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page.26 イベントだよ、六十四人集合!(集合するとはいっていない

一月四日、今日はイベントの日だ。

装備は現地で着替えるので、年末にデパートで買った私服に袖を通す。

センスは良い方ではないと思っているので、売り場のマネキンに飾られていた無難な上下と同じ物を買っている。

装備を詰め込んだバックパックと冒険者証セット・スマホ・財布・弁当に水筒・念の為に盗聴器発見器も持ち出して、と。

イベントの予選は十駅離れた甲正山講習用ダンジョン(Gランク)と六駅離れた出々藍ダンジョン(Fランク)の二箇所で行われる。

今回は出々藍ダンジョンの申請をしているので少し近くで助かるけど、どうせなら隣駅のFランクダンジョン使わせてくれればいいのにな。

会場に到着すると、意外にも人が少ない。予選だから人少ないのかな?位に思いながら受付に向かい、参加者であることを伝えると、控え室に案内される。事前説明があるので待機していて欲しいとの事で、待機室に指定された部屋に入ると十四人のご同業が居た。

おかしい。受付の名簿には二十人位の名前しかなかったし、Fランクだけとはいえここまで少ないのか? 三十~四十人位は参加すると思ったんだけど……

疑問に思いながら待つことしばし。

俺の後に数名入室し、最後に県の職員が来て事前説明が始まる。イベントの概要・ルール、今日のスケジュール、そして参加者数が少なかった事による幾つかの変更点のお知らせ。

概要はまぁ、近年冒険者業の隆盛うんぬんにより我が県も等でどうでもいいとして、

ルールは、

 ・探索に中級冒険者の監督官兼記録係が同行し、探索を撮影すること

 ・監督官は参加者の死亡を防ぐために行動することはあるが、基本それ以外では参加者の手助けをしないこと

 ・監督官の判断によっては探索途中でも帰還する場合があり、その場合は失格扱いとなること

 ・これらを踏まえて普段どおりの探索をすること

という所だ。

スケジュールは午前十時より予選開始で十五分前に指定の場に集合、それまでは会場内で自由行動という事らしい。

最後の変更点に関してが曲者だ。参加者の人数不足により、運営委員会の判断で四名の本選トーナメントに変更があり、事前に知らされていた県側での審査を行うのが四名から三名に変更され、残りの一人は何と人気投票で決めるとか言い出したのだ。

今日撮影する探索風景をネットで二週間公開し、もっとも票を得た冒険者に本選出場枠が与えられるとか……

それを聞かされた瞬間、一斉に何人か立ち上がり抗議を始めた。無論俺も立ち上がる。

ふざけんな、こんな公開処刑聞いてねーぞ! 事前に言ってくれれば昨日は評判の美容室探して行ってきたと言うのに!

「無論、公開は探索者の方の判断で選択していただけます!」

無言で座り直す。進行を妨げるのは良くないよね。よく考えれば俺の装備だと首から上、完全に覆っていたしね。

編集は当然の事ながら認められないが、今日五時までに撮影内容を確認し公開・非公開を決められるとの事。

投票対象は公開した者だけが対象となるらしい。くそっこれは迷う。本選枠確保の可能性を広げるなら公開一択だが……!

事前説明が終わり県の職員が退出した後、何人かの冒険者は知り合いなのだろうか今の説明内容の話をしだして、また何人かの冒険者は部屋を出て行く。

ここに居ても、俺もやる事はないか。部屋を出て荷物を貴重品用ロッカーに入れて鍵を掛けた後、会場内を軽く散策する。ゲート周りの設備は何処も一緒で、ここも甲正山ダンジョンとは訓練施設が無い以外はほぼ同じ造りだ。

ダンジョンの周りは施設がほとんど無い空き地なので、適当な所でウォーミングアップを行う。

先程見かけた冒険者や彼らの知り合いだろう人もチラホラと見かける。武器の素振りを行う者、柔軟体操やっている者。

ん? アレは何だ、ダンボール箱を拳に付けてシャドーボクシング? 変わった事をしているなぁ……

……あっちでは、まさか、あれは……


彼女持ち?


まさか、いやそんなだがしかし家族には見えないしあっ抱きついた、抱きついた……おい女、何で上を向いて男も顔を下げて


緊急回避成功。


首を無理矢理九十度横に曲げ視界を外した。危なく心が死ぬところだった。イベント前だから平常心、平常心。

BE COOL、SO KOOL。クール、KOOLになるんだ、守。


視界にアレを入れない様に離れた後は、余計な物を見ない様に時間が来るまで控え室で机にうつ伏せで過ごした。

そして時間が来て予選開始。

順番で名前を呼ばれて監督役と一緒にダンジョンに突入していく。

俺の番が来て、監督役はフルプレートを着込んだ男だった。心の中で仰いだ天は曇り空で、今にも雨が降りそうだった。

前の人は軽装の美人さんだったじゃないですか、ヤダー!!!

