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早川くんは知らない白石さん

*クラスメイトA視点

 同じクラスの白石さん。

 ボブカットの髪はキューティクルつやつやで、長い睫毛はソシャゲのスチルみたいにバチバチに長い。全体的に黒猫みたいな印象の彼女は、学校の中でもダントツの美少女だと思うけれど、今まで誰とも付き合ったという噂がない。

 掃除当番で中庭の掃除をしていると、「話ってなに?」という声を耳にし、思わず隠れてしまった。

 中庭の椿の木の近くで、背が高い先輩と一緒に、小柄な白石さんが見えた。

 たしかあの先輩は、テニス部の主将だったと思う……あの人が苦手なのは、同じ図書委員だけれど、大会の練習とか遠征とかで、すぐに図書館の当番を押し付けられるからだ。実際にテニス部はうちの県じゃ強豪らしいけれど、女遊びも激しいからSNSに書かれるような真似はすんなと警告が流れている。

 そんな人に捕まって、白石さんは大丈夫なんだろうか。そう思ってハラハラして見ていたら、テニス部の主将が口を開いた。


「君のことが好きなんだ。今度の大会、見に来てくれないかな?」

「どうして?」

「えっ? だから、君のことが好きで……」

「好きだと大会に見に行かないといけないんですか?」


 白石さんの口調には抑揚がない。多分だけれど、テニス部の主将に興味もないのだろう。

 主将は顔を真っ赤にして、「こんの……っ!」と彼女に手を挙げようとした。

 あっ、まずい……!

 僕はおろおろとして、持っていた箒を落としてガッチャンという音を立てた……いろいろとやらかしている主将だけれど、SNSに誹謗中傷を書かれるのは避けたいだろう。ぎょっとしたあと、舌打ちをしてその場に白石さんを置き去りにしていった。

 白石さんはいつもの抑揚のない表情で、主将を見送っていた。


「あ、あの……白石さん、大丈夫だった?」

「ありがとう。でも大丈夫」


 彼女は淡々と言う。

 感情が乏し過ぎて、彼女が怒っているのか悲しんでいるのかわからなかった。

 そのままさっさと彼女が去っていったのを、僕は見送った。

 余計なことしたんだろうか。僕は彼女の態度に首を捻りながら、落とした箒を拾い上げた。


****


 普段から抑揚のない受け答えで、しゃべることも滅多になく、表情を変えることもない白石さんが、どこから来たのか『マイナスイオン様』という愛称で呼ばれるようになったのは、三人ほど告白したという噂が流れてからだった。

 どんなイケメンが告白してもなびかない。フツメン以下ではお呼びでない。全員無表情でばっさばっさとフッていく。

 噂というには悪意が強過ぎるものが、いつの間にやら出回りはじめた。

 実際のところ、彼女にフラれた相手に逆上されて殴られかけているということは、ほとんど知られてないみたいだ。

 大方、SNSで悪評を書かれるより前に、彼女に風評被害が向くようにフラれた相手が仕掛けたんだろう。そのせいで、フラれた相手のファンの女子も混ざり、悪評がどんどんと広がっていた。

 気付けば白石さんは孤立するようになってしまっていたけれど、彼女はマイペースに部活に入って、部室に入り浸るようになってからは、その迷惑な行動も少しだけなりを潜めた。

 彼女の入った文芸部はオタクのたまり場であり、基本的に白石さんに積極的に話しかけるような陽キャはいないけれど、彼女をネタにして遊ぶ陰湿な奴もいなかったから、彼女は比較的安心なようだった。

 そんな中。彼女と仲良く話をしている男子が出るようになった。

 ふたつ隣のクラスの目立たない男子だけれど、なにかと白石さんに気を遣っているようだった。

 彼女は相変わらず表情は乏しいが、彼は彼女がなにを言いたいのかわかるらしい。


「ありがとう」


 冷たい抑揚のない言葉でも、男子はヘラリと笑う。


「いいよいいよ。白石さんがいいんだったら」


 男子はヘラヘラと答える。

 あれだけ冷たい返答だったら、僕は折れそうなのに、あの人すごいな……。

 僕は思わずそれを凝視していたら、白石さんのほうから「あ」と声をかけてくれた。それに僕は「ひっ!」と声を上げる。それに隣にした男子が首を捻る。


「あれ、白石さんの知り合い?」

「うん。同じクラスの……どうかした? ずっとこっちを見ていたけど……」

「えっ! 違う……カ、カレシさんとの付き合いを、別に邪魔するつもりは……」

「えっ? わたしと早川くんは、同じ部なだけだよ?」

「えっ……」


 もし白石さんの暴言だったら……思わずギギギ……と首を早川くんとかいう男子に向けたら、その早川くんもまたにこやかに笑っていた。


「いやあ……白石さんも大変そうだから。もし勝手にそう噂が出てるんだったら、そのまんま出てくれてたほうが……いいかなあと……」

「ええと……それでいいんだったら、いいのかな……?」


 これ以上は僕がどうこう言うことでもないなと、退散した。


「……ありがとう」

「へっ?」


 振り返ると、白石さんは薄く笑っていた。

 今まで本当に抑揚ない表情をしていたっていうのに。

 僕はちらりと隣の早川くんを見る。

 多分、このふたりの関係は今はこのまんまでいいんだろう。

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