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親友の前世は、王妃でした

 リリちゃんが謎なことを言い出したのは、三日前。

 突然、前世の記憶が蘇ったらしい。

 前世の世界「ゴンドレシア王国」が本当にあるか検索してみると……あるじゃん! 聞いたことないゲームが。

 リリちゃん、ゲームのやり過ぎでおかしくなっちゃったんだ。


「でもさあ、リリちゃん」


(わらわ)のことは、パラリミア妃と呼ぶがよい」


 言いにくい。「ゴンドレシア」のゲームサイトで見た名前かもしれないが、覚えてない。


「じゃあ、略してパラちゃんにするね」


 本当はリリちゃんにしたいけど、この際どっちでもいい。


「さっきも言ったけど、パラちゃんの国には、車もスマホもなかったでしょ? 変だと思わなかった? こっち来てびっくりしたでしょ? 何で人がこんなちっちゃい板に(はい)れるんだろって」


 あたしは親友にスマホを見せつけた。

 お、リリちゃん、悩んでる。そーだよ、前世がなんとか王国の妃だったら、こっちの世界をおかしいって思うよね?

 よし、こっちに戻ってきて。


「それはない。なぜなら(わらわ)には、宮越(みやこし)リリイとして生きた十六年の記憶が根付いているからだ」


 だめか、失敗。ううん、あきらめちゃダメ。


「でもさあ、そのゴンドレシアと日本って、ことば、全然違うんじゃない? ゴンドレシア語、話してみて」


 やった! リリちゃん困っている。

 あたしにしちゃ、すごく冴えてるぞ!

 本当に前世が謎の国だったら、その国のことば、話せるはず。


「忘れた」


 いっ?


「どうも転生すると、前世のことばは忘れ、記憶は現世のことばに置き換わるようだ」


 ちょ、ちょっとそれ、ずるくない!?

 いや、あきらめない!


「えーと、文字あるでしょ? ゴンドレシアの文字ってどんな形? ルーン文字みたいなやつかな?」


 あ、また考え込んでる。そうだよ。まさか文字まで日本語のはずないもん。さ、こっちに戻ってきて。


「なかった」


 は?


(わらわ)の王国には、文字がなかった」


 また、ずるくない? ……でも、あたし知ってる。

 あたし、ほとんどの科目はリリちゃんにかなわないけど、世界史だけはいい成績なんだ。

 だから知っている。南米のナスカやインカといったアンデス文明には文字がなかったことを。

 文字のない王国もありえるんだ。


 ということで、得意の世界史でリリちゃんを攻略しよう。

 うーん。

 一個思い出したけど、憧れのリリちゃんに、こんなこと聞きたくない。

 でも、こっちに戻すため聞かなくちゃ。


「あ、あのさあ、昔のヨーロッパって、まともなトイレなかったの。だから、その辺でトイレしてたから、すごーく臭かったんだって」


 ベルサイユ宮殿の解説書に書いてあった。トイレは水洗式じゃなくておまる式。しかも数が少なく、出したアレは庭に捨ててたんだって!

 リリちゃんにそんなこと聞きたくなかったけど、仕方ない。

 前世の記憶があるなら、ことばを忘れても、トイレ事情は覚えてるはず。


 リリちゃん、今度はさくっと答えた。


「なかった」


「あ、じゃあ、やっぱリリちゃん、じゃなくて、パラちゃんもその辺でしちゃったの?」


 知りたくないけど、確認しなくちゃ。


「ゴンドレシア人は、そのような人間ではなかった。何も食べない。飲まない。だから、この世界で人や動物がするような排泄行為はいっさいなかった」


 えええええ! いくらなんでも反則過ぎる!


 だめだ。どーしよ。もうすぐグループ研究の集合時間だ。今日は、橋本君が来るはずだ。

 そう、橋本君が。



 いや、橋本君はぜーんぜん関係ないけど、リリちゃん、王妃だったら、あたしが知らない世界を知ってるはず。

 王妃ってことは、王様のお嫁さん。つまり……王様とエッチしたってことだ。

 リリちゃん美人だし、こっちの世界でも、もう誰かとしちゃってるかもしれないけど、やっぱ重要事項だ。


 橋本君は本当に関係ないけど、彼とはこのグループ研究で話すようになった。

 それであたし、気づいちゃった。彼が隠れイケメンだって。

 髪型ダサいけど、目がキリっとして、それにすごく頭いーんだ。


 SDGs(エスディージーズ)のことなんでも知ってて、最初、議論がグチャグチャになった時「まず、どのゴールを研究するか絞ろうよ」って言ってくれたんだ。

 だからあたしも必死に勉強して「SDGsってカッコイイけど、全部達成しようとすると矛盾が出てくる気がする」なんて言ったら「村木(むらき)さん、するどいね」って、さりげなく肩ポンってされたんだよお!


 今のところ橋本君とは、RIME交換して、徐々に詰めてる最中。最近、研究発表以外の話もできるようになったんだ……


 ──じゃなくて! あたしまだ高校生だし、そーいうのは大人になってからってわかってるし、橋本君となんかしたいなんて、ないんだから!


「あ、あのさあ、パラちゃん、王様としてたよね?」


 リリちゃんが、美人のリリちゃんがにらんでいる。ごめん、こういう下品な話、嫌いだよね。でも大事なんだ。


「だって、王妃様ってそういうことだよね? あ、あのさあ、エッチする時ってどんな感じかなぁ?」


 リリちゃん、あたしはね、別にそういうの興味あるとかそんなんじゃなくって、リリちゃんにこっち戻ってきてほしくて聞いてるんだよ。


「なかった」


 うん。もう驚かない。

 だって、ゴンドレシア人は食べない飲まない、トイレ行かない。当然、エッチなんかしないだろう。


 が、リリちゃんは、ぶわああと泣き出した。


「一度も陛下は、(わらわ)の寝所を訪れてくださらなかったのじゃ!」

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