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page.14 沈黙の教室 主演:小野麗尾 守

翌日から俺は一学期と同じように、クラスの中でボッチになる様にした。

休み時間にうつ伏せになって寝た振りをして、昼休みに速攻で弁当を食べたら昼寝した振りをするか図書館に直行して、帰りのHRが終わったら真っ先に教室から出るのだ。

誰から話しかけられようと適当に二,三言葉を返して話しかけられると迷惑なんで的なアトモスフィアを展開すれば、あら不思議。

クラスの中で浮くと言うか沈んでいる状況が二週間で完成です。

目立たないようにじっくりと探りを入れていくと、面倒事を引き起こしそうなのは四,五人で、他のクラスメイトは俺に対して興味なしと、ちょっと興味ありと言う感じの人が半々くらいだ。

ならばと時間を掛けて面倒な連中が関わらないタイミングで話をしてみたのだが、結果は芳しくない。

いや、変な裏があったりする訳ではなさそうなのだが。

こう、何と言うか。

話をしていると冒険者という職種に対する興味が有るものの、どうも俺個人に対する興味が無いと言うかあまり必要以上に関係を深めたくなさそうな……

あれ、おかしいな。誰かに強要された訳でもなく、こうやって顔合わせて話をしようとする以上、俺に対する隔意はそんなに無い筈。

無い、筈だよね?

話の内容も冒険者の実態みたいな事を聞きたがるけど、俺の体験談的な部分に差し掛かるとこう、反応が薄くなっていくような。

趣味人特有の好きな事になると急に饒舌になって聞いている人に引かれる流れにはなっていなかったはずだが……?


「と。言うわけなのだが、どうだろう」

自宅に親友二人を連れ込んで聞いてみる。

「まぁ、あれだな。努力は認める。おまえ、普段親しくない人と会話するのはレスポンス遅れ気味になるのに頑張って普通の会話のテンポに近づけていたし」

「拙者も一度、守殿が録音していた会話を聞かせてもらいましたが守殿の対応"は"問題無い様に聞こえておりましたぞ」

「"は"、って事は他に何か気付いた事でも?」

「守殿、まず守殿の考える冒険者以外の人から見た冒険者のイメージを纏めてもらえますかな?」

今更だな、とは思うが。

「キツイ・危険・金掛かる、と言う3Kな部分もあるけど、凄い・カッコイイ・頑張れば儲かる的なBIGな男のイメージ」

「おう、俺もそんな感じに思っているな」

聞いた鍵留がフゥ、と溜息を付きヤレヤレとポーズを決める。おう、写真撮影して遺影にしたろか。

「甘いでござるな!」指突きつけんな。異議ありとでも反応して欲しいのか。

「拙者調べの世論調査(校内限定)によるとこうでござる!」

 ・"死ぬほど"キツイ

 ・"非常に"危険

 ・"すごく"金掛かる

 ・"よく分からんが"凄い

 ・”メディアに出てくる冒険者は"カッコイイ

 ・"才能のある人が"頑張れば儲かる

わざわざ紙に書いて突きつけてきやがりますか。

「うわぁ……」

池流が引いてるじゃないか。


「今の守殿を野球で例えるなら弱小球団の社会人枠のプロテストに合格した無名の二軍、いや三軍のニュービーでござる。たしかに冒険者ではありますが有象無象の一人で十把一絡げに括られるのであります。合コンで「野球選手なの?すごーい!」と持て囃されても年収を知られるとツブヤイッターでフレに呼ばれたのでブロックしますねとばかりに離れられてしまう事間違いないでしょう。無論の事、日本において冒険者業は野球に比べれば知名度こそ同程度であれ、その規模は比べるまでも無く小さい事も鑑みればそれでも良く言いすぎといっても過言ではありますまい! ずぅばり!この二路 鍵留が纏めると「守殿は冒険者に夢を見すぎ」と言う事であります!」


それが…… それがゴザル口調を崩してまで言う事なのか! あたしゃ、あんたに人の血が流れているのか疑問だよ……!

チクショウ! 薄々気付いてはいたが、ここまではっきり言いやがるか! 心が痛てぇ!


