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異世界で喫茶なまずはじめました。  作者: カニスキー
第一章 始まりの物語
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015 アレク、職場に厄介な客が来る

015 アレク、職場に厄介な客が来る


 ったく、なんで俺の職場に来る流れになってるんだ……。

 重い足取りで、見慣れた看板――カウンターバー「ネクタル」――の前に立つ。


 背後からは、やけに回復の早い金髪の神様アポロンやら、たらいに入ったなまず神(自称)やら、ボロボロの黒騎士アーサーやら、怯えた様子の見知らぬ少女やら……なんともはや、物騒極まりない一行がついてきている。

 昨夜のハルマゲドンみたいな大騒ぎの中心人物たちだ。


 正直、勘弁してほしい。

 そもそも、この流れになったのだってそうだ。

 戦闘が終わって、皆ボロボロで、さてどうするかとなった時、

 アポロンの奴が「やれやれ、こんな状態じゃ動けないね。アレク君、君の店で少し休ませてもらおうか」とか言い出しやがった。


 断ろうとしたんだが、

「私の可愛い妹の店でもあるんだし、少しくらい良いだろう?」と、あのキラキラした笑顔で押し切られたのだ。

 くそっ、あの神、自分の立場を分かってやがる。


 扉を開けると、カラン、と軽やかなベルの音が鳴る。

 店内には、磨き上げられた重厚な木製カウンター、壁一面に並ぶ年代物の酒瓶、落とし気味の柔らかな照明、座り心地の良さそうな革張りのスツール。

 いつもの、俺の職場だ。

 静かにジャズが流れていてもおかしくない、しっとりとした大人の隠れ家。

 

……のはずなんだが、今は妙な緊張感が漂っている。

 カウンターの奥を見るが、そこにいるはずの店のオーナー、女神ヘベ様の姿はない。 

 今日は仕入れか何かで不在だったか。


 最悪だ。


 つまり、この厄介な連中の相手は、俺一人がしなくてはならないということか……。

 ヘベ様は、何を隠そう、あのキラキラ輝くアポロン神の異母妹にあたる。

 主神ゼウスを父に持つ点は同じだが、母親が違うのだ。


 俺がまだほんの子供だった頃、なぜだか時々、眠っている間に見る夢の中で、この「ネクタル」に迷い込むことがあった。

 その時から、ヘベ様には何かと世話になっている。

 頭が上がらない恩人だ。


 そして、へべ様が兄であるアポロンをどう思っているかも、よーく知っている。

 あの神の名前を出した時の、全てを諦めたような深い深いため息と、「……はぁ、また何かやらかしたの? もう勝手にさせておきなさい」という、怒る気力すら失せたような遠い目……。

 後で俺が事情説明をする時のことを考えると、胃が痛い。

 小言では済まないだろうな……。


 ……それにしても、だ。

 現実世界の俺は、とある国で大統領なんてものをやっている。

 一国を動かす、大変偉い人間のはずなんだが


 ……どうにも、こっちの世界ではそういう威厳は通用しないらしい。

 ヘベ様には昔からこき使われ……いや、お世話になっているし、アーサーやシモのような転生者仲間はいるものの、何かパッとしない一介のバーテンダー兼用心棒(時々冒険者)だ。


 ちなみに、この異世界と現実世界は記憶の共有が一方通行で、あっち(現実)の記憶や知識はこっち(異世界)に持ち込めるが、こっちでの経験や記憶はあっちに持ち帰れない。

 実に不思議な仕組みなのだ。


 だから、大統領である俺が、夜な夜な異世界でバーでカクテル作ったり、化け物相手に鉄拳を振っているなんて、現実の側近たちはおろか、とうの本人の俺も知らない覚えてない。

 知られたら大問題だろうがな。


 話がそれた。

 ともかく、今はヘベ様がいない。

 そして目の前には、昨日のハルマゲドンで近辺を半壊させた核弾頭みたいな面々が、カウンターの前に座っている。


 アポロンは、さっきまでの青白い顔はどこへやら、いつものキザな笑みを浮かべてカウンターに肘をついている。

 悔しいが様になっているのがむかつく。

 タモン殿は、相変わらず落ち着いた様子で周囲を観察している。

 そして黒騎士のアーサーは……なぜかカウンター前の床に、ボロボロの鎧のまま正座させられていた。

 アポロンの仕業だろう、あの神は時々こういう子供っぽい嫌がらせをする。

 アーサーは疲労と鎧の重さで肩で息をしており、時折ぐらりと体が揺れて、今にも倒れそうだ。


 そして、見知らぬ少女。

 年は十代半ばくらいか?

 素材は良さそうだが、着ている服はボロボロで、ひどく怯えた様子で小さな体を縮こませている。

 そりゃあそうだろう。

 得体の知れない筋肉男(タモン殿)と、やけにキラキラしたイケメン(アポロン)と、なぜか盥に入った奇妙な魚(なまず神)に囲まれているんだからな。


 ……まあ、得体が知れないどころか、そのうち二柱(と一匹?)は本物の神様なんだが。

 この状況、彼女にはあまりにも酷だ。

 強く生きろよ、嬢ちゃん。

 せめて何か美味いものでも食わせてやるからな。

 姉御秘蔵のドライフルーツでも出してやるか。


 なまず神は……盥の中でぷかぷか浮きながら、好奇心旺盛といった様子でキョロキョロと店内を見回している。

 ……頼むから、店の中で暴れないでくれよ。

 特に神様方。

 正直、心底はやく帰ってほしい。

 今すぐにでも叩き出したい気分だ。

 だが、押し切られた以上、追い出すわけにもいかん。

 ヘベ様がいない手前、無下にもできん。


「……いらっしゃいませ」

 俺は腹の底で巨大なため息をつきながら、バーテンダーとしての仮面を被る。

 「何か、お飲み物でもお出ししましょうか? ここはバーネクタル、古今東西の銘酒達がお客様との運命の出会いを棚の中で静かに待つ場所です。」

 酒は出す。

 出すが、頼むから酔って暴れたりしないでくれ。

 店の備品は高いんだぞ!

 弁償するのは俺なんだぞ!

 頼む、神様、仏様、ヘベ様(不在だけど)!


 どうか平穏無事にこの時間が過ぎますように……!

 心の中で、俺は切に祈った。


今日のまとめとか裏話とか

アレク、実は現実世界で大統領をしている。(寒い国)

アポロン、実はちょっとシスコン。

バーネクタル、ヘベが趣味100%でやってるバー。来れるかどうかは神の気まぐれ。

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