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第14話 フニャる、ひよの先輩



「顔を合わせて、あらためて言うよ。私……君のために何でもする!」


 電話越しでも破壊力抜群だったセリフを真っ正面から放たれ、鷹也は頭が真っ白になる。

 慌ててスマホに向かおうとするが、陽代乃はその手をギュッと握り、追い打ちをかけた。


「君は彼女いない。私も彼氏いない。ってことで……話は変わってきたよね。あの時は『彼女さんに悪いから』って言ったけど…………その……エ、エッチなことでも……オッケーだから」


 何度も躓きながらにはなったが、陽代乃は言い切った。

 いまいち息継ぎが上手くできず、漫画かアニメのように首から上が真っ赤になる。


(あれっ? 私、今、告白できてない……のかな? 告白って何だっけ? もうわかんないわかんない!)


 まるで時間が止まったかのように、ふたり目を合わせたまま固まっていた。

 が、鷹也は何とか陽代乃の手を一旦返し、急いで文字を入力する。


『俺、そんな要求する男だと思われてるんですか?』


「い、一般的に! みんな考えてることでしょ!? 何よぅ! 覚悟して来たのに……」


 恵まれた体を、まるで少女のように縮こまらせる陽代乃。

 恥じらいでまた涙ぐむその顔を見て、鷹也はあらためて自分の心に確認する。


(ああ……やっぱり俺、この人を好きになったんだよな。こんなに愛おしくて、胸がキューッとするのは……ファンだった時には無かった感覚)


『わかりました。そんなに言うなら、要求を出させてもらいます』


「ぴょっ!?」


 送られてきた文章を読んで、陽代乃は素っ頓狂な声を上げた。

 言い出しっぺのくせに取り乱している自分を戒めるようにパンと頬を一度叩き、背筋を伸ばす。


「ぴよ子に二言は無いわ! 来なさい!!」


 いつもの決めゼリフを合図に、陽代乃はスマホ画面を食い入るように見つめる。

 そんな姿を微笑ましく見つめながら、鷹也はゆっくりと口を開いた。


「ひよの先輩…………あなたが……好きです」

「ふにゃ…………ッ!?」


 まったく予想していなかった音が耳に飛び込んできて、陽代乃の見つめていたスマホ画面がぐにゃりと歪んだ。


「俺と付き合って欲しい……んですが、これは条件としてじゃなくて。もしOK貰えるなら…………キス……を要求します」


 防御値を大幅に上回る『ホーくん砲』を不意打ちで受け、陽代乃の全身がビリビリと震える。


「なッ…………はひぃ……」

「おっと……!」


 目眩とともに倒れ込む陽代乃の肩を、雅桜ではなく鷹也が抱き留める。

 その抱擁の衝撃で、今度は逆に気絶から呼び起こされ、陽代乃はなんとか意識を持ち直した。


「すみません、驚かせてしまって。俺も……今、決心できたから」

「ハァ……ハァ……ひどいよぉ…………こうなるって判ってるのにぃ!」

「いや……声が違ってて、もう気絶しないかもって。俺の声……どうですか?」


 1週間ぶりに発せられた鷹也の声は、少しかすれてはいたが、概ね元のまま。

 厳密には違いもあるが、今の陽代乃にとっては何を聴いても『好きな人の生声』だった。


「うう……最高だよぉ! ダメじゃん!」

「さ、最高でダメって?」

「ちゃんとした『好き』だって信じさせなきゃなのに……私、また痛いファンに逆戻りじゃん!」

「あはは……そんな風に思ってませんから」


 照れまくって目を合わせない陽代乃の肩をさするようにして、鷹也はあらためて優しく囁く。


「それで……最初の方の返事、もらってもいいですか?」


 まだ目は合わせられず、陽代乃はただコクリと頷いた。


「私を……上高陽代乃を…………鷹也君の彼女にしてください!」


 なんとか言い切って、ようやく陽代乃は顔を上げた。

 メイクは涙で少し崩れていたが、幸せそうに細めた目を、ゆっくりと閉じる。


「んっ…………!」


 外ということもあり、初めてのキスはチョンと触れる程度の、まさに雛のついばみのような。


「……ありがとうございます。本当にOKしてもらえるなんて……夢みたいです」

「こ、こっちのセリフなんですけどぉ! 私、千鶴ちゃんに『おにーにフられた時はどーすんの』って脅されてたんだから……」

「そんなこと言ってたんですか? アイツ……」


 照れ隠し半分、幸せ半分で、ふたりは笑い合う。

 まだまだこれから様々なトラブルがあるだろうが、今だけはネガティブなことを考えられなかった。


「ところでさ、やっぱダメだよ。『何でも言うこと聞く』が……キスって」

「す、すみません。『付き合って欲しい』を要求にしたくはなかったんで。告白成功した後のことで……と思ったんですが」

「違うでしょ! 付き合うことになったら、そんなカード使わなくても出来ることじゃん。ほかに……私にさせること、ないわけ?」


(それを言ったら、大体のことは『付き合えば出来る』ことになるんじゃ? 先輩は何を想定してるんだろう……『特殊性癖があるなら言っておけ』とか? いやいや……)


