭を、ジャラジャラと音を立てて叩きつけるように全部ぶち込んだ!

 これで文句ないでしょ!

 私の全財産なんだから!  


 これだけ入れたんだから、ちゃんと聞きなさいよね!  

 パンパンッ! と、ありったけの力を込めて柏手を打つ!

 手のひらが真っ赤になって、ジンジンする!

 目を閉じて、全身全霊の憎悪と呪詛を込めて、心の底から祈る!

 届け! この想い!


(何の神様か知らないけど、聞いて! あのクズ男、コウタがとことん不幸になりますように! ミカともソッコーで別れて、ミカはミカで新しい彼氏を作るけど、ソイツが超絶DV野郎で、コウタはそれを指咥えて見てるしかなくて、惨めにボロクソに振られて、大雨に打たれてずぶ濡れになって、なけなしのお金が入った財布落として、拾った人に中身だけ抜かれて交番に届けられて、スマホも水没して、データ全部消えて、飼ってたハムスターにも一番懐いてたはずの本気で噛まれて、指が腫れ上がって、SNSで過去の恥ずかしいポエムとか、せこい悪戯で世界中に恥を晒して、アカウント炎上して、最終的には二人まとめて不幸のどん底の、そのまた底の、ヘドロの中に落ちてますように!!!!!!! アーメン! いや、なんまいだぶ! 知らんけど、とにかく不幸になれ! バーーーーーカ!!)


 はーっ、はーっ!

 肩で息をする。

 喉がカラカラだ。


 少しはスッキリした!

 ……わけないけど、ほんの少しだけ、ほんのコンマミリくらいだけ、マシになった気がする。気がするだけだ。

 私は乱暴に自転車を起こすと、泥だらけになったサドルを忌々しげに払い、再び煮えたぎる怒りを抱えたまま、家路を急いだ。

 家に着いたら、コウタからもらった物は全部燃やしてやる!


 その夜。  

 部屋でペカテウぬいぐるみを原型がなくなるまで殴りつけ、コウタのSNSを監視して悪態をつき、ベッドの上でブリッジしたり奇声を発したりしながら転がり回って悪態をつき続け、涙と鼻水と怒りでぐちゃぐちゃになり、疲れ果てた私は、いつの間にか眠りに落ちていたらしい。  

 怒りでぐちゃぐちゃになった頭が、重く、深く、底なし沼のような暗い微睡みの中に沈んでいく。

 もう何も考えたくない…。


 ………。

 ………。

(……娘よ)


 ん……?

 なに……?

 誰……?

 頭痛い…。


(……娘よ、ワシの声が、聞こえるか……?)


 どこからともなく、低く、古風な響きを持つ声が、頭の中に直接響いてくるような、奇妙な感覚。

 まるで、古い井戸の底から響いてくるような、それでいて脳の芯を直接震わせるような…。

 夢……?

 それにしては、やけにはっきり聞こえるな…。


 うるさいんだけど…。

アカリ、振られる

アカリ、祈る

アカリ、何者かから呼びかけられる。

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