第24話 心狭い女って思われてるかなぁ?
「がおー氏、どうなの?」
「どう、とは何だ」
「千鶴ちゃんの変身、だいぶ刺さってるんじゃない? 可愛いと思ってるんでしょ?」
「ふざけるな。中学生だぞ、話になるか」
「そういう言い方、JCには絶対禁句だからね!」
小声で言い合うふたりがしっかり兄妹らしく見え、鷹也はさらに微笑ましい気分になる。
(ウチの妹とは全然違うけど、ひよの先輩も妹なんだよなぁ。いや、確かに可愛いところもたくさん見せてもらってる。カッコ良くて、可愛くて、そりゃ芸能人も寄ってくるわ……)
考えたいわけではないが、鷹也の脳内にイヤな想像が湧き上がる。
(ひよの先輩のことは信じてるけど……芸能人なんて裏から手を回して断れないようにしてきたりとか……)
「ね! 鷹也くん?」
「はい! 許せないです!」
妄想中に話を振られ、鷹也は思わず叫んでしまった。
「ふにゃっ!! えっ、えっ、そんなに? お、怒ってる?」
「あ……す、すみません。何の話ですか?」
本人が隣にいる時に、うっかりエロ漫画の導入的なイメージを想像してしまい、鷹也は焦って目線を逸らした。
「がおー氏がゴス千鶴ちゃんのこと可愛いと思ってるのに誤魔化してるよね……って。鷹也くん的には……今、なに考えてた?」
「あ、いや、その……家での俺の失態を、ひよの先輩にどこまでバラされてるのかな? みたいなことを、あの」
咄嗟にテキトーをでっち上げ、目を泳がせる。
「千鶴ちゃん、そんな本気で下げるようなチクリしないよ。もし、そんなの聞いたとしても……鷹也くんに幻滅するとかないと思うけどな」
「い、いや、わかりませんよ? 想像を超える変態行為してるかもしれないじゃないですか!」
パニクってわけがわからなくなっていた鷹也だが、自分の吐いたセリフにハッと我に返る。
そして、目を合わせられない陽代乃の言葉を死刑宣告のように待つ。
「そ、想像を超える変態行為……してるの?」
「い、いや、してない……です」
一瞬、特殊な趣味を受け入れられるか不安になる陽代乃だったが、まず受け入れ準備しようとしている自分の中のエロ適性を気付かれないよう、うつむきながらそっと一歩離れた。
「ハイハイ、これで4人とも変身した感じですけど、どうですか~? 気に入らなかったら、もちろん戻してくれていいんですけど~」
ギャルメイド・ツグミは満足そうに、鷹也たち4人の姿を見てウンウンと頷いた。
「悔しいけど……あなたのチョイスはバッチリだと思う。自信満々に言うだけあるよね」
「へへへ~、またまたぴよ子ちゃんに褒められました! あーし、スタイリストの仕事したいと思ってるんで、いつの日か一緒にお仕事できる時があれば、よろしくで~す!」
「なるほどね~。私はテレビの方に行く予定はないけど……モデル仕事とか、その時があれば、ね」
(悪い子じゃないし、普通に対応すればいいだけなんだけど……ど~しても心を許せないんだよね。はぁ~……こんな私、心狭い女って思われてるかなぁ?)
心の中で葛藤する陽代乃は不安げな眼差しで鷹也をチラリ見る。
鷹也はそれに気づき、よくわからないがニコッと微笑みを返す。
「う……ここはどっしり構えないとね。えーと、店員さん?」
「若王子ツグミで~す! 気軽に『グミ』って呼んでください!」
「グ、グミさん……いや、店員さん! この4人分の服、全部買います。このまま着ていくから、タグとかの処理と元の服の持ち帰りの方、お願いね」
「どもども! ありがとうございま~す!」
ツグミが試着室の方へ走っていき、陽代乃はバッグの中からスマホを取り出す。
鷹也はハッとして、陽代乃のそばへ駆け寄った。
「先輩、自分と千鶴の分は分けてください。払いますから」
「いいからいいから。プレゼントしちゃう! 自分たちのは経費になるしね~」
何の悪気もなく、陽代乃はにこやかに言う。が――
「そんなのダメですよ!」
「ふにゃあ!!」
せっかくお姉さんぶっていた陽代乃だが、鷹也の強い声にやられて、いつも通りフニャる。
ツグミも今はいないので、鷹也はカレシとしてその体を抱き留めた。
「男の面目も考えてください。本来、俺が買ってあげないといけないんでしょうけど……」
「ご、ごめんごめん。でも私『男子が払わなきゃ』とか、そういうのは好きじゃないな」
「そう言ってもらうだけで助かりますよ」
ちょうど鷹也の腕から陽代乃が離れたタイミングで、ツグミがビニール袋を四つ持ってやって来た。
「はい、これ元の服で~す! お会計の方はこちら、ひとり分ずつ内訳出してきましたんで、よろしくお願いしま~す!」
『悪い奴じゃないが、いちいち波乱を呼びそうなギャルメイドとやっとお別れできる』
4人ともがそう思いながら、それぞれビニール袋を受け取る。
千鶴はゴスロリに納得していなかったが、恥ずかしくてまともに喋れなくなっていたため、うやむやで押し切られた形。
それでも、会計してくれた鷹也に一応お礼は言う。不良のくせに律義な千鶴だった。
「はい、じゃ~最後、たかっち。これ!」
「あ、ど、どうも……」
最後にビニール袋を受け取る鷹也に、ツグミはピタッとくっつき、胸を押しつけながら耳打ち。
「あひあ!? ちょ、ちょっ……」
「あーしの名刺、入れときましたから! 連絡くださいね?」
「いや、あ、えと、その……」
(まいったな……こっちは断ったつもりなのに、全然受け入れてくれてない。『もう彼女いる』って言えればいいんだけど……)
対応に迷い、チラッと斜め後ろの方へ視線を送る。
と、そこには陽代乃の貼り付けたような笑顔があった。
「あ、あの俺っ! もし好きな人と付き合えた時に困るから! 連絡とか、できないから!」
「あはは、冗談ですよ~! この店にはまた来て欲しいし、そういう名刺ですから」
どこまで冗談かわからないノリで、ツグミは悪戯っぽく笑う。
「お買い上げ、ありがとうございました! ほんと、みんなまた来てくださいね? ぴよ子ちゃんは、また動画で~!」
「は~い! こちらこそ、当チャンネルを今後ともよろしく~!」
陽代乃の笑顔は普段の動画で見せるものと変わらないようで、だがしかし、なんとなく、ひんやりとした冷気を感じさせていた。




