街とは
城の敷地内を門から出て、街に繰り出した。街の雰囲気は、よくあるファンタジー世界の感じである。露店が一直線に並んでいて、地面はレンガとか石とかじゃなく、土を固めた道路である。初めて見る景色に割とドキドキしていて、心踊っている。これが、海外旅行をした時の感覚だろうか?海外行ったことないから分からない。
「どうしたの?」
そう言いながらハルが目の前で手を振った。
「いや、目新しい景色でつい見とれてた」
「なかなかお目にかかれない発展してる都市だしね!」
サミーが胸を張りながら微笑んでいる。実は感動している理由がちょっと違うんだがな。まぁ、分かりっこないからな。この海外に来てる気分。だって、文字だって見たことないし…………ん?文字が読めない?おぉ、日本語じゃないのか。まぁ、話すことができるんだから、文字を覚えるくらい楽勝だろw。こちとら何も出来なかった英語でさえ、ある程度読めるようになってるんだから。
「こーら」
いきなりシュワシュワする甘い飲料水の名前を言ったかと思ったら、人差し指で俺の頬を突っついてきた。恋愛経験豊富(幼稚園の頃モテた)で、茨の道(子供のころ、らりるれろが言えなくて泣いたこともあった)を通り抜けて来た俺でも、さすがに顔と耳を真っ赤にした。真っ赤になったことが恥ずかしくて更に真っ赤になる悪循環である。さぁ、平常心だ俺!クールでパーソナルな俺なら、この状況乗り切ってみせる!
「あっわわわ、あっ、どっこいしょ!」
口から泡を吹きそうである。流石に慌てすぎである。頬ぐらいでこんなになるとは。友達と話す時のネタにしよう。
「ど、どうしたの?」
「大丈夫か?」
ハルの方はほんとに困ってる様子で、サミーは何やってんだ?とちょっと呆れてるようである。
「すまない、取り乱した」
とりあえず謝っとく。
「もっと街見たいから歩こうぜ」
そう言って俺は歩き出した。
2人はよく分からんって顔をしながらも、着いてきてくれた。その優しさ恩に着るぜ!
歩くこと数秒、そう、さっきから数秒しかたってないのだが随分グロテスクなものを見つけてしまった。皮が剥がされた鳥がそのまま売られているのだ。料理もまともにしたことないので、それを見るだけで割と嫌な気持ちになる。俺って恵まれてたんだなぁ〜ってしみじみと感じる。ん?ビビッ!俺の脳に電流が走る!!サミーを人としてカウントしない理由、つまりこうです。この時代の人達は、可愛い動物を人のように扱うと、食料とすることが出来なかったのだろう。動物をただの動物とみなし、愛を与えないからこそ、初めて食料として食べることが出来るのではないだろうか?あれ、でもそうなるとサミーを食べることになる?ええ?流石にそれは聞くことが出来んな、怖すぎる。文化が違いすぎるから、サミーを食べることも可能性はあるんだよな。そうなったら何とか助け出すか。
「何か気になるものはある?」
ハルが俺に聞いてきた。
「あの杖ってなんだ?」
鳥のことは聞かなかった。とりあえず、杖がずらって並んでるのを不思議に思って聞いた。
「あれは、魔法の杖だね」
「コウジの故郷にはなかったのか?」
「ああ、なかった」
変に知ってるとか言ったら、説明不要だね!ってなっちゃうのでここは正直に答える。
「魔法の杖には2つの大きなメリットがあってな」
サミーが得意げに解説し始める。
「まず、魔力を生成、貯蓄することが出来ること。2つ目が、魔法を操り安くすることだ」
めっちゃくちゃでかいメリットやん。
「2人はどうして使わないんだ?」
絶対もった方がいいだろこんなの。
「私は近距離タイプだから」
「サミーも近距離タイプだからな」
○○タイプって、ポケモンみたいだな。となると、杖持ちはイメージ的には長距離タイプだよな。でも、おばちゃんは近距離で戦ってたよな。
「リーベは杖持ちながら近接で戦ってたぞ」
「あれは中距離タイプだね。それと杖持ちであそこまで近接に強いのはリーベぐらいだよ」
リーベって強いんやな。なんか一瞬で倒しちゃってたから強い実感が湧かないわ。
「コウジのタイプはなんなの?」
「俺、俺か?タ、タイプなんて概念なかったよ」
「そうなのか!」
それは興味深いねとハルはうんうんしてる。
そうやって楽しく話してたら、何やら叫び声が聞こえてきた。
「ど、泥棒よぉーーー!」
お、リアルで初めて見たな。テレビとかでならよく見るんだが、実際にこの目で見ると迫力あるよなぁ〜。犯人らしき走ってるやつは路地裏に入ってった。
「2人とも助け……に?」
ハルもサミーもいなくなってた。いつの間に。てことは気づいてからすぐ助けに行ったってことか。流石だな。俺はなかなかすぐに行動を起こせないからな。とりあえず、俺も追いかけよう。そう思い、路地裏へ走った。
路地裏に着いた時にはもう決着は着いていた。黒い何かで犯人は縛られていた。
「大丈夫だったか?」
ハルとサミーの無事を確認する。
「うん、大丈夫だよ」
「これぐらい朝飯前よ!」
どうやらそこまで苦戦もしなかったらしい。
「無事で良かったよ。こいつはどうするんだ?」
盗みは立派な犯罪である。相応に罰を課さないとね。
「もちろん、愛家から追放だよ」
んんんん?追放?
「待ってくれ、そいつ盗みを働いただけだよな?」
もしかしたら何かもっと酷いことをしでかしていたに違いない
「そうだけど?」
願ってもない答えが返ってきた。
「いや、愛家の思想は人全員を愛すことだろ?人を愛してるならこの犯罪者を更生させてあげる方がいいんじゃないか?」
ハルは首を傾げた。
「他人に迷惑かけてるんだよ?しかもただ迷惑をかけるだけでなく犯罪を犯してるからね」
良くない行為ってことは分かってるけど、
「あまりにも処罰が重すぎる」
ただこれに尽きる。
「でも、ルールとしてこうなってるんだよ。確かに可哀想って気持ちもある。けど、例外を作ったら秩序が崩壊しちゃうと思う」
少し深呼吸をする。確かにその考えも正しい。
「それが法律で定めれてるのか?」
「法律?そんな制家みたいなものはないよ」
「え?じゃあルールってなんだ?」
「ルールはルールだよ」
不文法ってことか?それとも暗黙の了解ってことなのか?どうしようか悩んでる俺に、さっきから黙っていたサミーが問いかける。
「コウジ、コウジはどうしたいの?」
どうしたいか。決まってる。
「罰を軽くしたい。そもそも動機はなんなんだ?」
動機によっては追放すべきかもしれない。一応確認しとこう。
「なんでそんなこと気にするの?大事なのは、犯罪をしちゃったことでしょ?」
動機は考慮されないようだ。
分かっている。この世界で、この国で間違ってるのは俺かもしれない。でも、でもやっぱりおかしいと思うんだ、俺。どうしたらいいんだ?とにかく動機を聞こう。
「急に話しかけてごめんね。聞きたいことがある。なんでこんなことしちゃったんだ?」
俺は初めてしっかりこの子のことを見る。ボロボロの黒のローブに身を包んで居て、中の姿は見えないが、すすり泣く音は聞こえた。
「大丈夫だ。安心してくれ、俺はお前の味方だ。頑張ってろう」
出来るだけ優しく声をかける。そしたら、小さく、弱弱しい声ながらも、話し始めてくれた。
「お腹 が 減ってた です」
それは、昨日ぶりの敬語だった。




