魔界のプリンス登場
ランド国の外れには『魔神殿』がそびえ立っており、そこにはアスカが倒すべきワルサーが住んでいる。魔神殿の中央の間では、ワルサーの幹部達である“アニマルズ”がけげんな顔つきで話をしていた。
グズリー「昆虫一族の奴らめ…。未だにアスカを始末できんとは…」
ニャース「使えん部下たちばかりだニャ」
そこへワルサーの幹部であるゴロ・ゴロが近づいてきた。
ゴロ・ゴロ「アスカ…。どうやら君たちでは手に余る相手だったようだな」
フォックス「何だと!?ゴロ・ゴロ!!」
グズリー「テメェこそ、あの魔界皇子にずいぶんとご執心のようだな」
ゴロ・ゴロ「それはどういう意味だ!?」
グズリー「ワルサー様には悪いが、あんな見どころのないガキ…皇子のお守りなんかして何になるんだよ」
ゴロ・ゴロ「見どころがない…だと!!」
フォックス「皇子はあまりにも優しすぎる性格じゃないか。この前なんかケガをしたノラ犬を魔法で治してしまったり…」
ニャース「そうそう。魔族らしい風格がまるで感じられんニャ」
ゴロ・ゴロ「しかし、彼はワルサー様の……」
グズリー「とにかく、お前の出番はないぞ。せいぜい、皇子と仲良くやるんだな」
しばらくして、ゴロ・ゴロが魔神殿の廊下を歩いているとハリキントンを介抱している魔界皇子を見かけた。
ゴロ・ゴロ「那吒様。ハリキントンとはいえ我が家臣だ。…とは言え、優しい行動はしないでもらいたい!」
那吒「でも、他人助けはしたいよー」
ゴロ・ゴロ「そんなんでは、ワルサー様のような一人前の“魔王”にはなれませんぞ」
那吒「それよりもゴロ・ゴロ。僕は外で遊びたいのだが…」
ゴロ・ゴロ「なりませぬ!人間界で遊ぶことはワルサー様から固く禁じられております」
那吒「でも、ここに居ても退屈だよ〜」
ゴロ・ゴロ「那吒様、ワガママはいけませんぞ」
那吒はしばらく考え込んだ後、あるモノを取り出した。
那吒「ゴロ・ゴロ、いつも世話してくれたお礼にプレゼントをやるよ」
ゴロ・ゴロ「プレゼントですと…?」
那吒は玉を取り出したと同時に地面に叩きつけ、その後、ゴロ・ゴロの回りに煙が充満した。
ゴロ・ゴロ「ゴホゴホ……。煙り玉……」
那吒「悪い、ゴロ・ゴロ。夕方までには戻る」
那吒はその場を走り去った後、幾体もの魔神が保管されている格納庫へと向かった。そこで自身がいつも操縦している「青影丸」に乗り込んだ。
那吒「今日もひと遊びしようぜ。行け!青影丸!」
青影丸は魔神殿を飛び立っていった。
一方、アスカ達は田んぼ道を歩いていた。田んぼに生えている稲は、ちょうど収穫期ということもあり、稲穂がいっぱい実っていた。アスカ達はその光景に見とれていた。見とれながら歩いているとハトに種モミを与えている一人の少年に出くわした。
ミコト「ワー、楽しそう!アチシもやるー!」
ミコトも少年と一緒に種モミをハトの前にばら撒いた。二人が種モミを全部ばら撒き終えた後、少年が話しかけてきた。
??「ところで、君たちは一体誰?」
ミコト「アチシはミコト」
アスカ「僕はアスカ。宜しくな」
(アスカ?どこかで聞いたことがあるような…)
??「僕の名は那吒だ。せっかくだから一緒に遊ばないか?」
ミコト「わーい!!遊ぼ!!遊ぼ!!」
お互いに自己紹介が終わった後、3人はミコトが持っていたボールで投げ合いをした。しばらく“ボール遊び”をし、その遊びが終わった後、那吒がミコトに話しかけてきた。
那吒「君、なかなか元気だな。アンタ、僕のヨメにならないか?僕は明るく活発な女が好きなんだ」
ミコト「ヨメって何だ?」
那吒「僕の身の回りの世話をしたりする者のことだ。嬉しいでしょ?」
ミコト「わーーいッ!ヨメヨメ!」
アスカ「………」
こうして那吒は夕方近くまでアスカ達と遊んだ後、自身の魔神で魔神殿へと帰っていった。