ベットに寝転んでピクリともしない俺を見かねたのか、

「鍵留、その辺にしとけ。守が首を吊りかねない。」

「おおぅ、申し訳ございません。拙者とした事が言い過ぎました。誠に申し訳ないでゴザル」

「いいんじゃよ……」

なんとか一言は返す。

「重症だな」

「むぅ、これはいけませんな」

「……方針を修正する!」

「お、生き返った」

「相変らず守殿はファストなリザレクションが得意なフレンズですな」

「……方針を、修正する!」

「大切な事なので二度言ったのですな、わかりますぞぉー!」

チョットイラッときたので鍵留の太鼓腹をグニャる。オフゥッと気色悪い声を上げるナマモノは置いておいて。

「十二月だ! 十二月までに彼女が出来ずとも女の子と付き合えるように手を打ち続ける!」

「拙者には違いが分かりませんが」

「とりあえず付き合う→告白→彼女になるって流れだろ」

「なるほど。それで、守殿はどうするのでござるか?」

「クラスメイトの脈は薄そうだから他のクラスに挑む!」

「……正直、そちらも望みは薄いと思うでござるよ?」

「分かっていても、男には挑まなければいけない時があるんだよぉ!」

「落ち着け、守。同じ死ぬにしても無策はだめだろう」

「死ぬのは確定か! それで、どうしろと?」

「まずは、そうだな。部活に入るのはどうなんだ。時期がかなり遅いが、絶対無理って訳でもないだろ」

「入学直後に考えては見たけど、結論から言うと無理に近い。まず冒険者活動していた部活が、この学校にも昨年まで在ったらしい」

「在った?」

「ああ、活動していたのが部長一人で、その部長も冒険者辞めて卒業して廃部になった」

「Oh……」

「冒険者に関係ない部活だとナンちゃって冒険者に見られかねないし、運動部とか体力作りで関連付ける事はできるけど」

「運動部だと問題が?」

「ヒント:体育会系」

「ああ、守殿には無理でござるな。本人の気質はともかく上下関係の構築が致命的に合わないでござる」

「先輩関係が絶対に拗れる。予想というより預言レベルの確度で」

「あー そうだな。守というか、俺らもう誰かに支配されるとか無理だな。……俺ら、将来勤め人になれるの?」

「お金を貰うためなら何とか逝けるのではないかと。我々のトラウマは搾取と理不尽に対するものですからな。不平等でも取引であればワンチャン大丈夫なのではと愚考する次第でござる」

「それでワンチャンか。泣けるぜ」

はっはっはっ 乾いた男の笑いが3人分響く。泣けるぜ。

「そういう意味だと守は意外と自分に合った職を見つけた事になるのか?」

「稼ごうとは思うけど、冒険者をずっとやるかって聞かれるとどうだろ。彼女が欲しいから始めてみた訳だし」

「「それな」でゴザル」

「あー彼女欲しい」

「拙者はまだそんなでもないですが、お二人は昔からそうでゴザルなー」

「まぁ、元はと言えば」

「「鍵留が俺らにやらせたギャルゲーのせいだがな!」」

「いたいけな小学生にあんな家族愛全開の神作やらせやがって」

「おう、あの世界がフィクションと認識できるまでドンだけ黒歴史を量産したと思ってやがる」

「はっはっは 拙者はただ自分が良いと思ったものを人に勧めただけでござるよ~」

「「小学生がギャルゲーやってんじゃねーよ!」」

「失敬な。あれはジャンル"人生"でござるよ?」


話が脱線しているので方向修正。


「まぁ、ここまでの内容だと今の俺では冒険者として下っ端なので魅力が低く、女子にモテないと」

「まぁ、そんなところですな」

「箔が足りないって感じか」

「むぅ…… ならばよし。当面は冒険者活動≧女子へのアピールな感じで頑張ってみるのはどうだろう」

「具体的には?」

「召喚モンスター、でゴザルな」

「鍵留、何を思いついた?」

「1.女の子受けする召喚モンスターをゲット → 2.女の子を家に呼ぶ → 3.女の子と召喚モンスターの触れ合いがいつしか守殿と女の子のくんずほぐれつな触れ合いに」

「で、次の案だが」「流さないで欲しいでござるな!」

「2の段階で躓くわ。グループでならともかく一人で家に来る女の子が居ると思うか?」

「別に何人でも纏めてOKではござらんか?」

「だまれ畜生。俺にそんな甲斐性は無い」

「そもそも女の子が来る事を確信しているオマエラがスゲーよ」

「そも女の子受けするモンスターって何やねん」

「んー フェアリーたん、とか(ハァハァ」

「「おまわりさん、こいつです」」

「や、真面目にカワイイ系は有りだと思うでござるよ?」

「有り無しで言えば有りなのか、守?」

「資金的には後二ヶ月あれば少し無理してカードを買えなくも無いし《治癒魔法:G級》を考えれば選択肢として無くも無いけど、それならもうちょっと我慢して《治癒魔法:F級》持ちのモンスターが欲しいんだよ」