 あらためてファイティングポーズで身構える陽代乃を見つめながら、鷹也はふと何かを思い出したような顔。


「じゃあ……入院中に考えてて、ひとつ決めたことがあるんですが、聞いてもらってもいいですか?」

「決めたこと……? な、なになに?」


 あらためて口にする瞬間が少し恥ずかしくて、鷹也は少し目線を落としながら切り出す。


「俺……声優、目指してみようかな、と思いまして」

「!?!?!? せ、せ、声優……!?」

「ひよの先輩のお陰で、自分の声にもっと向き合ってみたいと思うようになったんです。Vtuberやってて、キャラ演じることにも興味はあったし……」


 予想外の角度から飛んで来たパンチに、陽代乃は目をグルグルさせる。


(至高の鷹也くんヴォイスは、当然、人気アニメのキャラに選ばれて……ファン爆増は必至! 私、正常でいられる? ファンクラブ会員番号1番を確実に取るには……)


 飛躍したジェラシーを発動させ、陽代乃は口をパクパクさせる。

 自分はフォロワー100万超えの超人気者のくせに、どうにも理不尽な話だった。


「それで先輩には……演技の練習に付き合って欲しいんです。恥ずかしくて誰にも聴かせられないし……ふたりきりで」

「そ、それは……私に務まると、本気で思ってる?」

「ひよの先輩……ううん、かわいいひよこちゃん? 君じゃなきゃ……ダメなんだ」


 いかにもな芝居がかったセリフに、陽代乃はビクンと反応する。

 それは、ただ『甘いセリフにやられた』というだけでなく、『狼狽』とも取れるもので。


「そ、そ、そ、そのセリフは…………えっ? バ、バレてる……の???」

「甘い言葉100連発の時、これ送ってたの……先輩だったんですね。いや、当時は夢にも思ってなかったですけど、今、思い出して……もしかして、って」


 生で聴くリクエスト萌えゼリフと、秘密を知られた恥ずかしさで、過去一真っ赤になる陽代乃。

 グラグラと、今にも倒れそうな彼女に、鷹也は追撃をかける。


「確か……もうひとつリク貰ってましたね。シンプルな感じの……えーと……」

「やっ、待って! もう無理無理無理無理!!」


 事件のせいで(お陰で?)性格に変化が起きたのか、こんなセリフもサラッと言えてしまう。

 まぁ、声優を目指すなら、そうでなくては困るのだろうが。


「ひよこちゃん、おやすみ。大好きだよ……」

「ふにゃあぁあっ!! ダ、ダメこれ……私の脳が持たな……い……」


 高身長で陽キャな人気者、上高陽代乃。

 裏方気質な小柄男子(伸びしろアリ)、小埜鷹也。

 身長も、性格も、正反対と思われたふたり。

 だが、実際のふたりの関係は、見た目と逆になっていくのかもしれない。


 果たして、このまま雛鳥は猛禽類の鳴き声に翻弄されてしまうのか。

 木陰を提供する大樹は『やれやれ』と苦笑するように、いつまでも祝福の葉音を降らせていた。



ふたりの物語へ……つづく?


『フニャひよ』こと、

『スーパー美人インフルエンサーなのに、冴えない俺の声にだけフニャるひよの先輩』


ひとまずハッピーエンドです。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます!

挿絵(By みてみん)

相方・亜方逸樹が完結記念にファンアート(?)を描いてくれました!

陽代乃はウブいので、これはかーなーり無理してますね……笑。


この作品は、相方の

「茉森のドストレート(仕掛けの少ない)ラブコメが見たい」

という希望を元に企画し、短編想定で作り始めました。


が……私の悪癖で凝りだしてしまい、

愛すべきキャラクターへと練る練る練るねした結果、

想定よりもだいぶしっかりした物語に。

鷹也、陽代乃、雅桜、千鶴、みんなお気に入りなので、

好きになってもらえていたら、それ以上の喜びはありません。



めでたく恋仲となりハッピーエンド……なんですが、

もし、彼らを好きになってくれた方が増えて

「もっとわちゃわちゃするのを見たい!」と感じてもらえてるなら、

続きを書きたいかも……と思いました。

それだけ、短編予定だったはずのキャラ達に愛着が湧いてます。


付き合い始め、ウブいふたりがちゃんとイチャコラできるのか?

そもそも関係を公表するべきか。隠すのなら、どう密会するか?

付き合いを公表できないことで、お約束なライバル新キャラが現れたり?

さらには、雅桜と千鶴も何らかの関係に発展していくのか……?


みんないいやつらなので、色々面白いだろうな……

よい甘ずっぱイチャコラが見られそうです。



ランキング[現実世界][恋愛]では、最高【週間2位 / 日間2位】に。

読んでくださった、応援してくださった方のお陰です。

こんなに評価してもらえるとは思っていなかったので、

今日、【完結済み】とするか迷ったのですが、

当初の予定通り、完結設定にチェックを入れました。


「続きが見たい」と思ってくれた方、

ぜひぜひ応援よろしくお願いします。

ブックマークは外さないでおいてくれたら嬉しいです……!


ではでは、またその日に。

あらためて、ありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした。かわいらしいお話で、楽しかったです。
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