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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第一章 始まりの物語
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016、アレク、頭を抱える。

016、アレク、頭を抱える。


 最悪だ……。

 この世に神は居なかった。


 いや、目の前に三柱(と一匹?)いるんだが、こいつらはもはや悪魔の類だ。

 いや、悪魔の方がまだマシかもしれん……。


 最初のうちは、本当に良かったんだ。

 カウンターにアポロンとタモン様、たらいに入ったなまず神。

 少し離れたテーブル席に、見知らぬ少女。

 そして床には正座させられたままのアーサー。


 皆、昨夜の激闘の疲れもあってか、静かに飲み物を口にしていた。

 タモン様が中心となって、昨夜の出来事の事情説明や今後のすり合わせのような話をしていたようだ。

 タモン様の説明に聞き耳を立てていると、昨晩は周囲に結界をはって被害が近辺に出ない様にしていたと聞いて心底安心した。

 良かった!一晩で滅んだ王国は無かったんだ!


 皆、存外に頭が良いのか、あるいはこのバーの雰囲気に当てられたのか、話は穏やかに、上品に進んでいた。

 特に驚いたのは、なまず神だ。

 最初はタモン様を介して日本語(?)で話していたようだが、途中から急に流暢な英語で話し始めたのだ。

 これにはアポロン神もタモン様も目を丸くして驚いていた。

 ……まあ、見た目は山椒魚みたいな奇妙な魚だが、やはり俺が思っているより遥かに凄い神なのかもしれない。

 そうだった、昨夜はあれが龍に変貌したんだったか……。

 後でちゃんと謝っておいた方が良さそうだ。色々と失礼なことも考えたしな……。


 そんな感じで、俺は一流のバーテンダーよろしく、三柱の神?と少女に、誠心誠意、心を込めてドリンクや軽食をご奉仕していた。

 少女も少し落ち着いたのか、出されたドライフルーツを小さな口でゆっくりと食べている。

 かわいいなー、お嬢ちゃん、この場で君が俺の唯一の癒しだ。ほら、特製チーズも食ってくれ。


 床では、黒騎士アーサーが限界だったらしく、正座の姿勢を保ったまま、カクン、と首を揺らして眠りに落ちていた。

 ……まあ、あいつが一番疲れてるだろうしな。起こさないでおいてやろう。

 あれ? なんだか、思ったより雰囲気は悪くないような……。

 このまま静かに時間が過ぎてくれれば……。


 いや、そう思った俺が甘かった。気がついた時には、もう遅かったのだ。

 問題は……三柱の神の仲が、良すぎたことだった!


 最初は静かに飲んでいたはずが、アポロンがなまず神にちょっかいを出し、なまず神がそれにユーモラス(?)に返し、タモン様がそれを面白そうに眺めているうちに、いつの間にか意気投合し、酒が進み……。


 やばい、と思った時には、もう手遅れだった。

 三柱の神が、肩を組んで大声で歌い始めたのだ!


「アレク君! もっと酒だ! 今夜は無礼講だよ!」

「左様。今宵は良き日だ。アレク様も、固いことは言いなさんな」

「■■■■!(←多分、酒持ってこいの意)」

 完全に出来上がった神々にそう言われて、断れるわけがない!


 そこからはもう、カオスだった。

 なぜか隠し芸大会が始まり、アポロンは光の竪琴(どこから出したんだ!?)を奏で、タモン様は筋肉を見せびらかしながら奇妙な踊りを披露し、なまず神は……盥の中でくるくる回っていた。

 そして、いつの間にか、あの少女が甲斐甲斐しく三柱の神にお酌をして回っているではないか!

 心なしか、その表情は先程よりもずっと明るく、少し楽しそうですらある。

 ……まあ、あの狂乱の輪の中にいるよりは、お酌をしている方が精神的には楽かもしれんな。

 分かる分かるぞ、嬢ちゃん。


 だが、神々のヒートアップは止まらない!

「アレク君! そこの棚の裏に隠してある奴出して!」

「アレク殿、次はあの棚の一番高い酒を頼む」

「■■■■■■!!(←明らかに高級酒を要求している)」

 言われるままに酒を出す俺!


 だって怖かったんだもん!

 俺だって、現実世界では大統領として、各国の首脳や要人たちとのタフな交渉やら、腹の探り合いやら、そういう板挟みは経験してきたつもりだ。

 だが、目の前のこれは、そういう政治的な圧力とは全く別次元の、純粋な『力』による圧力!

 逆らったらどうなるか分からないという恐怖!


 特にタモン様!

 普段はあんなに紳士的なのに、酔うと目が据わってきて、獲物に飛びかかる直前のライオンみたいな目になっている!


「おっと、アレク君。君も飲みたまえよ! 今夜はパーティーじゃないか!」

 アポロン神が、なみなみと注がれたグラスを差し出してくる。

「えっ? いや、私は仕事中ですので……」

「何を言っている。今この場に仕事などない。さあ、飲め飲め!」

 タモン様の有無を言わせぬ声!

「■■■!(←飲め!)」なまず神もヒレで煽ってくる!

 ……はい! 飲みます! 喜んで!!

「ぐびぐび……ぷはーっ! 美味いですね!」

「だろう!? さあ、アレク君、歌いたまえ! 君の美声を聴かせてくれ!」

「ええっ!? わ、私ですか!?」

「そうだ! 歌え! 踊れ!」

「■■■■■■!!(←歌え!踊れ!)」

 はい!!

 アレク、歌います!!

 踊ります!!


……気がついたら、俺は上半身裸で、頭にはネクタイを鉢巻のように巻き、カウンターの上で意味不明な歌を熱唱しながら、なぜか盥の中のなまず神のほっぺ(?)にキスの嵐を送っていた。

 なまず神も、まんざらでもない顔でそれを受けている……。

 なまずのヌルヌルとしたボディの感触を感じながら、ふと視線を上げた、その先。


 店の入り口に、呆然と立ち尽くし、店内の惨状――上半身裸でなまずにキスする俺、酔いつぶれて床に転がる神々、散乱する酒瓶とグラス――を見つめている、女神ヘベの姿があった。

 その表情は、能面のように固まっている。


 その瞬間、俺の酔いは、まるで冷水を浴びせられたかのように、スーッと急速に抜けていくのを感じた。


 終わった……。

 俺のバーテンダー生命も、あるいは俺自身の命も、今、ここで終わったのかもしれない……。


今日のまとめや補足的なもの

なまず、ワールドデータベースから英語をダウンロードする。

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