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第35話 おっぱいホイホイなの?



     *          *



「あひゃ~~~! ヤバヤバのヤバ! 申し訳なさすぎる!」


 鷹也のメッセージに、陽代乃はベッドの上でゴロゴロと転げ回っていた。


(こっちが『好きだよ』って送ろうとモタモタしてたら、先言ってもらっちゃった! こういうの、男子の方から言ってくれるのもモテ属性なんじゃないの~っ?)


 長い脚が柵に当たり、ゲシッと大きな音&フギャッと間抜けな悲鳴が上がる。


「いったぁ……! やっぱ私、ポンコツなんだなぁ……」


 痛みで我に返り、スネをさすりながらスマホ画面をタッチする。



『嬉しい! 私も大好きだよ! ゆっくりデート、近いうちに計画しようね!』



「……っと。あ~う~……もっとお話ししたいけど、ただでさえ感情重めの気絶しまくりヤバ女だし。節度あるところを見せなきゃ……」


 お開きへの言葉を打とうとする指が、ふと止まる。


「あの服屋の子、若王子ツグミ……だっけ。本気で鷹也くん狙ってたよね……」


(そりゃそうだよ……なぜか身長のお陰で気づかれないだけで、めちゃカッコいいんだもん。まぁ、こんな嫉妬深くわーわー言っちゃうような(わたし)だし、他の(ひと)に今まで見つからなかったのはよかったのかもしれないけど…………ハッ?)


 グルグルと思考を巡らせていたが、慌てて(かぶり)を振る。


(身長低いのが『よかったのかも』なんて……差別する人と同じになっちゃう。うう……自己嫌悪だぁ)


 バチンと頬を一度平手打ち。その後、すごい勢いで文字を入力し始める。



『私、どんな鷹也くんでも好きになるからね! もし言いづらい秘密があったとしても、ちゃんと話聞くから!』


『嬉しいですけど、急にどうしたんですか?』


『どうもしないけど! もっと鷹也くんのこと知りたいと思ったから』


『わかりました。秘密って秘密もないんですが、思い付いたら相談しますね』



(う~ん……やっぱ不自然だったかなぁ?)


 悩める恋愛初心者は、堂々巡りの問答へ。



『なんか、ごめんね。一気に言いたいこと言って。じゃ、私もお風呂入ってきまーす』


『はーい、ごゆっくり』



 スタンプで締め、陽代乃はスマホをベッドに放ると、しばし放心状態に。


「ほんと、ずっとおたおたしてるなぁ。恋人同士の自然な会話……わかんないよ~!」



     *          *



「先輩……やっぱ気を遣ってくれてる感じかな」


 湯船の中、さすがに少しのぼせてきた鷹也。


(『一ファンでもある』なんて念押して、ちょっと説教くさかったな。それに……逆の立場では、俺も同じなんだから)


 湯の中から立ち上がり、立ちくらみでよろける。


「俺も……もっとしっかりした男にならなきゃ。Yo!tubeの方も再開しないと……」


 まだ少しクラクラしながら、浴室の引き戸を開ける。

 その時、ちょうど脱衣所入口のドアも開いた。


「え…………きゃあッ!!」


 千鶴(ゴスロリのすがた)は一瞬フリーズし、すぐに悲鳴を上げドアを閉めた。


「もーッ! 見せてんじゃないよ!!」

「み、見せてないわ! 被害者は俺だろ!? 男性差別反対!」


 理不尽な抗議に言い返しながらも、千鶴が『きゃあッ!!』という声を上げたことに違和感を覚える。


(こんな状況が久しく無かったけど、少し前ならもっと子供っぽい反応だったよなぁ。うーん、ヘンな感じ……)


「千鶴、今帰ってきた? 遅かったじゃんか」


 そのまま台所へ向かおうとした千鶴は足を止め、声を荒らげる。


「不良なんだから、これくらいフツーだっての!」

「最近は物騒なんだから、マジで気をつけてくれよ。誰かに追いかけられたりしなかったか?」

「うっさいなー……デカい細マッチョ男が送ってきたから誰も寄ってこないってば」

「あ……雅桜さんと一緒だったのか? じゃ、今まで……」


 話している途中で、ドスドスと足音が遠ざかっていく。

 誰得な兄のラッキースケベを受け、千鶴は唇を尖らせながら洗面所代わりの台所へ。


「くそ……見られたのは俺の方なんだぞー」



     *          *



「はぁー、最悪。なんであんなジャストタイミングなんだか……」


 台所で手洗い&うがいをし、千鶴はなんとか鼓動を落ち着かせる。


(3年ぶりくらいに見たかも。あの時も、まったく同じ感じで同時にドア開けたっけ)


 大きく溜息をつき、グラスに注いだ牛乳を一気飲み。

 兄妹そろってミルク教を信仰しているようだった。


(こっちの裸見られたのは……1年前くらいだっけか。どこの兄妹でもあるあるだろうけど……やっぱ腹立つな)


 ぐわし、と、自分の胸を掴んでみる。遠い目をする。


(服屋の店員……ヤバかったな。陽代乃ちゃんもデッカいしなー。どーなってんの、ウチの兄。おっぱいホイホイなの?)


 ちなみに『牛乳で胸が育つ』という医学的な根拠も、残念ながら無いのであった。


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