私の親友が、おかしくなりました
異世界から現代に転生したらどうなるのでしょう? ファンタジーではありません、多分。
青い空、白い雲、緑の樹木──それらは、彼女もよく目にしていただろう。
しかし──。
たとえば、大通りを恐ろしい速さで走る車の群れ。
きっと彼女は、これらを見て恐怖を覚えたはずだ。
四つの車輪で動く四角い箱状の乗り物なら、彼女もかつて愛用していただろう。
が、この世界の車は、馬も牛もいないのに、摩訶不思議な力で動くのだ。
彼女にとって、それはそれは理解できない光景に違いない。
そして、この片手に乗せられる大きさをした、ツルツルと磨かれた細長い石板。
石板なら彼女だって知っているだろう。
が、これはただの石板ではない。
石板には色とりどりの謎の図形や文字が光っている。
が、普通の石板の文字とは違い、その形は絶えず変化する。
恐ろしいことに、ルーン文字を描くように石板をなぞると、中に小さな人が現れ、しゃべりだすのだ。
どう考えても人が入れるはずがない石板の中から、小人が話しかける。
街には、天を突くような尖塔が建ち並ぶ。
彼女も、巨大な尖塔は見たかもしれない。
しかし、本当に恐ろしいのは、その巨大な建物を造りあげる様子だ。
彼女がいた世界なら、何百人もの奴隷が、石を切り出し運んで並べていっただろう。
しかしこの世界では、巨大な鉄の怪物が、大きな腕を振り回し、土を掻き出し太い鉄の柱を持ち上げ、建物を組み立てていくのだ。
人間は、怪物を中から操る。あれほど巨大な怪物を恐れもせず使役するのだ。
しかも人が中から出ると、怪物は途端におとなしくなる。餌を食べる様子もない。
他にも……挙げればキリがない。彼女がこの世界でどれほど恐ろしい思いをしているか、私には見当もつかない──
……って感じだよね? リリちゃん、ぜーったいそう感じているはずだよね?
でもリリちゃんは、ちょっと嫌な顔であたしをにらむ。
「そなたは、何を言っているのだ?」
そ、そなた? それ、あたし? えーと、あのぉ、あたしもリリちゃんも高二で同じクラスなんだけど。
今、放課後で、来週の SDGs発表会のポスター、これから作るんだけど。
もうすぐ、もう一人、やってくるんだけど。
「リリちゃん、あたしのことわかる?」
「もちろんだ。そなたの名は、村木麻帆。妾がただの宮越リリイであった時からの、大切な友だ」
『大切な友』なんて、リリちゃんが普通だった時には聞けなかった。嬉しいなあ……そうじゃない! 今、大変なことが起きているんだ。
「大切な友だからこそ、妾は打ち明けたのだ。妾の前世は」
「何度も聞いてるよ! ゴンドレシア王国のお妃様なんでしょ!」
「友よ。そなたが理解しくれて嬉しいぞ」
カッコよかった友達が、ううん、今でもメチャクチャ美人で素適な親友が、変になっちゃったよ。
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