表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編2

命まではとってませんよ

作者: 猫宮蒼

 人によっては痛い話



「隊長……俺、アーシャの事怖くて正直同じ部隊にいたくねぇよぉ」

「諦めろ、腕は確かなんだあいつ」

「でもうっかりで死ぬかもしれないだろ!?」

「大丈夫だ。あいつはきっちり区別している」

「隊長、震えてますよ」

「お前がアーシャの事を話題に出すから」


「もう、あいつすっかり俺らのトラウマだもんなぁ……」



 彼らは城砦都市ルブリスの治安を維持する騎士である。

 そんな彼らは一仕事終えれば酒場でたっぷりと飲み、食べ、英気を養いまた次の日に繋ぐのだが。


 今までは時として大変だけど楽しい職場であった。

 ところが、とある女騎士が所属してから彼らの生活は少しだけ変化したのである。


 アーシャ・リンドームという女はやや小柄で、騎士、と言われてもピンとこない見た目をしていた。

 もう少し高身長で立っているだけでも凛とした雰囲気を漂わせているような女性であれば、周囲も女騎士として普通に受け入れていただろう。しかしアーシャはどちらかといえば雰囲気的には花屋にいそうな、そんな雰囲気の少女といってもよかった。


 騎士なんて大半は男ばかりだ。女性もいるが比率としては圧倒的に男が多い。

 そんな中で、子ウサギみたいなアーシャがある日配属された事で、彼らはこんなおちびちゃんがやっていけるのだろうか……と不安に駆られたりもした。


 男ばかりの職場、それでいて治安を守るため時として戦闘は当たり前のように存在する。

 下手をすれば命を落とすこともあり得るのだ。


 そんなところに、か弱そうな少女が、となれば心配になっても仕方がなかったのだ。


 配属されたばかりのアーシャは素直な少女だった。

 こちらの指示を真面目に聞いてこなし、働きぶりは文句など出ようもなく。

 まるで子犬のようだった。

 先輩たちの助言をよく聞き、よく働く。一生懸命なその姿はどう考えても荒むしかない野郎どもの心の癒しでもあった。

 あまりにも純真ピュアッピュアだったので、野郎どもも下品なジョークを飛ばすような事はしないよう一応気を使ったりもしていたのだ。

 ちょっとエッチな話題とか口にして、それを聞いたアーシャが一瞬遅れて意味を理解して顔を赤くして……なんていう想像をしたこともあったけれど、そのせいでうっかり今後避けられるような事になればそれはそれでとても悲しい。

 職場の癒しであり、アイドルのようなものだったのだ。アーシャは。



 それが恐怖の存在として彼らのトラウマになったのは、それからしばらくしての事。


 ならず者たちがこのルブリスにしれっと入り込んだらしく、彼らは都市内部で様々な犯罪を起こしてくれた。金目の物を奪うなんて当たり前のところから始まり、気に食わない者を暴力で屈服させ、女を犯す。

 都市への侵入を許した事そのものが大きな失態であったけれど、悪党がいかにも悪党ですと外見で宣言しているわけではない。彼らが入り込んだ時点では、身分を証明するギルドカードも問題なしだったのだ。

 もっとも、そのギルドカードもよくできた偽物であった事が後で発覚したわけだが。


 その頃には奴らはやって来た時と姿を変えて、実に騎士たちを翻弄してくれた。

 数名捕縛しても、仲間の居場所を割る事もせず、残党を捕まえるのに相当苦労したのだ。



 だが、そんな中、アーシャと彼女が所属している部隊の騎士数名、そして隊長は彼らがアジトとして使っているだろう建物を突き止めた。


 そして残党を一気に確保しようとして包囲網を敷いた。


 その時に隊長はアーシャには後方支援に回って欲しいと確かに告げたのだ。

 何せ相手は女子供だろうと老人だろうと構わず、むしろ弱者であれば遠慮なく狙うような奴らである。

 子供は時としてロクな抵抗ができないだろうという事で暴力のはけ口に、老人は老い先短いのだからと有り金を全て奪いとり、新手の使い捨ての資源だとばかりに。

 そして女は性欲のはけ口と、これもまた気に食わなければ暴力でもって支配する。


 そんな、擁護のしようもないくらいのどうしようもないロクデナシの悪党集団。

 数名捕まえていたといっても、それでもまだ数はいる。

 そんなところに愛らしい見た目のアーシャが、いくら騎士とはいえそんな少女がやってきてみろ。奴らの格好の獲物と見なされてもおかしくはない。


 アーシャは自分も戦えますと言っていたが、それでも最終的に後方支援として納得してくれた。

 けれども万が一の時は、交戦しますと言われ隊長は確かに頷いた。

 数の上で不利だと悟ればすぐさま撤退しろと伝え、もし相手を倒したのであれば、凶器を回収するなりして相手を無効化するだけでいい。捕まえて詰め所に連れていくとかは二の次でいい。

