で、発表会はどうしましょう?
そうだった。
リリちゃんもあたしも、完全に忘れていた。
来週の SDGs発表会用のポスターを作るため、部活が休みのあたしたち三人で集まろうってことになったんだ。
やばい。
リリちゃんがおかしな子って思われるの、やばい。
橋本君にリリちゃんが変なやつって思われたくないし……それにずるいけど、あたしまで一緒に変なやつって思われたくない。
「いや~、リリちゃん、演技すごい! 今度さあ、C組の文化祭、悪役令嬢の劇やろうと思って、どーかなあ?」
だめだ、橋本君。ドン引きし過ぎて全身がプルプル震えている。
で、リリちゃんは、相変わらず……あれ? 何か怖い顔をして橋本君をにらんでいる。
さすがに橋本君にバレるのは、嫌なのかな?
「ま、まさか、陛下も転生されていたのですか!」
リリちゃんが、橋本君に指を突き付けていた。
え、ちょ、ちょっとおおおおお! 陛下って、リリちゃんがパラちゃんだった時、ひどいフリ方したサイテー男?
い、いくらなんでも、隠れイケメンの橋本君にそれはひどくない?
……じゃなくて、このままじゃ、あたしも変なやつの仲間にされちゃう。あたし、橋本君には変に思われたくない。
リリちゃんモテるんだから、橋本君ぐらい、あたしにくれたっていいじゃん。
と、また椅子がガタンと倒れた。
「すまぬ! パラリミア!」
橋本君が大声で叫び、土下座していた。
リリちゃんが、そっぽを向いた。
「今さら謝られても遅いのです! あなた様から受けた仕打ち、忘れませぬ!」
「誤解だ! 余はずっとそなたを愛しておった」
あ・い・し・て・る……リアルじゃ一度も聞いたことない。
「おたわむれを! 陛下は一度も妾と寝所を共にしてくださらなかった!」
「そ、それは、こっちは一度もやったことないし、失敗したら恥ずかしいし、それってカッコ悪いし……いや、そーではない! そなたの心を開いてから、と思っていたのだ」
へー、橋本君ってそーなんだー。だからなんだって感じだけど。
「嘘おっしゃらないで! 陛下はあの侍女と通じていたくせに!」
「すまなかった! しかし侍女とは何でもない。いつも顔色を変えぬそなたに妬いてほしくて、そういうふりをしていただけだ」
「信じられませぬ! 陛下は妾が馬番と通じたと、無実の罪を着せたではありませんか!」
リリちゃんも橋本くんも、あたしのこと、完全無視。
「実際そなたは、あの卑しい馬番の男と大声で笑いあっていたではないか! 余には微笑みのひとかけらも見せてくれなかったのに」
「その仕打ちが幽閉ですか!」
「すまなかった。余は三日ぐらい閉じ込めておけばそなたが反省するだろうと思っただけだ。まさかそなたが死を選ぶとは」
ことばは王宮ドロドロドラマだけど、二人は制服の高校生だし、場所は学校の教室なんだよね。
「どうか、妾を惑わさないで!」
「だから、そなたのいない世界に耐えきれず、余もすぐ後を追ったのだ」
「やめて! もう決めたのです。生まれ変わったら、あなただけは愛さないと!」
リリちゃんだかパラちゃんだか分からないあたしの友達は、教室を出て走って行った。
「待ってくれパラリミア! 余が愛するのは、前世も現世もそなただけだ!」
橋本君だか最低男の王様だか分からない男子高校生も、土下座からすぐ立ち上がって出て行った。
パタパタと走る二足の靴音が、ずっと廊下に響いていた。
青い空、白い雲、緑の樹木──毎日、教室の窓から見える風景。
自動車にスマートフォン。クレーン車にショベルカー。どれも、現代に欠かせない文明の利器。
片思いの彼は、親友が好きだった──それは、時たま見かける青春の光景。
「うわあああん! 来週の発表、どーするんだよお!!」
教室の片隅に、女子高校生が座り込んで、泣きじゃくる。
「う、ううっ、あたし、ひっく、前世、モブキャラ、だったのかなあ、ううっ、ひっく」
いつも目にする風景もいくつもの文明の利器も役立たず、今の彼女は、ただただ世界が憎かった。
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