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第30話 逃げるのも……ナシだ!!



     *          *



 鷹也たちが歩き出した直後、慌てて退室した千鶴たちも現れる。


「ちょうどいいタイミングっすね。尾行再開しますか」

「了解だ。ふむ、少し楽しくなってきたぞ」


 雅桜から思ってもみないセリフが出て、千鶴は思わずその顔を見つめる。


「……楽しいんすか?」

「ああ、少しな。ほら、見失うぞ」


 鷹也たちの背中を確認しながら、ふたり並んで歩き出す。

 長身イケ眼鏡男子の横に並ぶピンクメッシュゴスロリはやはり目立つ。

 しかも、千鶴が大股で歩くので余計に目立っていた。



     *          *



 クリーニング屋に(パーカー)を預け、鷹也&陽代乃はひと息つく。

 陽も落ち始め、楽しい時間も終わりが近づいているのをなんとなく感じていた。


「そういえば、お腹すきましたね。何か甘いものでも……あ、クレープ屋さんありますよ」

「わーい! クレープ大好き! あっ……ご、ごめん!」


 子供のように両手を上げ、すぐに縮こまる。

 一度やってしまいつつ、すぐに気づいて後悔するその天然ムーブが、意図的にキャラを作ってやっているわけではないことを強調する。


「あはは、先輩やっぱ謝りすぎですよ。まぁ、それが『らしさ』だっていうのもわかってきたけど」

「う~……わかられてしまった。だってさ、先輩なのにこんな子供っぽいの、ガッカリじゃない?」

「うーん……動画では隠してるし、カットもしてるんでしょうけど、端々に滲み出てたし。あらためて考えると意外ってほどでもないです」

「それはそれでショックなんだけど! そっかぁ……まぁそうだよねぇ」


 照れ笑いするその顔に、鷹也はひとこと付け足す。


「そもそも……俺は可愛いと思ってるんで。もう隠そうとしなくていいです」

「えへへ……うん、ありがと!」



     *          *



 クレープを買うふたりを後方から見張りつつ、千鶴は考えていた。


(おにーと陽代乃ちゃんが結婚したら、雅桜さんもアタシの兄になんの? いや、今は別の家族だし、血が繋がってるだけでそういうことじゃないのか……)


 そんなことを考えつつ、チラッと隣を見やる。

 が、いつの間にか、そこに雅桜はいなかった。


「あれっ? ど、どこ行った?」

「すまん、ちょっと外していた。ほら」


 反対側から雅桜は声をかけ、両手に持ったクレープのひとつを差し出した。


「な、なんすか? これ……」

「こっちにもクレープ屋があったんでな。小埜千鶴も腹が減っただろう」


 千鶴は呆気にとられながらも、スタンダードなチョコとバナナのクレープを受け取る。

 同じフレーバーのクレープをかじりながら、雅桜もまた持ち場へ戻る。


「陽代乃はクレープ好きだからな。小埜鷹也も知った上でチョイスしてるのだろうが」

「………………」


 時が止まったかのように固まっている千鶴に、雅桜は顔を近付けた。


「何だ、クレープは嫌いだったか?」

「い、いや……嫌いじゃないっす」

「ならいい。ああ、オゴリだぞ。遠慮せず食え」

「…………あ、ありがとっす」


 今まで、そんな風に考えないでいたが、千鶴の中で急に【自分もデートしてる感】が膨れあがる。


(この人はマジなんっっっとも思ってないのわかってるし、アタシだってなんっっっっっとも思ってないけど。多感な女子中学生とふたりでいるんだから、そういうデートっぽいことしないように気を遣うべきなんじゃないの?)


 理不尽な抗議を脳内で起こしながら、クレープをついばむ。

 そんな説明しづらい感情に千鶴がモヤモヤする、そんな中――


「む……トラブル発生か?」

「えっ? あ……」



     *          *



「マジかよ~! あ~あ、こんなんで合コン行けってか?」


 陽代乃の持っていたクレープが、すれ違った男の胸に当たってしまった。


「ご、ごめんなさい! あの、えと、えと……」


 陽代乃はすぐに謝っていたが、そのジャケットには赤いベリーソースと生クリームがべったりと芸術的に塗りたくられていた。


(こいつ……わざと当たりに来た!)


 視界の端ではあったが、男の不自然な動きを鷹也は捉えていた。

 確証はなかったが、男たちの不機嫌さを露わにする態度から悪意を感じとり、ほぼ確信する。


(先輩を守らなきゃだが、相手は3人。現実的に考えたら、正義を通すわけにもいかない。どうする……!)


 鷹也が思考を巡らす数秒にも、陽代乃は顔を見られないよう男に頭を下げる。


「あ、あの、クリーニング代は出しますから……」

「そんなん当たり前だろ~? てゆーかさぁ、クリーニング出しても、今から使いたいのに間に合わないんだよなぁ!」


 威圧的に陽代乃を詰める男。

 鷹也は答えが出ないながら、とにかく陽代乃の前に出た。


「そっちが急に飛び出したんだろう。因縁つけるのはやめてくれよ」

「あ? こっちが悪いってのか? マジで言ってんのかコラ!」


 悪人の顔を完全に剥き出し、男は鷹也の胸をドンと押した。

 踏ん張るつもりが、さすがに体格の違いでよろめいてしまう。


(クッ……このままツッパっても先輩を危険に晒すだけだ。悔しいけど……逃げるしかないのか?)


「女が足りなくてさぁ、一緒に来いよ。そんな弟くんと一緒なんて、若い女がもったいねーぞ?」

「ちょっ……や!」


 男は陽代乃の腕を掴み、強引に引いた。

 その光景を前に、鷹也の頭の中がカアッと熱く真っ白になる。


(逃げるのも……ナシだ!!)


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