 そう、言い聞かせた。


 アーシャは素直に頷いた。


 そう、ここまでなら別に何も問題はなかった。アーシャでなくとも、他の仲間ともこういったやりとりはあるので特別重要視するような事はなかった。


 しかし問題はこの後だ。


 隊長や他の仲間たちが建物に突撃した際、すっかりお尋ね者と化した彼らは半数だけいて残りの半分は外にいた。

 そして残りの連中はなんとも最悪な事にアーシャと遭遇したのである。


 捕まえた連中から残りの奴らがこれから戻ってくるという話を聞きだし、そいつらがやってくるであろうルートの途中に高確率でアーシャがいる。そんな状況に気付いた隊長たちは、折角安全な後方に配置したのに……! と内心焦りながらもアーシャの援護のため、動ける奴から急いで向かった。

 その筆頭は隊長である。

 俺たちの部隊の癒し系があんな連中にもし汚されでもしていたら……!


 その時は司法が裁く前に俺らが直々に仕留めるぞ……!

 そんな気持ちで。


 ところがそんな気持ちは全くの無駄に終わった。


 アーシャはいた。

 ついでにならず者どもも転がっていた。

 隊長たちが危惧したようにアーシャは確かに悪党どもの残りの仲間と遭遇し、戦闘に突入してはいた。

 数の上で不利ではあったが、アーシャは無事であった。

 路地裏で、血飛沫飛び散らせていたが。


 最初、アーシャが何をしているのか隊長たちは理解できなかった。


 ならず者たちは生きてはいたが、誰も立ち上がれそうにない状態で転がって、命乞いをしていたのである。いずれも下半身をさらけ出した状態で。


「あっ、先輩!」

 まるで花が咲いたみたいな笑みを浮かべたアーシャに、思わずこちらも笑みを浮かべそうになったが直前で気を引き締める。

「アーシャ」

「はい」

「何を、している……?」


 正直聞きたくなかった。でも聞かなきゃいけなかった。何故って隊長だから。

 上司は部下の報告を聞かなければならないので。


 そしてアーシャはそんな質問に、きょとんとした顔をしてちょっとだけ首を傾げた。

 見てわからないのかなぁ? とか言い出しそうでもあり、どうしてそんな事聞くんだろうと言いたげでもある。


「何って、先輩……じゃなかった、隊長が万一彼らと遭遇し交戦するような事になって、倒した場合は凶器を回収しろと言っていたので」


 あまりにも当たり前のように言われて、隊長は周囲の仲間たちの視線に耐えかねるように叫んだ。

「そうだけど! そうじゃない!!」


 何故って、アーシャはならず者たちを倒したついでに下半身をもろだしにした上で、男性器を切断していたのである。何がどうしてそうなった!?

 思わずそう叫んだ隊長にアーシャはどうしてそんな事を言うんだろう? みたいな顔をして答えたのである。


「殴ったり蹴ったりする手足も武器と言えば武器だから凶器かなって思って切り落とそうとしたんですけど」

「ひぃ!?」

 即座にならず者たちから悲鳴が上がった。

 アーシャの判断次第では手足も切り落とされていたとなればそりゃ叫びたくもなる。


「でも彼らはこの後グルセリオス監獄で労働奴隷としての道を歩むだろうなと思ったので、手足がないと不便だろうと思いまして」

「あぁ、うん、そうだな……?」

「では今この場で回収できる凶器はとなると、これかなって」

「これかな、でナニを……?」



 アーシャの言い分はこうだ。


 彼らは確かに多くの人たちに暴力をふるった。

 時に直接拳や足で。

 時として武器を使って。

 その中で女たちを犯した際の凶器はというと、股間にぶら下がっているブツである。


 そういう意味では確かにそれは凶器だ。


 武器を持って押し入ってきた強盗を捕まえた場合、当然その用いた武器は押収する。

 魔法を使っての悪事を働く者であれば、魔封じの首輪や装飾品で魔法を封じる。場合によっては舌を切り落とす事だってある。


 では、女性を犯したのであれば。


 確かにそれは凶器である。アーシャの言い分は間違ってはいない。


「でもおかしいですよね。他の犯罪者たちの武器は基本的に回収するのに、どうして性犯罪者の凶器は回収しないんでしょう。そのままにしておくから、また次もやらかすと思うんですけど」


 可愛い顔して言うアーシャに、隊長は何も言えなかった。

 確かにそうだけど。

 でも、それ切り落とした後で元に戻せないからさぁ……と言いたくても、でも犯罪者の凶器なんだから、回収しないとダメなのでは? と返されるとどうにも反論しがたい。


 これが何も悪い事をしていない健全な男性のブツを切り落とした、とかであるのならアーシャを叱るなりもう二度とするんじゃないぞと言えるけれど、しかしアーシャが切り落としたブツの所有者はどう足掻いても重罪の犯罪者のブツなので。