翌日、アスカ達は街の広場へと赴き、広場のベンチでライスバーガーを食べている見覚えのある少年を見かけた。
アスカ(アイツ、黒金じゃないのか…)
ミコト「黒ちゃん!久しぶりー!」
ミコトは黒金にまた会えたことに嬉しそうな顔を浮かべていたが、黒金は特に喜ぶ様子もなく、真顔でアスカ達に話しかけてきた。
黒金「またお前たちと会うことになろうとは…」
品木斎「この子は誰だウラ?」
アスカ「コイツは黒金」
ミコト「この犬は品木斎。アチシの父上だよ」
黒金「お父さんだって…!?」
アスカ達は品木斎の事を黒金に説明した。
品木斎「ここはどうだウラ。ワルサーを倒す者同士で一緒に行動しないか?」
黒金「それはダメだ」
黒金はキッパリと言った。
ミコト「エーッ!どうしてよー!?」
黒金「前にも言ったように、俺は“ある人”の命でワルサーを倒しに行くだけだからね……。それに、俺の戦い方は他人に誉められたもんじゃないのだが…」
ミコト「それでも良いよ!一緒に行こう!!」
アスカ「僕が敵に優しくすると思ってんの…?ヒーローは悪い奴をやっつけるからカッコ良いと思うんだけどな…」
黒金はしばらく考え込んだ後、口を開いた。
黒金「よし。俺のやり方にケチをつけないなら付いてってもいいが…」
ミコト「わーい!!ヤッター!!」
ミコトは嬉しそうに飛び跳ねた。
昆虫一族の長である“ヘラクレス”が住んでいる屋敷では、ドクがコムギ湖のほこらから盗んできた「変化の杖」をヘラクレスに手渡していた。
ヘラクレス「これが変化の杖か……。こんなモン、今すぐにへし折ってくれるわ!」
ドク「ちょっと待ってください!!ヘラクレス様!!」
ドクは思わず声を荒げてしまった。
ヘラクレス「なぜ止める!?」
ヘラクレスは厳しい目つきでドクをにらみつけた。ドクは自身の望みを叶えるためにはこの杖が必要なのだが、そんな事をヘラクレスの前では言う訳にもいかず、ドクはなんか良い方法がないかと頭が痛くなるほど考えた。しばらく考え込んだ後、ドクは口を開いた。
ドク「ヘラクレス様。実は、この杖の事をアスカ達に話したことがありまして…」
ヘラクレス「ほう、それで…」
ドク「どうでしょう。ここは一つこの杖をエサにアスカ達をおびき寄せてみるというのは…」
ヘラクレス「………」
ドク「アスカを倒したとなれば息子たちの大出世は間違いないですぜ」
ヘラクレス「なるほど。そいつは名案だ」
ヘラクレスはニヤリと笑った。
(へへへ…。我ながら上手く考えたモンだぜ)
黒金がアスカ達の仲間に加わった後、黒金の口からアスカ達が今回立ち寄った「トウガラシティ」の事について話し始めた。黒金の話によると、トウガラシティは今、バッタ・バッターが支配しており、奴が支配してからは町民達は米作りを強要されており、彼らが耕した米は全部バッタ・バッターに持っていかれてしまうとのことだ。
アスカ(それで、この街には田んぼが多くあったのか…)
アスカ達が黒金の話を聞きながら歩いていると、道の真ん中に虫の姿をした獣人が2人立っていた。一人はカブト虫のような姿をした獣人であり、ガッチリした体格をしている。もう一人はバッタの様な顔つきをした獣人であり、細身で長身の体格である。
??「貴様がアスカだな!?」
カブト虫の姿をした獣人がアスカに叫んできた。
アスカ「何だ!?お前達は…!!」
??「ワシこそが昆虫一族の長、ヘラクレスじゃ!」
??「俺は昆虫一族の長男 バッタ・バッター」
アスカ「ヘラクレス!お前、コムギ湖の近くにあるほこらから変化の杖を盗んだだろ!おとなしく僕に渡すんだ!」
ヘラクレス「あの杖が欲しいか!?ならばワシの屋敷まで来い!もっとも、だどりつければの話だがな…」
ヘラクレスがそう言うと、その場を走り去っていった。
アスカ「待てーーーッ!!」
