第1話 始まり
ーこれは、ごく普通の平穏な物語ー
俺の名前は根村葵。この春から高校一年生。
無事入学式も終え、これから始まる高校生活にワクワクしている。
そんな俺は今、自分の席でウトウトしながら、高校生活最初の昼休みを過ごしていた。
この高校はでかい学校でクラスが多いし家から遠いため同じ中学のやつは見当たらなかった。少し居心地良く感じたが、このまま友達が出来なかったらずっとこんな昼休みを過ごさなければいけないのだろうかと考えると少し悲しくなってくる。いやでもこんな昼休みもアリだな...。
そんなことを考えていた時だった。
ふと廊下の方に目をやると、そこには必死で何かの勧誘をしているチャラそうな人がいた。
その人は廊下を通る人に声をかけるも皆無視するか、冷たい視線で見るだけだった。
俺は一体何の勧誘なのだろうかと耳をすましてみると、「怪異研究同好会」と聞こえた。
そこまで必死に勧誘していたのは自分の入っている同好会を部活動にしたかったからなのだな。なんて考えながら、少しだけ厨二病を煩わせている俺は「怪異研究」といういかにもな言葉に興味が湧いていた。
部活動もちょうど考えていたところだし、もしかしたら友達ができるかもしれないし、怪しい同好会って絶対楽しいよな...。なんて考えている頃には、自然と足が廊下の方へと進んでいた。
そして俺はその人へ向かって勇気を出して声をかけてみた。
「あの...すみません、俺、その同好会に興味があって...。少し見学とかできませんか?」
声をかけてみたものの、余りにも俺がコミュ症過ぎて、おい俺!もっと上手く喋れないのか!なんて少し自分を責め始めてしまっていた。
しかし、目の前にいたその人は、
「マジで!!!いや全然いいよ!今すぐ行こう!」
なんて廊下全体に響く位の大声で返してきた。
少し近くの人の視線がこちらに向いていてだいぶ恥ずかしかったが、少し嬉しくなった俺は、昼休みを同好会の見学に当てることに決めた。
そしてその人に言われるがままついていくと、廊下の端の方に紙に綺麗な字で「怪異研究同好会」と書かれたものが張ってある扉が見えてきた。
そしてその人は扉を開けると、中にいた会員らしき人に
「おーい!この子こんなアヤシー同好会に興味持ってくれてるってさ!」
と大声で話しかけた。
すると、中にいた人は、
「マジか...こんないかにもな同好会に興味を持つやつがいたのか...まぁとりあえず入ってよ。」
と驚いた顔をしながら俺を部屋にいれてくれた。
そして俺が狭い部屋の中にあったパイプ椅子に座ると、
「じゃ、とりま自己紹介しとこうか!」
とチャラそうな人が言った。
「じゃ、とりあえず俺から!俺の名前は阿水修也!二年生!このまじめクンとはそこそこの付き合いでー、後はー、霊感があったりー、能力が使えちゃったりします!以上!」
...? 今なんて? 霊感? 能力? いやまぁ霊感はまだわかる。俺は幽霊はいるって信じているし、こんな名前の同好会なんだからまだわかる。でも能力って何だよ!まさかこいつだいぶ厨二病を煩わせている人なのか? と思っていた矢先、阿水さんからまじめクンと呼ばれていた人が口を開いた。
「はぁ、お前、そんな言い方をしても頭おかしい人だと思われるだけだろ。阿水が急に変なこと言い出しちゃってごめんね。俺の名前は市川千里。あいつと同じ二年生。市川家って聞いたことあるかな?」
市川さんが口にした、この街にすんでいる人なら一回は聞いたことがあるような名前に俺は耳を疑った。
「そりゃあ聞いたこと位ありますけど...。」
「そうなんだ。じゃあ話しは早いね。実は俺はそこの家の長男なんだ。」
いやいやいやいやいや。流石に嘘だろ...いや、嘘だといってくれ。あの霊媒師を育てているとか呪われているとか、でも立派なお屋敷だから実はそこの当主が悪事を働いて大金を得ているとか、話し出せば悪い噂しか出ないあの市川家だぞ。もしかしてこいつも頭イカれてんのか?
「おーい。お前こそ頭おかしい人だと思われてんじゃねーの?」
「うっ、確かに。...まぁとりあえずこの話しはおいておいて活動について話そうか。」
えぇ...おいておかないでくれよ。まぁとりあえず活動内容についてしっかり聞いておくか。
「まぁ活動内容といっても心霊スポットなどにいき、怪異を探し、祓って帰って記録を書く。そんなもんだよ。まぁ少し危険かもしれないけど、楽しいと思うよ。」
「はぁ...。」
「それで、今は会員は俺ら二人だけだからね。君に入って貰えたら嬉しいと思っている。どうだい?」
いや祓うってどうやるんだよ。まぁでも心霊スポットめぐりは楽しそうだし特に断る理由もないし、入ってもいいか。
「入ります。」
「あ~やっぱりまだ怪しいし無理だよね...って、え!?」
「入会したいです。」
「えぇ...ほ、本当にいいの?」
俺は上手く自分の意思を伝えられたことに喜びつつ、なぜこの人はこんなに確認してくるのだろうと思いながらはっきりと返事をした。
「はい。」
「マ、マジかぁ...じゃあ、これからよろしくね...?」
「...? はい。」
こうして、なんか色々とよく分からないまま俺の怪異研究同好会への入会が決まった。
まぁ、楽しい活動になるだろう。なんて思いながら、とりあえずその日は入会届を出して、5限の準備を始めた。