第15話 最っ高の彼氏がいるんですよ~だ!
【完結】としていた、この『フニャひよ』 続きを書くことにしました!
あとがきで、あらためて解説しますので、ぜひ読んでください!
「…………はぁ……」
カプチーノの入ったカップを両手で抱えながら、陽代乃は焦点の定まらないぼやけた視線を窓の外に漂わせる。
病院前での告白のあと、バスに乗り込む鷹也を見送った陽代乃。
フワフワした心持ちで駅まで歩き、高鳴る胸を落ち着かせようとスターボックスコーヒーでひと息ついていた。
(私……今、鷹也君の彼女なんだ。あ~~~、ヤバいヤバい、頬ゆるむ! 不審者になってしまう!)
スマホに向かいもせず、急に顔を伏せたり、脚をよじらせたり、太もも辺りをパンパンと叩き出したり。
すでに十分な不審者だったが、逆にそれが功を奏してか、身バレはしていないようだった。
(やっぱりお姉さんとして、余裕を持ってリードした方がいいのかな。いや、私にそんな振る舞いができるとは思えないけど! そもそも鷹也君は彼女いたことあるのかな? 実は経験豊富だったらどうしよう……)
鷹也の人柄はすでに感じとっているはずだが、勝手に想像力がバリバリ仕事をしてしまう。
(あの人柄に、あの声だもん……もし本人にその気が無くても、周りがほっとかなかった可能性は高い。いや、ジェラってるわけじゃないけど?)
ふと、店内の女性客を順に眺め、鷹也と付き合っていた想定でイメージしてみる。
脳内で色々な行為をさせてみて、しばらく耐えていたものの、真っ赤な顔でテーブルに額を落とす。
(アホですか私は……こんなの、男子的思考じゃない? バレたらドン引かれるぞ!)
実際、過去のパートナーに嫉妬するのは男性だけではないが、一般的な認識、少なくとも陽代乃の知識では、そういう事実になっていた。
女性が過去のパートナーに嫉妬しないように見えるとしたら、それを表に出さない『優しさの演技』ができる人が多いのかもしれない。
が、上高陽代乃という女子は、役者の兄がいるというのに芝居はからっきしだった。
(大体……自分ばっか気にして、逆のことも考えなさいよ。私は……中一の時、一度だけ付き合ってる。いい思い出でもないし、なんもさせなかったけど……言うべき? それがキッカケで変な感じになったりしたら……)
「訊かれたら…………言うけど……」
自分に言い聞かせるように、思わず声に出してしまう。
嘘をついて、バレてしまう方が歪みは大きくなる。演技のできない陽代乃にとっては当然の判断。
(付き合うのが決まったほんの1時間後だっていうのに……いきなりこういうリスクから考えちゃうの、我ながらめんどくさいよねぇ)
短い溜息をついたその時、LIMEの着信音が鳴った。
(鷹也君……!)
『さっきぶりです。家に着いて、しばらく母と妹の相手してました。先輩は何してますか?』
『さっきぶり! やっと帰れた実家、満喫してね。私は、ちょっと動画編集しようかと思ってスタボにいるよ』
文字での会話なら、苦手なウソもサラッと言えるようだった。
『暗くならないうちに帰ってくださいね。俺が助けられない所で襲われないように……』
(もう……すっかり私、危なっかしい女ってイメージだよ)
『心配してくれてありがと。鷹也君をあんな目に遭わせるようなこと、絶対ないようにするってば!』
いくつかスタンプを送り合い、陽代乃はまたニヨニヨモードに戻っていた。
(鷹也君……やっぱ優しいよね。いいひと過ぎて、どんどん自分がダメ女な気がしてくるぅ……!)