アスカはヘラクレスを追いかけようとしたが、アスカの目の前にバッタ・バッターが立ちふさがった。
バッター「お前らの相手はこの俺だ!」
アスカ「邪魔をするな!!」
バッター「そうはいかねぇ!親父からテメェを始末するように言われてるんでね…」
バッタ・バッターの背後に敵の魔神である“ベースアタッカー”が現れ、彼は自身の魔神に乗り込んだ。
黒金「俺がやろう」
黒金がアスカ達の前に出てそう言うと、黒金は左手を空に高くかざした。
黒金「来い!!黒星丸!!」
黒金がそう叫ぶと自身の魔神が現れ、彼は魔神に乗り込んだ。
黒金「命乞いは聞かないぞ!!バッタ・バッター!!」
バッター「生意気なガキめ!!それはこちらとて同じことだ!!」
ベースアタッカーは巨大なバットとボールを取り出した。
バッター「食らえッ!!秘技、増える魔球!!」
敵の魔神はボールをちょっと高く上げた後、思いっきりバットを振ってボールに当てた。すると、一つだったボールは数個に増え、黒星丸に目掛けて飛んできた。黒星丸はとっさに防御しようとしたが、複数のボールが黒星丸にモロに食らってしまい、黒星丸はダメージを受けてしまった。
アスカ「黒金ッ!!」
アスカが心配そうな声で叫んだ。
バッター「どうかね?“増える魔球”の味は…。どれが本物か当ててみろ…と言いたいところだが、この技はな、この球をこのバットで打つことで球を複数に増やすことが出来るんだよ。つまり、どの球も本物という訳だ」
品木斎「なんと…!!」
品木斎はすっとんきょうな声を出した。
バッター「そーれ!!もう一丁!!」
ベースアタッカーはまたしても“増える魔球”で攻撃した。今度はさっきよりも球の数が増え、黒星丸はさっき以上のダメージを食らうこととなった。
バッター「どうだ?これでは避けきれまい」
黒星丸はしばらく片ひざを突いていたが、攻撃が終わった後、のろのろと立ち上がった。そして、今まで苦悶の表情を浮かべていた黒金がバッタ・バッターに向かって口を開いた。
黒金「今度は俺の技を見せてやろう」
黒金丸は短い棒のようなものを取り出した。
バッター「そんな棒っきれでこのバトルガンナーとやり合おうというのか?」
バッタ・バッターは相手を小バカにしたような物言いをした。
黒金「もちろん、タダの棒ではない」
黒星丸が手に持っていた短い棒の先から光の剣のようなものが発せられ、ライトサーベルのような武器に変化した。
ミコト「何か、カッコいいな〜!」
ミコトはそのライトサーベルに見とれていた。
バッター「バカめ!そんな細っこい剣で俺の技が弾き返せるとでも…」
黒金「ごたくはいい。もう一度やってみろ!」
バッター「言われなくても…」
ベースアタッカーはまたしても“増える魔球”を黒星丸にお見舞いしようとした。すると、敵の魔神が宙に投げた球をバットに当てたと同時に、黒星丸が所持していたライトサーベルから電撃のようなものが発せられた。
黒金「ソードブレス!!」
今度も一つだった球が複数に増えて黒星丸にめがけて飛んできたが、黒星丸は自身が所持していたライトサーベルをバットのように思いっ切り振ってみた。すると、ライトサーベルから衝撃波が放たれた。衝撃波は複数の球を全て弾き返した後、ベースアタッカーに向かって飛んで行き、球は全て敵の魔神に命中した。 その後、ベースアタッカーは仰向けに倒れてしまった。
黒金「もう一度、さっきの技をやってみるか?また弾き返すけど…」
バッター「くそ〜。こうなったら…、変化!!ビッグボール!!」
ベースアタッカーは自身の手足を引っ込め、巨大な球へと変身した。魔神は勢いよく転がりながら、黒星丸に体当りした。黒星丸は仰向けに倒れたがすぐに立ち上がった。
バッター「さっきの技を出すヒマなんか与えないぜ!」
今度も勢いよく転がりながら突っ込んだが、黒星丸は済んでのところで敵の魔神の攻撃をかわした。
