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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第一章 始まりの物語
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019 リコリス、瓦礫を集める

019 リコリス、瓦礫を集める


 五体投地のまま震えていたなまず様。

 ふと、その震えが止まりました。

 そして、ゆっくりと顔を上げたなまず様の目に、先程までの弱々しさは消え、まるで燃え上がるような、強い闘志の光が宿っていました。

「……娘よ! ワシは、決めたぞ! ワシは、やる!!」 なまず様の周りに、メラメラとやる気の炎が見えたような気がしました。

「少し離れておれ!」

 有無を言わせぬ力強い声。


 私は、ただコクンと頷いて、言われた通りに一歩、後ろに下がりました。

 なまず様は、ぴょん、と軽やかに元のたらいの中に戻ると、その小さな体から放たれる闘志を、さらに燃え上がらせました。


 私の目にも、なまず様の周りに七色に輝く光の揺らぎが見えます。

 まるで、小さな太陽のようです。


「ワシは今から、この瓦礫を元に、店を組み直す! 娘よ、出来る限りで良い、遠くに飛んでしまった元の店だったであろう物を、見つけてこちらに持って参れ!」

 そう叫ぶと、なまず様は盥からふわりと浮き上がり、空中でゆっくりと回転を始めました。

 その回転が速度を増すにつれて、周囲の瓦礫が、まるで磁石に吸い寄せられるかのように、なまず様を中心にして、ものすごい勢いで集まり始めたのです!


 私は、目の前で起こっている信じられない光景に、ただ呆然としていました。

 けれど、なまず様の先程の言葉を思い出し、

 はっと我に返りました。

 そうだ、私も手伝わなくては!


 私は、遠くに吹き飛んでしまった、元の喫茶店のものだったかもしれない建物のカケラを探しに、瓦礫の山の中を駆け出しました。

 壁の一部だったかもしれない板、カウンターの破片らしき木材、歪んだ窓枠……。

 見つけられる限りのものを両手に抱え、なまず様の元へ戻って来てみると、そこにはタモン様が立って、空中で瓦礫のまゆのようになりながら回転を続けているなまず様を、感心したように見上げておられました。


「リコリス嬢よ、これは一体……?」

 私が戻ってきたのに気づいたのか、タモン様は視線をなまず様へ固定したまま、私に尋ねられました。

 私は急いで木の棒を手に取り、地面に文字を書きました。


『なまずさまが たてものを くみなおして いらっしゃいます』

 それを見たタモン様は、私の書いた文字と、空中で回転する瓦礫の繭を何度か見比べ、そして、せきを切ったように、豪快に笑い出されました。


「はっはっは! なるほど、なるほど! これは……途方もない立体パズルというわけか! まさに神業! 天晴れ! 実に天晴れだ! なまず殿は、実に凄いお方だな!」

 そう言うと、タモン様は自身の太い膝をポンっと景気良く手で打ちました。

「リコリス嬢よ、感心している場合ではなかったな。私も手伝おう。瓦礫はこちらへ持ってくれば良いのだな?」


 タモン様の、まるで岩山のような筋肉質な体が、こちらにグンっと迫ってきました。

 その迫力に、私は慌ててコクコクと何度も頷きます。


「よし! どうせなら、アポロン殿やアーサー殿も巻き込もう! 人手は多い方がよかろう!」

 ガハハと快活に笑い、タモン様はアポロン様たちがいるであろう方角へ駆け出していきました。

 それから、どういう流れになったのかは分かりませんが、気がつけば、アポロン様も、アーサー様も、そしてアレク様まで、皆が集まって瓦礫の運搬や選別を手伝い始めていました。

  神様や屈強な男性陣が、文句を言いつつも、一生懸命に瓦礫を運んでいる姿は、少し不思議で、でも、なんだか温かい気持ちになりました。


 作業の途中、いつの間にか、可愛らしい犬耳と鳥の翼を持つ女の子も、手伝ってくれていました。

 彼女は、私が額に汗して瓦礫を運んでいるのを見ると、小さな体でトテトテと近づいてきて、 「そこな娘よ! 炎天下での作業は、帽子と水分補給を忘れるでないぞ!」 と、少し偉そうな、でも優しい口調で言って、可愛らしい麦わら帽子と、冷たい水の入った水筒を差し出してくれました。

 私が二つを受け取って、深々とお辞儀をしてお礼を伝えると、彼女は満面の笑みで「うむ!」と満足そうに頷き、瓦礫を運んでいる優しそうな男性の元へ、嬉しそうに駆け寄っていきました。


 皆で力を合わせて瓦礫を片付けていくと、作業は驚くほど早く進みました。

 特にタモン様の働きは凄まじく、一人で巨大な瓦礫を軽々と運び、みるみるうちに山が小さくなっていきます。まるで、人間型のゴーレムのようでした。

 そんなわけで、夕方前には、散乱していた瓦礫の分別と、なまず様の元への運搬は、ほとんど終わってしまったのです。


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