「守、ダンジョンメンバーとは別枠で考えたほうが」「予算には限りがあるんだよ、こっちは」

池流にネットのフェアリーの相場を突きつける。本日のお値段五十二万、Fランク攻略十~十五回分のお値段である。

学校が始まると平日にダンジョン行くのは厳しいので土日に多くて二回だけしか行けないし、ようやくFランクをメインにしたばかりのお財布状況では厳しいんだよ。Eランク?火力はバルクさんメインでも俺の実力が見合っていないし回復役が居ないと財布が死ぬわ。

ポーション買うと最低ランクが一個十万からだからパーティの回復全部ポーションとか初心者の内は絶対に無理だ。今まで二回使ったけど三回目に使うときも一本十万という現実に震えるんだろうなぁ……


「うわ、五十二万。こんなにするのか」

「モン娘の中では安値ですが、一般人感覚だとお高いものですなー」

「初心者冒険者感覚でもお高いわ。ランクF級なのにモン娘枠はお値段が別格なんだよ。運良くソウルがドロップすれば空のカード代一万で済むけどな」

「モンスターを倒してもドロップはしないのか?」

「体感でほとんどしない。今日まで十二回ダンジョン行ったけどモンスターソウルどころかアイテムドロップすらない。宝箱は五個見つけたけど三個空箱で、さらに五個中四個は罠付きだった。コモンとかレア以前にドロップする事自体がレアじゃないかって気がする。てか本当にドロップするの? 俺、嘘情報に騙されてない?」

「や、雑誌とかにも載ってるしドロップはするんじゃないかな? 守の運が悪いかは分からんけど」

「拙者としては罠が気になりますな。どんな罠に遭ったのでござるか?」

「ダンジョンのなら通路で落とし穴が八つ、ワイヤー連動のボウガンが五つ、ドアの罠だと指落しが四つとボムトラップが一つ。室内の罠はEランクからって事になってるけど念の為に今からトラップ確認の癖を付けてる」

「「……」」

「宝箱なら、鍵穴そのものが罠で針金差したら電気が流れるやつと、蝶番に細工があって蓋を全開にしたらバネ仕掛けが発動してトラバサミみたいに挟まれるのがあった。蓋と箱の境目が金属で補強されていたし素手で挟まれたら骨折まで行きそうだったな、アレは」

「……殺意、高すぎね?」

「……ラノベ気分で特攻したら、普通に死にそうですな」

「あんま聞きたくないけど、指落しって何さ」

「ん? ドアノブ握るだろ?」

「ああ」

「こう、ドア開けようと回すだろ?」

「うん」


「そしたら仕掛けが動いてドアノブから勢い良く刃が出てきて指がポロッと」


「「怖い」」「わ!」「でゴザル!」

ちなみにこの罠が一回目のポーション使用理由でもある。最低ランクのポーションは《治癒魔法:F級》と同じくらいの効果で欠損部位を生やす効果が無いので、落ちた指を傷口に当てて佐助と剛武に固定して貰った上で飲まなければならなかった。

傷跡は残らなかったし違和感も残らなかった。飲んでから5分もしたら元通りに動かせるようになったが、正直、その事実が怖い。

成分を解析できればノーベル賞確実と言われるのは伊達じゃないんだよなぁ。

ポーション二本が標準携行品に含まれている理由と、消耗品が経費トップ3にランクインしている理由を痛感させられる出来事だった。

ついでにしばらく自宅でもドアを開ける時にマジックハンドを使うか考える様になった理由でもある。

あの時は治った後、脱出アイテム使おうか真剣に悩んだなぁ。


「おま、それ回避できたのか!?」

「しっかり握っていたから右手の指五本全部逝ったぞ」

「ちょ、右手見せるでござるうううううう!!!」


ああ、この反応。父さんと母さんにもされたんだよなぁ。

あれは愁嘆場だった。本当に。

次の日すぐに罠解除用の防護グローブを俺と佐助用に2つオーダーで作ったけど高かったなぁ……(遠い目


親友二人とぐっだぐだな話でダベリながらその日も何事も無く終わった。

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