苦笑いしながら悶える。そんな陽代乃に近づく人影がひとつ。
「あの……ぴよ子さんですよね?」
「ぴょッ!?」
目を丸くして振り向くと、そこにはバケットハット・眼鏡・マスクで固めた身長165cmくらいの男が立っていた。
「は、はい。えっと……リスナーさん?」
「プライベートの時に声かけてすみません。いつも動画見てます」
「あ、うん、ありがとうございます。引き続き、よろしくお願いしますね!」
ストーカー事件があったり、鷹也と付き合い始めたこともあり、男性ファンに対して思うところはあったが、陽代乃はなんとか営業スマイルで対応する。
「もし可能なら……サインお願いできますか?」
「あ、はい、ちょっと待ってくださいね……」
陽代乃が手帳とペンを受け取ると、彼は続けて1枚の紙を差し出した。
「宛名、これでお願いします」
「はーい。えーと……伊住隼介さん。ん?」
名刺には『俳優 伊住隼介』とあり、その名前は陽代乃もよく知るものだった。
「え……伊住隼介? あ、え? 本人……?」
「本人ですよ。知っててもらえて光栄だな」
そう言って、マスクをずらし笑顔を見せる伊住。
1年前『魂刃戦隊テンセイジャー』のテンセイグリーンでデビューし、順調にブレイク中の人気俳優。通称【ズミシュン】。
同年代の活躍を陽代乃もチェックしていたし、何より、雅桜から9月スタートのドラマで共演することを聞かされていた。
「あれっ? もしかして私……からかわれてます?」
「心外だなぁ。【ぴよ子っこチャンネル】見てるのはホントだし、サインが欲しいのもホントなんだけど」
「そ、そうですか? まぁ……いいですけど」
戸惑いながらサインを記した手帳を返し、陽代乃はペコリと頭を下げた。
「自分より有名な人にサイン求められたら……『面白がってるのかな?』って思いますよ」
「あはは、ごめんごめん。仲村君にも何度か伝えてたんだけど……聞いてない?」
「がおー氏に……? いえ、聞いてませんけど」
雅桜が伝えていない、ということは『伝えるべきじゃない』と判断したのだと、陽代乃は察する。
(本当にファンなのかもしれないけど……でも、多分そういうことだよね? 売り出し中なのに、そんな脇の甘いことするかな? でも、お生憎様……私には、最っ高の彼氏がいるんですよ~だ!)
陽代乃の堅さある笑顔に、伊住は少しイタズラっぽい笑みを浮かべた。
「もしかして、ぴよ子さん……彼氏いるんですか?」
「は!? い……ませんけど? 何ですか? セクハラですか?」
不意を突かれ、陽代乃は腕をパタつかせたあとファイティングポーズで構える。
そのわかりやすさを前に、伊住は追加で笑ってしまう。
「あはは、そんなつもりじゃなかったんだけど。最初からこんなに警戒されるなんて、初めてだからさ」
「自分が有名だから警戒されないとでも思ったんですか? 芸能人の中にも悪い人はいると思いますよ?」
「確かにそうだね。イケイケインフルエンサーなのに、貞操観念しっかりしてるなぁ。彼氏いない上に……処女だったりして?」
「なあっ…………!?!?!?」
カアッと真っ赤になって言葉を失う陽代乃に、伊住はちっとも悪気なさそうな爽やかな笑顔を見せた。
活動報告で言ってましたが、【完結】としていた
この『フニャひよ』、続きを書くことにしました。
評価が2000を超えたら……と思っていましたが、
それはすぐにいただけて……たくさんの応援、ありがとうございます!
もちろん、私自身が鷹也たちキャラクターに愛着が湧いていて
書きたい気持ちが先にありました。
ので、もう少し彼らにワチャワチャしてもらいたいな……と!
まずは15話・16話だけ投稿し、少し制作時間をいただこうかと思います。
その間、ただいま投稿スタートしました
『黒魔女アーネスの、使い魔の、推しごと
~転生召喚されたし、ご主人様を国民的アイドルにするぞ~【Web版】』
も読んでもらえたら嬉しいです。
こちら、SQEXノベル様から発行していただいた書籍タイトルですが、
編集担当様の許可を得まして、校正前の作品を投稿していきます。
ので、書籍を買っていただいた方には必要ないもの……なんですが、
(細かい変更はあります)
応援していただければ、この黒魔女アーネスシリーズ、
Web上で続きを書きたいと思っています。
ぜひぜひ、こちらもよろしくお願いします!




