しかも、断罪王妃でした
美人で頭良くてクールなリリちゃん。
高校に入って隣の席の彼女とすぐ仲良くなった。
あたしはリリちゃんが泣くところ、見たことない。
リリちゃんが泣くのが嫌、とかじゃないんだ。でも、泣くんだったら
・テストで首位になれなかった
・吹奏楽コンクールで金賞が取れなかった
そういう理由であってほしい。
前世の王様が冷たいからなんて、くっだらない理由で号泣しないでほしい。
「妾と陛下は、愛のない政略結婚だった。でも、妾は、妾は……王妃として陛下を、心からお慕いしていた、な、なのに……」
男のことで泣くリリちゃんなんて、前世でも現世でも見たくない。
「陛下は、あの卑しい侍女と通じておった! 平民の卑しい女と! そして、あの日……陛下は妾を断罪したのだ! あの侍女を王妃にするため!」
リリちゃん美人だから、泣いても鼻水垂らしても、すごいきれい。
「妾は枕を涙で濡らし、毎夜、陛下を待っておったのに……陛下はこともあろうに、妾が馬番とたわむれていたと、北の塔に幽閉したのじゃ!」
うう、それはサイテー男だ。
「それゆえ妾は、屈辱に耐えきれず、塔から身を投げ、自ら生涯を絶ったのだ」
ひどすぎる。パラちゃん、好きな人からそんな仕打ち受けてたなんて。
でも、やっぱりもったいないよ。
「あのさあ、リリちゃん。前世でパラちゃんだった時は可哀想だったけど、いまのリリちゃん、メッチャ勝ち組じゃん!」
そうだよ。大事なのは今なんだよ。
「成績いつも学年トップだし、吹奏楽で全国大会出るし、あたし、いっつも男子に『宮越さん、彼氏いるの?』って聞かれるんだよ」
男子にそれ聞かれるとちょっとだけ凹むけど、橋本君は違う。橋本君はそんなこと聞いてこない。
「リリちゃんのお父さん、すごい会社の社長だし、お母さんはピアニストじゃん! ね? 前世はひどい男にフラレたけど、いっぱい彼氏作って逆ハーレムすればいいじゃん」
本当はリリちゃんにはそういうキャラでいてほしくないけど、橋本君以外の男子はリリちゃんにあげていい。
「いや、妾は許さぬ! 陛下から受けた仕打ち、現世でも決して忘れるものか!」
「リリちゃーん、そんな恨んだって意味ないよぉ。もう、サイテー男の王様はいないんだから」
せめてサイテー男がこっちにいるなら復讐できるけど、ぜーったい会えない男じゃ、どうにもならないよ。
どうやってリリちゃんをこっちに戻そう、と悩んでいたら、ガタン、と嫌な音がした。
椅子が倒れたみたい。あたしたちは振り返る。
もう、遅かった。
橋本君が、教室で硬直していた。