第20話 ぴらめきのギャルメイド
「あ、どもども。ここのバイトって感じで~す。希望言ってくれたら、すぐに探して持ってきますんで~?」
「あ、はい。ありがとうございます……」
『店員の声掛け』というストレスがどこかへ飛んでいってしまうようなビジュだった。
身長150cmほどの小柄ながら、むっちり肉感ある女子店員。
なぜか彼女は、オールドスタイルなメイド服を着こなしていた。
「ウチ、初めてな感じですか~? コスプレ試してみたかったり? なんか、そんな感じに見えたんで」
正統派メイド服を着用しながら、首から上はギャルだった。
編み込みハーフアップと巻き髪盛り盛りなロングヘアは鮮やかなチェリーレッド。
メイクもネイルもバッチリ決め、メイドとしてはふさわしくない派手さ。
鷹也は会話の選択肢が浮かばず、フリーズしてしまう。
「お兄さん、イケメンですね~? あと、イイ声してるぅ!」
「!? あ、え……ど、どうも……」
(イケメン!? い、いや、何を真に受けてる。ただの営業トークだ)
「あーし、お兄さんみたいなあっさり顔に弱い感じなんですよねぇ。高校生ですかぁ? カノジョいますぅ?」
「あえ? い、いや、あの、その!」
マシンガンのような質問攻めに気圧され、鷹也は目を白黒させる。
そんな鷹也の目の前で、突然、ギャルメイドはパッチンと派手に指を鳴らした。
「うん! ぴらめいちゃった☆ 来て!!」
「ええ!? な、なに何ナニ!?」
竜巻に巻き込まれたかのように鷹也が連行された数秒後、犯行現場へ千鶴がジャケットを手に戻ってきた。
「あれ? おにー、どこ行った? もー……」
そして、革コーデに着替えた陽代乃も戻る。
「ど、どうかな~。やっぱ千鶴ちゃんみたいに似合わないよ」
「お、陽代乃ちゃん、いー感じ。いや、さすが何でも似合うな……」
「そ、そうかな~? っと……あ、あの、鷹也くんは?」
「ちょっと目を離したら消えてた。せっかく陽代乃ちゃんが新鮮なワイルドスタイルでキメてるのに……」
陽代乃がキョロキョロ店内を見渡していると、少し先の試着室から鷹也が出てくるのが見えた。
「あっ、鷹也く…………ん!?」
鷹也の装いは、春らしいライトグリーンの七分袖シャツ&ベージュのチノパンという組み合わせに変わっていた。
シンプルながら明るい色合い、抜け感のある着こなし。
髪型も、モテを意識する学生芸人のようにセットされ、鷹也をまるで大学生のように見せていた。
「あ、ひよの先輩! こ、これはですね……」
その時、陽代乃の脳内で、ミニひよの達が緊急会議を始めていた。
議題は『鷹也くんがカッコいい!』 だけではなく――
(なんでカッコいい鷹也くんに……ギャルメイドがくっついてるの!? てか、ギャルメイドってナニ!? てか、ちっちゃくて……胸おっきくて……めちゃ可愛くない!?)
呆然と立ち尽くしていると、ギャルメイドが脳天気な笑顔で口を開いた。
「あ、たかっちのダチさん達ですね! あーし、若王子ツグミ。ここのバイトやってま~す!」
「た、た、たかっち???」
陽代乃がグルグル目を回していると、鷹也はそのそばに近づき、小さな声をかけた。
「ひよの先輩、そういうのも似合いますね。カッコいいです!」
「ふにゃあ……ッ!」
ただでさえ処理能力に余裕が無くなっているところへウィスパーな必殺ボイスで褒められ、陽代乃は為す術なく倒壊。
鷹也は慌てて受け止めようとするが、それを制した雅桜が陽代乃を抱き留めた。
「俺がいる時は任せておけ。見られん方がいい」
「あ……わ、わかりました」
陽代乃が何とか持ち直し、あらためてギャルメイド――若王子ツグミに向き直る。
「わ、若王子さん……でしたっけ? 鷹也くんの服……もしかして、あなたが?」
「どうです? 彼、メチャイケてますよね? あーし、ひと目で見抜いたんですけど!」
ツグミは鷹也の腕にくっつくようにして、ファッションのポイントや軽くメイクもしていることを解説しだす。
が、陽代乃の頭にはほとんど入ってこなかった。
「ダチさん達もみんな、たかっちのホントの魅力、ちゃんとわかってなかった感じじゃないです? こんなにカッコ良かったんだ~! って思ってますよね? ね?」
「な……ッ!! わ、私はわかっ……むぐっ!」
我慢できず張り合おうとする陽代乃の口を、雅桜が後ろから手で塞ぐ。
「たかっちは皆さんのこと、友達って言ってたけど……もしかして、実はダブルデートって感じだったり? そう思ったら、お似合いかも~」
着替え+メイクされている最中も質問攻めにされていたが、鷹也は相変わらずしどろもどろだった。
が、『友人たちとイメチェンできる服を探しに来た』とは伝えていた。
「あー……アッチの高身長組は置いといて。コッチのアタシらは兄妹だから」
得体の知れない新キャラを警戒していた千鶴がやっと口を開いた。
それを聞き、ツグミは鷹也と千鶴の顔を見比べる。
「そうなんです? 確かに似てるかも? じゃ、たかっちは今カノジョいない感じです?」
「え? あ、いや、その……」
「あーし、マジひと目惚れしちゃったかも~?」
爆弾発言に、脳内ミニひよの会議は全員パニック。
「ななななな……ッ!」
雅桜の腕をギリギリとつねりながら、陽代乃はとりあえず、メイド服が近場にないか探してみた。




