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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第一章 始まりの物語
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020 リコリス、アポロンとお茶を飲む

020 リコリス、アポロンとお茶を飲む


 なまず様の決意に満ちた言葉に背中を押され、私も皆さんと一緒に瓦礫の片付けを手伝いました。

 神様や屈強な方々が力を合わせる姿は頼もしく、夕方前には、あれほど絶望的に見えた瓦礫の山は、きれいに分別され、運び出されていきました。


 空中で回転を続けるなまず様の周りには、元の喫茶店のものだったであろう資材が集められ、巨大な繭のような形を作っています。

 一段落して、皆さんが少し離れた場所で休憩を取っていると、どこからか、まるで魔法のように優雅なティーセットと白いテーブルを用意したアポロン様が、私に柔らかな笑みで手招きをしました。


「やあ、リコリス嬢。少し休憩しないかい? 太陽の恵みをたっぷり浴びた、とびきり美味しいお茶を用意したんだ」

 キラキラと輝く金髪、彫刻のように整った顔立ち。

 その笑顔は眩暈がするほど美しく、私は恐縮して、どうしていいか分からなくなってしまいます。

 それでも断ることもできず、促されるままにアポロン様の向かいの席に座りました。


 差し出された繊細な装飾のティーカップからは、甘く優しい、陽だまりのような香りが漂ってきます。

「どうぞ召し上がれ。あいにく、このお茶に合うとっておきのクッキーを切らしていてね。それはまた、今度のお楽しみ、ということで」 そう言って、さりげなくウインクするアポロン様。

 その仕草一つ一つが、まるで絵画のように完璧で、見ているだけで胸が高鳴ります。


  勧められるままに、そっとお茶に口をつけると……今まで感じたことのない、芳醇な味と香りが、舌の上で優雅に踊りました。

 あまりの美味しさにびっくりして固まっている私を見て、アポロン様は小さな悪戯が成功したように微笑まれました。


「それにしても、なまず君は凄いね。彼ほどの力があれば、全く新しく建て直す方が遥かに楽なはずなのに。わざわざ元の欠片を集めて組み直すとは……よほど、この場所に込められた想いを大切にしたかったんだろうね」 アポロン様の言葉に、なまず様がしてくれたことの本当の意味を少しだけ理解できた気がしました。

「さて、リコリス嬢」

 アポロン様は、優雅な仕草でお茶を一口飲むと、その穏やかな、しかし全てを見通すような瞳で私を見つめ、尋ねました。

「これから、君はどうするつもりなんだい?」


 その問いに、私の心臓が氷水で掴まれたように、どきりと冷たく跳ねました。

 これから……。


 考えないように、必死に蓋をしていた、一番向き合いたくない問いです。

 アルマン黒爵様から逃げてきたけれど、きっと追手が来る。

 捕まれば、二度と日の光を見ることはできないかもしれない……。


 それに、もし継母様たちに見つかったら? あの冷たい侮蔑の視線。「役立たず」「汚らわしい」。そんな言葉で、また私の心を切り刻むのでしょうか。

 あの家に私の居場所なんて、もうどこにもない。


 私は、誰からも必要とされていない、ただ邪魔なだけの存在……。

 行く当ても、頼る人も、お金も、何も無い……。

 私の未来は、目の前の瓦礫の山のように、暗く、どうしようもなく、希望なんて欠片も見えないものにしか思えません。

 答えに詰まり、俯いてしまう私。

 また、あの黒く冷たい靄が、心を覆い尽くそうとします。


 そんな私の様子を見て、アポロン様は何かを察したように、その声に深い慈しみを込めて言いました。

「……無理に話す必要はないさ。ただ、覚えておくといい。どんなに暗く、長い夜にも、必ず朝陽は昇る。そして、君自身が、心の奥底で希望を捨てない限り、道は……」

 アポロン様が、何か温かい言葉で私を励まそうとしてくれた、まさにその瞬間でした。


パアァァァ……ッ!


 今まで瓦礫を集めて回転していた、なまず様の繭が、突如として七色の眩い光を放ち始めたのです!

 まるで、夜明けの太陽が、凝縮された光と共に目の前に現れたかのように!

 光がゆっくりと収まった時、私たちの目の前には……信じられない光景が広がっていました。


 そこには、あの懐かしい、母の喫茶店が、以前と寸分違わぬ姿で、夕日を受けて静かに佇んでいたのです。

 壁の小さな傷、窓辺に置かれていた色褪せた小さな植木鉢、そして、あの優しい木の扉まで……。

 まるで、長い夢から覚めたかのように。

 瓦礫の山だった場所に、温かい記憶そのものが、再び形を持って、そこに在ったのです。


「……あ……あ……」

 声にならない嗚咽が、私の口から漏れました。涙が、とめどなく溢れてきます。

 今まで忘れていた記憶が、建物のいたるところに思い出として残っていました。


 あの入り口の傷はお父様が荷物をぶつけた時に付けたキズ

 あのカウンターの向こうではお母様が微笑みながらお茶を淹れてました。

 そして、確かに私はその扉から父と母が笑顔で私を迎えてくれた事を覚えています。

 そんな扉が開いて中からヘトヘトになりながらも、どこか誇らしげな顔で、なまず様がひょっこりと顔を出しました。


 力を使い果たしてしまったのでしょうか、なまず様の乗っている盥がゆらゆらと頼りなく揺れています。

 それでも、その目には、やり遂げた満足感と、優しい光が宿っていました。


「ふぅ……どうじゃ、娘よ! 見事に元通りじゃろう!」

 なまず様は、少し息を切らせながらも、ニカッと笑って言いました。


「ここからじゃ! ここが、お主とワシの新しい始まりの場所じゃ! なあ、娘よ。これから、よろしく頼むぞ!」

 なまず様の力強い、そして温かい言葉と、目の前に建つ、母の温もりが残る喫茶店。

 まったく似ていないはずなのに、なまず様に亡き父と母の面影を感じた気がしました。


 私の心の中に、確かな、そして眩しいほどの希望の光が灯ったのを感じました。

 これから何が起こるのか、まだ分かりません。

 たくさんの困難が待ち受けているかもしれません。


 でも、きっと、何か素敵なことが始まる。

 そんな確かな予感が、私の全身を、優しく駆け巡るのでした。


今日のまとめやらなんやら

リコリス、小さいころまで住んでいた喫茶店を思い出す。

アポロン、紅茶にはこだわる。

なまず、粉々になった喫茶店を組みなおす、実はこっそり隠し部屋とか作ったりしてる。

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