082:もう遅い③
「リリルルさん、この人です!」
リリルルの背中に隠れるようにいたのは銀色の髪と褐色の肌をした少女だった。
ダークエルフか、珍しい。
少女が指さしたのは俺ではなく、地面に拘束されたトランである。
「……コイツか、パフ?」
リリルルが鋭い視線を向ける。
「はい。この人が私たちのリーダーです。私たちが魔人の封印を解いてしまったんです」
それまでの歓声が嘘のように静まり返り、人々の怒りに満ちた視線がトランに降り注ぐ。
「なっ……テメェ、パフ!! 余計な事を言いやがって!!!! 違う! 俺じゃねぇぞ!!??」
少女の言葉に反応して、トランが起き上がった。
拘束されているからその場から動くことすらできないが、少女に向かって恨みの言葉を投げかける。
あれだけの傷を負っても叫ぶ力が残っているとは、元気なやつだ。
それにしても、この子がパフか。
俺のあとにトランたちの仲間に加わったという補助魔術師だ。
どんな人物なのか興味があったが、魔術に長けるダークエルフとはさすがの人材だな。
エルフ種は長寿であるがゆえに数が少なく、そして温和な性格ゆえに冒険よりも研究を好む。
冒険者になったダークエルフの魔術師とは、かなり貴重な人材だと言えるだろう。
そしてさすがはダークエルフと言うべきが、少女は顔も整っているし胸も大きい。
トランが好きそうな美少女でもあるのだ。
これでは俺を見限るのも納得か。
「……はぅ!」
観察しているとなぜかサッと目を逸らされた。
そのままリリルルの背中に隠れてしまう。
え?
なんか俺、嫌われてる……?
出会って5秒なんだが?
リリルルはそんなパフの様子を見て「やれやれ」となぜかニヤニヤしていた。
なんなんだ……?
「お前がハイエアの冒険者パーティ『黄金の薔薇』のリーダー、トランだな?」
サヴィニアがギルドマスターらしく威厳のある態度でトランの前に歩み出た。
「そうだが……そんな女は知らん! 俺たちは悪くない!!」
「なっ……!! 私たちのせいでこんな大きな被害を出してるんですよ!?」
「知るか!! 俺のせいじゃねぇ!!」
「なんて人!! 恥を知るべきです!!」
「うるせー! だいたいお前が無能だからこんな目に……!!」
「もう良い、黙れ!!」
トランとパフの口論に割って入ったサヴィニアの顔は怒りに染まっていた。
「お前の言い分など今は良い。詳しい事はギルドで聞くからな。だが、私はウソを見抜くのが得意でな……とくにお前みたいなクズのウソはすぐわかる!」
ガシッとトランの顎をつかみ、サヴィニアがその眼を正面からにらみつけた。
「本当なら今すぐ切り殺してしまいたいくらいだが……裁くのは帝国だからな。それに魔人の封印を知っているなんて、お前からは面白い話も聞けそうだ。さぁ、楽しめよ? 帝国の拷問チームがまっているぞ?」
「ひっ……!!」
その眼光にトランの体が震えた。
股間がしめり地面を濡らしている。
「ちょ、待てよ!! おい、ルード!! た、助けてくれぇ!! 俺たち仲間じゃねぇか! パーティメンバーだ!! そうだろ、ルード!?」
トランはすがるように俺に呼びかけてきた。
その言葉に町の人々がざわついた。
救世主だと言っている人物の仲間なら、信用できると考えた人もいるかも知れない。
その気配をトランは敏感にキャッチしたらしく、いっきにまくしたてる。
「そうだ! この町を救ったルードは俺たちの仲間なんだぞ!! だから俺が魔人の封印を解くなんてするわけないだろう!! 俺たちは魔人と戦ったんだ!!!! 英雄は俺たちだ!!!!!!」
だが、そんな話が通じるわけがない。
少なくとも目の前のサヴィニアは知っている。
「元、だろう。お前たちの仕打ちは全てルードから聞いている」
「え……? は……?」
サヴィニアやリリルルの瞳にはさらに強い怒りが宿るだけだった。
「コイツが例のクズ野郎だったのですわね。その面を拝んでみたいとは思っていましたわ」
リリルルに至ってはパーティメンバーらしき少女たちに止められているが、そうでなければ今にも剣を抜いてトランに切りかかりそうな状態である。
「い、いや、待てよ。そんなの冗談みたいなモンだろ? 俺たちは仲間じゃねぇか。そうだ、戻って来い……またパーティを組もうぜ? 俺たちなら最強になれる。スフはちょっと休んでるけどすぐ復活するし、メイとシーンもお前を待ってるぞ!? また一緒に最強を目指そうじゃねぇか!! だから助け……」
トランたちがどんな経緯で魔人にやられたのかは知らないが、トランは仲間たちの状況すらも理解していないらしい。
だが、そんなモノの答えは最初から決まっていた。
「トラン、あの時の事をもう忘れたのか? 俺は言ったハズだぞ」
「へっ…………?」
「あとで戻って来いと言っても、もう遅い」
俺は連行しやすいように【拘束】の形を変形させた。
「おい!? やめろルード!? てめぇ!!!! 俺さまが戻してやるって言ってんだぞおおおお!?!? お前の居場所なんて他にないだろうがああああああ!!!!」
もうその喚き声にも聞き飽きた。
トランの罪は帝国が裁くだろう。
魔人を解放したのが本当なら、決して軽くない罰を受ける。
だがその罰がどれほどのモノになるかすら、俺にはもう興味がなかった。
「諦めるんだな。大人しくしろ」
「おい、待て! やめろ!! 俺さまに触るんじゃねぇえええええ!!! ルードおおおおおおお!! 覚えてろよてめぇええええええええええええええええええええええ!!!!」
サヴィニアに連れられ、トランの姿が喚き声と共に消えていく。
トランの仲間であったパフはペコリとお辞儀をすると、リリルルたちに連れられてその後を追って行った。
パフは己の罪を自覚しているのだろう。
巻き込まれただけのようにも見えたが、覚悟は決めているらしい。
「俺は勝手に、好きに生きさせてもらう。トラン、お前も好きに生きろ。その罪を償ってからな……」
確かに『黄金の薔薇』は俺にとって唯一の居場所だった。
だがそれは過去の話だ。
もう決別は済んでいる。
トランからパーティを追放されたあの日に。
「ご主人さま……」
「俺は大丈夫だ。行こう、町の被害もゼロじゃない。いろいろ手伝わないとな」
「はいなのです!」
俺は心配そうに握ってきたスーの手をやさしく握り返した。
新しい居場所はもう見つけた。
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