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スーパー美人インフルエンサーなのに、冴えない俺の声にだけフニャるひよの先輩  作者: 茉森 晶


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第26話 サムライの覚悟



     *          *



「賑わってるけど、観光客だらけってほどじゃないし、地元の人中心でいい街ですよね」

「そうだね。私はたまーに来るんだけど、なんか和むっていうか……」


 どうでもいい感想を言いながら、緊張感を隠そうと余計に不自然な会話となる鷹也&陽代乃。

 それぞれ動画配信者をやっているくせに、何を話していいかわからずにいた。


「私……今、男に見えてんのかなぁ?」

「今どき中性的なファッションも普通だし、見えてると思いますよ。顔は男性的ではないし、しっかり見られたらすぐバレるでしょうけど」

「メイクも男性用になってるの、わかる?」

「そ、そうなんですね? ってか、あの短時間でメイクまで……ほんと何者なんだ若王子ツグミ」

「メイクも上手かったからいいんだけど、私としても、せっかく気合入れて顔作ってきたのに……あっ! や、(ちが)、もにゃもにゃ……」


 普段なら雅桜にだけ話すような内容をポロッと口に出してしまい、おたおたする陽代乃。

 そんな面を惜しげもなく見せてくれる、その裏表の無さが心地いい。


若王子さん(あのひと)のお陰で、また新しいひよの先輩が見れたのはよかったですけどね。本人には悪いけど……」

「ちょっ、もうバニーガールは忘れて! てゆか……」


 隣を歩く鷹也の肩をガシッと掴み、刺すような眼差しで見つめる。


「ほんとのほんとに…………見てないよね?」

「み、見てませんってば! 先輩、目が怖い!」

「ハッ……ご、ごめん、ついマジに……」


(まぁ、謝るのは嘘ついてるこっちなんだけどな。しかし、そんなに見られたくないんだなぁ……いや、当然のことかもだけど)


「あ、あの……俺って一応、先輩の彼氏じゃないですか」

「そ、そうだよ。もちろんもちろん」

「もし見えてしまってたら……あっ、ほんとは見てないですけどね? 仮に見えてたら、どうなるんですか?」


 彼氏として、もっともな疑問 of 素朴。

 陽代乃は少し考えたあと、答えた。


「鷹也くんの頭に……記憶消去ビームを撃ちます」

「……そんな能力(スキル)をお持ちなんですか?」

「……ないですけど」

「ですよね……」


 無駄な2ターンの会話。

 第三者が見ていたら『スベッてる』くらいの空気感だったが、鷹也は必至で笑いを堪えていた。


「ま、まぁ、そうですよね。俺は彼氏として新米のペーペーですから、見ていいわけない……」

「違う! 彼氏だもん、見ていいよ!! って…………うあぁあッ!!」


 とんでもないセリフを吐いてしまい、陽代乃は赤面MAXで頭を抱える。


「ち、違うの! 安っぽいエロコメ的ラッキースケベで見られちゃったら、本来の初めて見るシチュエーションで感動が薄れちゃうんじゃないか……って……あぁあぁあ何言ってんの私ぃぃぃッ!!」


 墓穴を掘り続け、さらに悶える陽代乃。

 それが愛おし&面白すぎて、鷹也は完全に笑いが漏れ、顔を背けた。


「ちょ……鷹也くん、笑ってない!? いや、確かに笑わせるようなアホアホ発言してるけど!」

「すみません! でも、先輩の気持ちは伝わりましたから……」

「待って! 伝わるのも困るぅ~~~!!」


(ヤバ! そんなことばっか考えてる女って思われてない!? いや、考えてないことないけど、そんなことばっかではないからね!? そもそも『男子はエロくて当たり前』で、女子がそうだったら『ヤバ淫乱』みたいになるの、差別だと思うんだけど!)


 陽代乃は心の中で世界に抗議しつつ、なんとか平常心を取り戻そうと深呼吸。


「まったく……グミちゃんにはやられたわ。あの店、鷹也くんはもう行っちゃダメだからね?」

「あはは……はい、わかりました」


 鷹也は若王子ツグミの顔を思い出し、一瞬モテていたことをあらためて不思議に思う。


(ほんと、めちゃめちゃヤキモチ焼いてくれるなぁ。そんなに心配しなくても、もう二度と会うことはないですよ)




 結局、ふたり話すことに夢中で、まったく店を見ていないことに気づく。

 空気を変えるためにも、鷹也はショーウィンドウのマネキンを指差した。


「あんな感じとかも似合いそうですね」


 そのマネキンは『清楚なお嬢様風・夏の装い』といったコンセプトで、レトロクラシカルなノースリーブのワンピースを着こなしていた。


「え、そうかなぁ? あんま着ない系だけど……もしかして鷹也くん、こんな感じが好み?」

「そ、そう……なのかな? すみません、こういうお嬢様っぽいのって男の幻想かも」

「そんなの気にしなくていいよ! 私もこういうの着こなせたらって思うし。メイクと所作を研究すれば……」


 ショーウィンドウに近づき、陽代乃は各アイテムをチェックする。


「今の私は男装(こんな)だしなぁ……やっぱ可愛い服を見て欲しかったよ」

「それはそうですけど……身バレしたらデート自体できなくなりますしね」


 鷹也のその言葉に、陽代乃はハッとするような顔で、少し脚の幅を広げた。


「ほんと、ごめんね。こんなめんどくさいのを彼女にしてもらっちゃって」

「も~……先輩、自分のこと下げすぎですよ。俺も人のこと言えないけど」

「でも、実際めんどくさいからさ~。つい気になっちゃうんだよね」


(有名人には有名人なりの悩み……これもそのひとつか)


「何度も言ってて恥ずかしいですけど……ひよの先輩がカノジョになってくれたことだけで、最高に嬉しいんです」

「うう……鷹也くん、ほんといいひとだよねぇ。もっとワガママでもいいんだよ? ほら、これからどうしたい? なんでも言ってみて!」


 そう言われ、鷹也は通りにある看板たちをグルリと見回す。


(何が正解か、難しいけど……何も出さないのはよくないし。えーと…………あ!)


「じゃ、カラオケはどうですか?」

「カッ……カラオケ!?」


 鷹也のチョイスに、陽代乃は声を裏返してしまう。


「ぴよ子っこチャンネルでは、歌うことってないじゃないですか。一度聴いてみたいです!」


 『歌を聴きたいのは本当だし、多少は自信ある自分の歌も自然にアピールできる』 

 それくらいの気持ちで、妙案を提出できたと思う鷹也だった。

 が、陽代乃はまるで、果たし状を叩きつけられたサムライのごとき緊張感を発していた。


(この人……自分の声が私をメチャクチャにするってこと、忘れてる? こっちは今だって『何とか耐えれるようになった』って感じなのに!)


「あ……もしかして、歌うのあんまり好きじゃないですか?」

「い……いや、だいじょぶ! 『なんでも』って言ったからね。ぴよ子に二言はない!」


 【ぴよ子っこチャンネル】の決めゼリフは、まさしくサムライの覚悟となっていた。


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