敬語とは
この子は敬語を使った。つまり、愛家のものでは無いのだろう。ハルが補足説明をしてくれる。
「最近は、愛家が発展してきたおかげで外部から来る商人や住民が増えてきたんだ。でも、その影響で愛家のルールを知らない人や守らない人が増えて、犯罪率が上がってるんだ」
なるほど。これは早急に対応しなければならない問題かもしれない。愛家は思想を共有するもの達で独自に作られたコミュニティーなのだろう。小さい状態では通用していたかもしれないが、大きくなったら全く通用しないコミュニティーである。だが、国と称してるだけあって愛家はそこそこでかい。ここまで大きくなれたのにも理由があるはずだ。
「普段ってこういう犯罪ってどうやって対処してるんだ?今回は、ハルとサミーがいてくれたからどうにかなった訳だが。」
「普通は気づいた人全員で逃がさないよう取り囲むよ」
なんだそりゃ。野蛮すぎる
「兵士みたいなのが見張ってたりしないのか?」
「しないよ」
なるほどなぁ。じゃあ今回逃げられたのは、
「ルールを知らないもしくは守らない人口割合が増えてるからか」
まぁ、確信したことといえば、この子はそこまで悪くはないってこと。どちらかと言うと、社会的な問題だ。だが、この子を預かれる程の役割にいない。さて、どうしよう。
めちゃくちゃ頭を捻ってたら、サミーが助け舟を出してくれた。
「リーベにはコウジから学ぶように、コウジを守るように指示されてるんだ」
なるほど、俺への信頼度が高いのは、リーベが俺の事を高評価してくれていたからという訳だ。サミーは続ける。
「明日、リーベが帰ってくる。その時に、リーベに判断を任せよ!その間はコウジが預かってればいいんだよ!」
元気が良い事だ。まぁ、気を使ってくれてるのかもしれない。
「ありがとうな、サミー。ハルはそれで大丈夫か?ハルの意見も最もだと思うんだが、やっぱだめだと思うんだ」
上手く言うことが出来ないが、やっぱ違う気がする。納得してないようにも思えるが、首を縦に振ってくれた。
「それで大丈夫だよ。だけど、後でお話しよ?」
怖さはあまりないお話しよだったなって思った。てか、この子の意見も聞かないと
「それで大丈夫?」
「ありがとうございます……!」
涙目でこちらを見あげてきた。その時、初めてローブの中の姿を見たが、銀髪の猫耳だった。
城(正確にゆえば、城の隣の旅館?みたいな所)に帰って、ハル、サミー、俺、銀髪の猫耳で輪になって話す。銀髪の猫耳は飯を食べながら。とりあえず今までの話を纏めておこう。俺は罰を軽くしたい。ハルはルールを守りたい。サミーはリーベの意向に従う。そしてハルはサミーの提案を飲んでくれた。何とも優しいことである。
「ここで話したいことはこの子の処遇ではなく、この子のこと。それで問題ないか?」
周りが頷いてくれる。
「じゃあまず名前はなんて言うんだ?」
「シュリセです」
おけおけ、シュリセね。身長はサミーより大きく、ハルより小さいという感じだ。
「ここは愛家だが、なんで敬語を使うんだ?」
「ごめんなさい。敬語しか使ったことがなくて、敬語を使わない喋り方がわかんないです」
ふむ、確か敬語を使うのは礼家と軍家とかだったか。
「シュリセはどこの家の者なんだ?」
「礼家です」
礼家、シュタール様ってやつがいるところだな。領土も1番広いと来た。礼家は身分関係を重んじるらしい。だから、身分関係におおじて、敬語とタメ語を使い分ける。つまり、猫耳は身分が1番下というわけか?
「ハル、猫耳って礼家の中で身分は1番下なのか?」
「そうだよ」
じゃあ、敬語以外使えなくて当然か。
「というか、1番大切なことを聞いてなかったな。なんで愛家に来たんだ?」
「捨てられたんです」
偶然なのか分からないが、サミーの境遇と重なるな。ってことは。どうやらハルも同じ結論にたどり着いたようだ。ハルが質問する。
「もしかして、記憶なくなってる?」
深刻そうな声と顔で問いかける。
「いえ、なくなってないです」
なかなか予想は当たらないものだなぁ。だが、分かったこともある。礼家は猫耳が捨てられていることには関与しているかもしれないが、記憶を無くしてはいないということ。まぁ、この子だけで判断するのも早計かもだが。
「どうして捨てられたんだ?」
「……私、情報ノルマに毎回達成することが出来なくて。」
思い詰めることがあるのか、泣き顔になってきた。その顔で
「頑張ってたんですけど、ダメでした。」
少し強がって笑っていた。見てるこっちが辛い。だが、踏み込まないといけない言葉があったな。
「情報ノルマってなんだ?」
「猫耳は直線上なら離れていても情報交換が出来るんです。サミーさん?なら知ってると思いますが。だから、情報を貰えるよう猫耳に交渉に行くのですが、全く上手くいかなかったんです」
涙を拭きながら話す。いま、とんでも情報が出てきた。ほんとに泣いてる途中悪いんだが。そんなこと出来るの?って思ってサミーに目を合わせる。首を横に振る。情報のやり取りが出来るって知ってた?ってハルに目を合わせて問いかける。首を横に振る。こりゃとんでもないことが起きてるのかもしれない。
「それは猫耳なら誰でも出来るのか?」
「もちろんです」
情報はいつの時代だって戦局を左右する。もし他の国がこのことについて知らないなら、礼家は圧倒的情報アドバンテージを持っていることになる。だから国がでかいのかもしれない。だが、不可解な点もある。
「実は、俺たちは猫耳が情報交換出来ることを知らないんだ。」
「えっ!そうなんですか!?」
「そうなんだよ。愛家は3番目にでかい国だ。情報網はそれなりに構築してるよな?ハル」
「もちろん、色んな情報を色んな所から得ているよ」
「ってことは、愛家が知らないのは猫耳が情報交換出来るという情報がメジャーじゃないからか、礼家が秘匿してるかだからじゃないか?憶測ではあるが」
そう、礼家が秘匿している可能性は高いと思う。情報ノルマとか言ってたし、言い方的に他にも猫耳が働いてそうだったからな。
「だから、不可解な点がある。なんでシュリセを捨てたんだ?」
相手は情報の大切さを理解している。その上で情報を持った者を外に流した。明らかに矛盾が生じてる。
「それは、分かりません」
だよなぁ。知ってるわけないもんな〜。悩みに悩んでると、サミーがちょっと聞きたいことがあると言い始めた。
「礼家に従える前の記憶はあるか?」
真剣な眼差しで聞く。それに対し、シュリセは目を見開いて
「言われて見れば、確かにありません!!」
初めて記憶がないことに気づいたようだった。