 使い物にならなくなったら困るだろ、と言おうにも、でも使える状態にしたらまた女性が被害に遭うわけですし、と返されるだろうし、ましてやそんな犯罪者の子を欲する相手もいないだろう。というか、うっかりそれで子ができても女性の方が前向きに産めるはずもなく。産む前に処分するにしても母体に影響は出るし、仮に生んだとしてその後育てられるかどうかはとても微妙なところ。

 愛する人との子であれば母親になって育てるだろうけど、無理矢理好きでもない男に犯されてできた子を慈しんで育てろ、は流石に無茶が過ぎる。産んだ後で殺すかもしれないし、育てたとしても愛情なんてなく奴隷のような扱いを続けるかもしれない。そうなればどうしてそんな目に遭っているのか子供にはわからないだろうから、母親を憎んでいつかその子が母を殺す可能性も出てくる。

 殺さずとも、母親を慕っていた子が母から憎まれていたと知ったなら心の傷は深いだろうし、自分の出生を知った子供が果たしてその後の人生で幸せになれるかも危うい。

 どう足掻いても不幸になる可能性が高すぎる。


 そう考えると、これ以上こいつらの被害に遭う女性はでなくなる、と思えばむしろそれが正解なのではないか、と思わなくもない。


 そもそもの話、こいつらが悪事を働かなきゃこんな目に遭う事だってなかったはずだし。


 じゃあ悪いのはやっぱこいつらでは。隊長は考える事を放棄して雑にそう結論づけた。


「そういうわけですので隊長、こちら、押収した凶器です」


 言いながらアーシャが倒した男どもから切り落としたブツを渡された時点で、隊長も悲鳴を上げて倒れたくなったが。いらないし正直触りたくない。自分のブツなら触ることはそりゃあるけれど、他人のナニを渡されるって人生で一度もないと思ってたのに……そう叫びたくて仕方がなかった。

 なおこの時点で周囲の仲間たちは皆内股になっていた。気持ちはわかる。隊長も気を抜くときゅっと足が内股になりそうだったので。



 下ネタとかそういうの、アーシャの前では言わないようにしておこうな、とか色々と気遣っていたのに、そのアーシャ本人が犯罪者の野郎どもの下半身を剥いてナニを切り落とすという蛮行に及んだとか、最早恐怖でしかなかった。



 この話は他の部隊の騎士たちにも広まった。

 そしてアーシャは、騎士たちのアイドル的な立場から一転、恐怖の大魔王みたいに思われるようになったのである。


 アーシャちゃんが怖いよぉ……なんて話題もこれっきりであればよかったのに、よりにもよってこの後も度々この手の男性犯罪者が現れると躊躇う事なくアーシャはやらかしていたので。しかも回を追うごとに手慣れていっているので。


 いくら同僚、先輩後輩の間柄といっても野郎から見ると恐怖でしかなかったのである。



 そして今回も、アーシャは当たり前のように仲間たちに恐怖を植え付ける事となり、仕事終わりに立ち寄った酒場で彼らはアーシャに対しての恐怖を共有し、いっそ配置換えしたいと嘆き、でもできないんだだって他の部隊もアーシャ怖いからこっち寄越さないでっていうし、と隊長がしょんぼりし、いっそアーシャと離れるためにはもう騎士を辞めるか否かである、となって。


 でも仕事辞めたら生活がな~~~~! 冒険者は流石にギャンブルが過ぎるっていうかさぁ~~~~!


 今日も彼らはお酒の力を借りて、大いに愚痴を吐き出して、恐怖を乗り切るのであった。

 実際この手の犯罪で去勢されたとしても、その場合性欲を発散できず道具を使って犯罪に及ぶとか他の凄惨な犯罪に走るとかいう話があったような気がしてるので、この手の犯罪って刑罰が難しいですね(´・ω・`)


 次回短編予告

 私たち、きっと出会う順番を間違えてしまったの……

 そんな身分違いの恋。

 物語の中の話であればよいけれど、しかし残念ながらそうではなくて。

 このままでは面倒な事になると判断された大人たちによって、二人の恋は終わりを迎える。


 次回 王家に伝わる惚れ薬活用法

 お薬は用法・容量を守ってお使いください。

 投稿は近日中!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
うんうん、理に適ってますよね。と普通にアーシャちゃんの思考に納得してしまいました。 物理的カットとともに、矯正プログラムもですが薬物療法とかでテストステロンを抑制とかすれば再犯率は激減するんじゃないか…
後書きに去勢された犯罪者が性欲発散のために道具を使った犯罪をするとあるが、それは衛生的に管理された状態で医者が麻酔を掛けた上で実施するから再犯しようという意思を持てるのだと思う 犯罪者捕縛の一環で女性…
性犯罪者はチン切りがお約束ww でも、凶悪性の性ある犯罪者は、脳の異常だそうですから、修正は難しいでしょう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