表情筋を維持しつつ、ダンジョンに入る前に監督官の人に一つだけ確認しておく。

「あの、私のモンスターで一体だけ顔を映さないで、ええ、そちらもお仕事ですので重々分かります。出来ればでよろしいので、車椅子のモンスターの貌を極力撮影しないようにと、はい」

ダンジョンに入ってもらった後、監督役の人にカメラに映らないようにマリィさんの貌を確認してもらい、「……頑張ってみる」とお返事はいただけた。ありがとう、監督役さん。本当にありがとう。貴方のおかげで無辜の民草が救われる可能性が微レ存しますわ。

ダンジョンの隊列は、


   王王王   佐助

前              マリィさん   俺   ブルームフラウ   監督官  バルクさん   後

   セキロー   剛武


で組んでいる。監督官さんを最後尾にすると彼に警戒を任せるようで、いつもどおりの流れにならないと判断した。

騎乗できれば佐助と剛武の位置を入れ替えたい所だ。そろそろ前衛でも火力担当と斥候担当の役割分担も出来てきた所だしな。

探索自体は、ブルームフラウが居るので戦闘後の傷の処置の手間が大幅に改善された。《治癒魔法:G級》は一回で体中の細かい傷を全て塞いでくれたので相当に便利だったのだ。知識として僅かな傷に効果があるとは知っていたが、体感してみると想像とは随分と違う。本当に、五ヶ月程度じゃまだまだ初心者だな。中級に挑む前に知っておくべき事が相当にありそうだ。

戦闘は想定したとおり、

 1.俺・佐助・剛武でボウガンの先制斉射

 2.王王王・セキローの攪乱、マリィさん・ブルームフラウの魔法による牽制攻撃、俺の牽制射撃

 3.佐助・剛武の攻撃

このパターン大体で大体は片がついている。

たまに敵が4体以上のグループだったりした場合は敵モンスターが抜けて俺の所に来る事もあるのだが、無傷である事はまず無いので俺でも何とか凌いでバルクさんに受け持ってもらうか、重傷を負っている場合は俺がトドメを刺す事もあった。

Fランクとはいえモンスターとは武道の心得も無くスキルをほとんど持っていない人間が一対一で戦うべき相手ではないのだ。

武装をしているからある程度は戦えるが、それだけで絶対に勝てる訳でもないしなぁ。スキルの補助付きとはいえ、ファイターはよく前線で戦えるものだ。

罠は見つけたものの内、解除できるものは俺と佐助で全て解除しておいた。

Fランクの罠が解除できる事のアピールはもちろんだが、実践に勝る経験は無し。もちろん解除しなくても良いと見なされる罠もあるかもしれないし、その分は余計な事をしたとして評価点が下がるかもしれないけど、安全第一・命重点。切り離された指が地面に転がる光景など、もう二度と見たくないのだ。解除出来ないと判断した罠は応急処置をした上で避けるか、自作した遠隔型罠起動用ツールで作動させる。中級以上だとモンスター召喚とかアラーム等の罠もあるということだし、罠解除・対策はこれからも精進しなければ。

今回は中身アリの宝箱も一個見つけて運勢も良さそうだ。中身が魔石だったのが残念だが。いや、これは贅沢な感想か。

ボス部屋まで2時間半で到達できたのも個人的に新記録だ。ボス戦前に未探索エリアの踏破もしてみたが、こちらは残念ながら空振りで何匹かのモンスターを倒すだけにとどまった。

フィールドが森林なのでボスはトレントかフォレストハンターになるだろう。

こちらのモンスターもランクアップはしているが、今回も奇を衒わずにバルクさんワントップで突撃してもらい残り全員で援護に回るとしよう。いつもどおり、いつもどおり。ここまで普通に来て最後くらいは、と良い所を見せようとしてもロクな事にならないだろうしな。

ボスはトレントとキラービーの組み合わせだった。何度か戦ったことのある組み合わせだ。

いつもならバルクさんがトレントに突撃し、騎乗組に棍棒を回転させキラービーに当たらせていたのだが、今回は騎乗無し。

セキローとブルームフラウは俺の護衛に回し、佐助・剛武・王王王・マリィさんにキラービーの対処を任せる。

フレイムウルフとなった王王王の火魔法がここでは猛威を振るい数十匹のキラービーが速やかに処理されていく。

おお、凄いな王王王。大活躍じゃないか。

トレントもバルクさんの大剣一閃で片が着き、ボス戦も順調すぎる位に良い感じで終わった。

ダンジョンから出て、精算を済ませると控えていた係員から指示があった。

記録映像の確認をする場合は控え室とは別の部屋に確認用のパソコンがあるので、そこで監督者同伴の上で見てほしいとの事だ。

無論確認するので監督者の方に一言断り昼食を取ってから部屋に移動して確認することに。監督者の方は主催者側で用意していたそれなりに豪勢な幕の内弁当を食べていたが、こちらの弁当をチラチラ見ていたので若干俺に不利なトレードでおかずを何品か交換した。これはご迷惑をお掛けする監督者さんへのNEGIRAIであって山吹色のお菓子の類では決して無いのである。

部屋に入ると既に十二人の参加者が確認作業をしていた。皆早いな。無理して強行したのか、それともこれが普通なのか。

三時間掛けて記録の確認をしてみたが。一番不安だったマリィさん問題も、まぁ、何とか?ギリギリ?大丈夫じゃないかなー、と。ほんの少し、少しだけ貌の部分が見えていたけど本当一部だし大丈夫、だよね?

むしろ問題なのはブルームフラウの方か。カメラ映りを意識していないように振る舞いながら、映る時は常に見栄えの良い構図で画面に収まってた上に、若干自分自身の広報営業している気配すらある。コヤツ出来る、プロか!? そういえばプロだった。おい、そもそも仕事の依頼をしていないんだから変身魔法を使う必要は無かっただろう。撮影が始まっていたから指摘は控えたが、口調も営業用トークだったし。くそっ嫌な予感がする。コイツの映る場面だけでも削ってもらえないか!? ……監督者、ブルームフラウの映る場面はガン見してたし、無理か。いっそ公開を取りやめるか?とも思ったが、本選枠……欲しいです……(涙

悩みはしたが、今回は公開に踏み切った。後悔に踏み切ったとも言う。本選出場の確率を上げるため、そしてEランクへと上がるために、最終的には彼女を作るために! 俺は若干…… そう、若干のリスクを飲み込んだのだ。


無論、若干で済まなかった事は言うまでも無い。

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