バッター「このガキ!よくもかわしたな!」
黒金「敵に自ら殺られにいくバカがいるかよ!」
ベースアタッカーは黒金が言ったかと思うと縦横無尽に転がりまくった。しかし、黒星丸はどの攻撃もかわし続けた。その後も、黒星丸はベースアタッカーの攻撃をかわし続け、この状況が続いた後、ベースアタッカーが続けて攻撃しようとした時、バッタ・バッターは自身の魔神が宙に浮いていることに気づいた。彼が下を見たと同時に自身の魔神が勢い余って崖を飛び越えていたことに気づいたものの、すでに手遅れだった。
バッター「しまったーー!!!夢中になり過ぎて崖を飛び出してしまったーー!!!」
彼がそう叫んだのと同時に自身の魔神は勢いよく落下し、地面に思いっ切り叩きつけられてしまった。バッタ・バッターは落下の衝撃でコックピットの中でうずくまっていたが、再び立ち上がり、魔神を動かそうとするものの
バッター「ひ〜ん!!今ので魔神が壊れちゃった〜!!」
一方、黒星丸は魔神に装備されている飛行機能を使って崖からゆっくりと降りて地面に着地した。
黒金「どうやら、今ので魔神が壊れたようだな。よーし!」
黒星丸は先ず、ベースアタッカーにトウキックをお見舞いした。次に黒星丸は自身の技を繰り出した。
黒金「秘技!!黒結晶!!」
今度は空から複数の巨大な氷柱が降ってきて、その氷柱はベースアタッカーに突き刺さった。その光景をアスカ達は固まって見ていた。
バッター「もう、止めて〜」
バッタ・バッターの泣き言も虚しく、黒星丸は自身のライトサーベルに再度電撃をまとわせ、その剣を
ベースアタッカーに突き刺した。ベースアタッカーは爆散し、バッタ・バッターはその場にうずくまっていた。そこへ黒金が近づき、バットをバッタ・バッターの前に突き出した。
バッター「助けてくれ〜!!俺をやれば親父が黙っちゃいねえぞ!!」
黒金「テメェの親父は悪党だったよな」
黒金は怯む様子もなく、更にバッタ・バッターの前に詰め寄った。
バッター「助けて!!やめてー!!」
黒金「トウガラシティの民を散々苦しめておいて…」
黒金はバットでバッタ・バッターに殴りかかろうとしたが
アスカ「やめろーーー!!!」
アスカは黒金を取り押さえるが、黒金も必死で振り払おうとしている。
アスカ「バッタ・バッター!!!今すぐここから逃げろ!!!」
アスカがそう叫んだのと同時にバッタ・バッターは一目散に逃げ去っていった。アスカは奴が視界から消えたところでようやく黒金を離したが、黒金は不満そうな顔をしてアスカに詰め寄った。
黒金「一体、どういうつもり…!?敵を逃がすなんて…」
アスカ「黒金!!相手が悪い奴だからって今のはやり過ぎだぞ!!」
黒金は少し考え込んだ後、アスカに対してこう言い張った。
黒金「アスカ…。お前は見たところ正義感が強くて真っすぐそうな性格だ。ゆえに、悪党には情けをかけないモンだと思ってたんだがな…」
黒金はがっかりしたような顔をしていたが、そこへミコトが重い口調で黒金に話しかけてきた。
ミコト「イジメは良くないよ〜」
黒金「ミコト君。俺から見るとトウガラシティの民を散々苦しめてきたバッタ・バッターの方が“イジメっ子”に見えるのだが…」
いつもは笑顔を浮かべているミコトが神妙な顔つきをしているが、黒金は取り合う様子もなかった。
品木斎「黒金よ。ハッキリ言っておくウラ。我々はワルサーの奴らからランド国の民を救うために戦っているのであって、奴らに仕返ししたくて戦っている訳ではないウラ!」
品木斎が啖呵を切った後、黒金はミコトに対してこう言った。
黒金「僕の事が嫌いになったか?」
ミコト「嫌いにはならないけど…」
黒金「そうか……」
黒金は再びアスカ達に同行するつもりでいたが、全員 神妙な面持ちのままトウガラシティを後にした。