第21話 バレる、ひよの先輩
今回の、誰かの衣装チェンジ用イラストは、あとがきにて!
(何が起こってる? モテ期ってやつなのか? ひよの先輩が好きになってくれただけで、一生分のモテパワー使い果たしたつもりだったのに……)
ツグミの言葉に一瞬喜びを感じた自分に気づき、鷹也は慌てて頭を振る。
(真に受けるなって! からかってるだけ……ギャルが俺にひと目惚れなんてあるわけない。いや、でも、ギャルこそ素直に本音を言う、というのはリアルでもあること……か?)
「あ、あの! 俺、好きな人いるんで……悪いけど!」
鷹也はペッコリ頭を下げ、ツグミに(というか陽代乃に)聞こえるようハッキリと辞意を表明する。
ツグミはポカンと気の抜けた顔で、しばしそのお辞儀を見ていたが、突然クスクスと笑い出した。
「そういうまっすぐな感じ、ますます好きですねぇ! 今現在、付き合ってるってわけじゃないなら、ダチになるのはOKですよね? LIME交換しましょ!」
「え? い、いや、あの、その……!」
ツグミは鷹也の手を握り、ブンブン振り回す。
キッパリ断れば終わりだと思っていた鷹也は、止まる様子のない無敵機関車に『鷹が豆鉄砲喰らった』ような顔でフリーズした。
「て、てて、ててて、店員さんが仕事中に……いけないと思いますッ!!」
陽代乃はサングラスを外し、目力とともに一喝。
精いっぱい怖い顔で睨むその顔を、ツグミはまじまじと確認する。
「あれ? あれあれ? もしかして……ぴよ子ちゃん!? マジで!? ヤバ!!」
「ハッ……し、しまった!」
そもそも今日の主旨は『身バレ対策を考えよう』である。
千鶴は『陽代乃ちゃんの隠しごとできない特性をもっと警戒するべきだった』と思っていた。
雅桜は『まぁ、こんなところだろうな』と思っていた。
「ウッソ! あーし、マジ大ファンなんです! ツーショいいです? 動画は?」
「ちょ、ちょ、待って! ストップ! 落ち着いて!」
さらにテンションアゲなメイドに迫られ、陽代乃はパタパタと羽ばたいて威嚇する。
「ファンでいてくれてるのは、ありがと! でも、今日はちょっと! こういう風に身バレしないような変装用アイテムを探しに来ててね……」
「あ、そうだったんですか? 言ってくださいよ~! あーしにおまかせ!」
「えっ? あ、ちょ、あわわ!」
ツグミは陽代乃の手を掴み、近くの試着室に押し込む。
そして、奥にあった衣装を手に取り、自分もその試着室に飛び込んだ。
「何なんだ、あの女は。苦手なタイプだ……」
雅桜はしかめっ面になり、思わず呟いた。
「ぴよ子っこチャンネルのフォロワーにはああいう人も多いでしょうけど、ひよの先輩自体はギャルじゃないですもんね……」
ツグミの猛烈アタックにどうしていいかわからなかった鷹也は、ひとまず話題が吹き飛んだのでホッとしていた。
「でもまぁ、服のセンスはよさそうだし、変装の主旨が理解できてれば……」
「きゃわあッ!? ちょ! そこまで脱がさなくてもいいでしょ!? てか、脱がすな!」
「いや~、今回、下着はちょっと! はい、ジッとして~」
「ま、待っ……やめぇ~~~ッ!!」
試着室から陽代乃の悲鳴が聞こえ、中で行われている作業がなんとなく伝わってくる。
(え……そこまでって、どこまで? アレは当然として、アレも…………いやいやいやバカバカバカ何考えてる小埜鷹也!)
一枚きりの布の向こう側を想像し、ブンブンとさらに頭を振る。
そのまま、目眩とともにクラクラとよろけてしまう。
「あ、あなた何なの!? その早着替えスキル! アイドルのライブスタッフでもやってた!?」
「お、ぴよ子ちゃん鋭~い! 友達が地下アイドルやってまして~、手伝いすることあるんですよね~」
「いや、当てようとしたわけじゃないから! てか、マジで待って!? これは服とは言わな……」
「はい、出来た~!」
ツグミのその声と同時にカーテンが引かれ、鷹也たちの前に新たな上高陽代乃がお目見えした。
「えっ………………」
「ぴやあッ! ウソ! 見ないでぇ~~~ッ!!」
絶句する鷹也。
胸を隠して縮こまる陽代乃。
を、あらためて立たせるツグミ。
「ど~です? 女の魅力をバチバチ発揮するためには、女側から見ても今コレがキてると思うんですよね~!」
陽代乃の衣装は、オールドスタイルなバニーガールだった。
高身長・ボリュームある胸・鮮やかな金髪。
本場アメリカのバニーと並んでも遜色ないであろうスタイル。
濃いめのストッキングから透ける腰周りは、明らかに【Noパンツ】であることが見て取れる。
上半身に至っては、さっきまで装着されていたことを生々しく感じさせるブラのストラップ跡が、その素肌に残っていた。
「こ、これは…………ありがとうございます……!」
「鷹也くん! イイ声で感謝の合掌しないで! ちょっと、若王子さん? これ、どういうこと!?」
手を合わせて拝む鷹也に、涙目の陽代乃がツッコむ。
ツグミはのほほんとしていたが、我慢できずに吹き出した。
「あっはは、ごめんなさ~い! ぴよ子ちゃん、全然セクシー方向やんないっしょ? いっぺん、そういう系も見てみたかったんですよね~」
「私、そういう路線でやってないんで!」
(そうだよもー! 動画でも見せてないのに、いきなり鷹也くんにこんなの見られるなんて……ハズすぎる!)
ただただ陽代乃が恥ずかしがっているその時、千鶴はスマホを構え、動画を撮影し始めていた。
「陽代乃ちゃん、一度ちゃんと立ってみよっか。胸張ってー」
「ちょ! ヤだよ! なんで撮ってんの~!」
「いやー、女のアタシから見ても、ちょいエロでいいなーって。ほらほら、二度と着ないかもしれないコスだし、まっすぐ立って」
女子勢が一番楽しんでいて、鷹也は『見てはいけない』と思いながらもチラチラと見つつ、葛藤&苦悩していた。
それを陽代乃も感じており、あらためて今の状況を見つめ直してみる。
(カノジョだってのに、この程度でおたおたしてちゃダメだよね? サービス精神の無い、つまんない女……なんて、鷹也くんが思うわけないと思うけど。でも……!)
「わ、わかった! こんなの、何でもないんだから!」
陽代乃は腰に手を当て、背筋をピンと伸ばす。
下世話なエロティシズムだったはずが、スタイルの完璧さと立ち姿の美しさによって、まるでビジネスシーンに存在していそうな出で立ちと見えた。
「おー……陽代乃ちゃん、すげーかっこいーわ。こんなお宝動画、もったいないから誰にも見せないし安心していーよ」
「そ、そうしてくれないと困るんだからね……」
鷹也も、やましい気持ちがなくなったわけではないが、なんとか抑え込むことができる程度になっていた。
(本当に……綺麗な人だなぁ。こんな完璧女子が俺のカノジョ……まだまだ慣れないよ)
その眼差しを受け、精いっぱい背筋を伸ばしていた陽代乃は、ようやく少し頭が冷え始めていた。




