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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第一章 始まりの物語
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017 アーサー、目覚める

017 アーサー、目覚める


 う……頭が痛い……。

 昨夜は一体……?

 確か、戦闘が終わって、この店に来て……それから……?


 重い瞼をこじ開けると、見慣れたバー「ネクタル」のカウンターが目に入った。

 どうやらカウンター前の床で寝てしまっていたらしい。

 ……ん?

 床?

 なんでオレは床に……しかも、正座?

 昨夜、アポロンの奴に無理やり正座させられたまま、疲労困憊で意識を失ったんだったか……。

 最悪の目覚めだ。


 ガチガチに固まった体を何とか起こそうと隣を見ると、そこには上半身裸でネクタイを鉢巻にしたアレクが、同じく正座させられていた。

 その向こうには、アポロンとタモン殿、そしてあのなまず神と見知らぬ少女まで、ずらりと行儀よく(?)正座しているではないか。

 なんだこの異様な光景は!?


「あら、おはよう、アーサー君。よく眠れたかしら?」

 凛、とした声に顔を上げる。

 そして、オレは激しく後悔した。


 カウンターの椅子に腰を掛け、スラッとした脚を組む美女神。

 その表情は完璧な笑顔。

 だが、目が全く笑っていない。

 背後には、絶対零度のオーラと、何か黒いモヤのようなものまで見えている気がする……!

 ヘベ様の瞳の光彩が、怒りで黄金色のマグマのように妖しくも美しい光でうねっている。

 美人が怒ると怖いとはよく言うが、美人な女神(しかも酒と青春の女神)が怒ると、怖いなんてレベルじゃない!

 これは……本気で死ぬかもしれない!


 横目で隣を見ると、アレクが死人のような顔色で、生まれたての小鹿のようにぷるぷる震えている。

 無理もない。

 ここは奴の職場であり、ヘベ様は直属の上司(?)みたいなものだ。

 その向こうでは、タモン殿がまるで切腹前の 武士のように、神妙な顔つきで俯いていた。

 微動だにしない。

 さすがは軍神の分霊、覚悟の据わり方が違う。


 一番向こうのアポロンが、いつものキラキラしたイケメン笑顔で何か弁解しようと口を開きかけた、その時。

 ヒュンッ!

 鋭い風切り音と共に、アポロン神の耳元を何かが掠め、背後の壁に突き刺さった!

 見れば、一本の投げナイフだ!

 ヘベ姉御が投げたのか!?

 いつの間に!?

 アポロンの頬に、ツー、と一筋の赤い線が走る。

 笑顔のまま固まるアポロン神。

 笑顔のまま、額から汗が滝のように噴き出すアポロン。


……原因は、すぐに分かった。

 オレたちの周りに散乱する、無数の空になった酒瓶だ。

 それも、普段はカウンターの一番奥に、鍵付きの棚に大切そうに飾られている年代物の高級酒ばかり……。


 そうだった。

 この世界のルールとして、いくら神であろうとも、元の世界の物品をそう簡単に持ち込むことは出来ない。

 神々は、世界の綻びのようなものを見つけ、そこから何年も、あるいは何百年もかけて、自らの力と人格の一部を送り込み、「分霊ぶんれい」と呼ばれる存在を作り出すのだという。

 アポロンが言うには、ボトルシップを作るようなものらしい。

 長い年月と手間がかかる、と。

 持ってこれる物品と言えば、自らの体の一部と言えるくらいに自らと関わりが深い神具くらいの物なのだ。


 この床に無残に転がっている酒の空き瓶たちは、目の前で絶対零度の笑顔を浮かべるヘベ様が、長い年月をかけてこつこつと、それこそ血の滲むような努力でこの世界中から集めてきた宝物なのだ。

 それが、一晩で……おそらく、この三柱の神によって、呑み尽くされた。


 怒らないわけが無い!

 たとえ相手が異母兄だろうと、軍神だろうと、大鯰(?)だろうと、容赦するはずがない!


 直接関係ないはずのオレも、冷や汗が滝のように背中を伝うのを感じる。

 昨夜、オレは早々に寝落ちしていたはずだが、この状況に巻き込まれない保証はない!


「……さて、と」

 ヘベ様の、どこまでも甘く、しかし恐ろしく低い声が店内に響く。

「昨夜の出来事について、少し確認させてもらうわね」


 そこから始まったのは、尋問という名の断罪劇場だった。

 オレが寝ている間に、既に一通りの事情聴取は終わっていたらしい。

 ヘベ様は、淡々と、しかし一言一句に凄みを込めて、昨夜の出来事をなぞっていく。


 なまずが世界の綻びを覗いたこと。

 少女が井戸に落ちたこと。

 なまずが少女を助けたこと。

 オレがなまずを襲ったこと(弁明しようとしたらナイフが飛んできたので即座に認めた)。

 その後の戦闘、そしてこの店での大騒ぎ……。


 アポロンが何か言い訳じみたことを口にするたびに、どこからともなくナイフが飛んできて彼の口を物理的に封じる。

 もうアポロンは諦めたのか、青い顔で床のシミを数えている。


 重苦しい沈黙の中、ヘベ様による事実確認が終わる。

 そして、彼女はゆっくりと息を吸い込み……。

 次の瞬間、店全体が震えるほどの、凄まじい声量で叫んだ!


「お前ら全員…………有罪じゃぁぁぁぁーーーーーっ!!!」


 その声は、もはや女神のものではなく、地獄の底から響く断罪の宣告そのものだった!

 オレはあまりの衝撃に、正座したまま意識が飛びそうになった。

 アレクは完全に白目を剥いている。

 アポロンは滝のような汗を流している。

 タモン殿ですら、わずかに肩を震わせている。


……終わった。完全に終わった……。

 オレたちの運命は、今、決まったのだ……。


今日のまとめや裏話

ヘベ、帰ってきたらコレクションの半分以上が雑に飲みつくされていた。

ヘベ、旦那はヘラクレス

神具、外の世界から神が体の一部として持ち込む

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