081:もう遅い②
「死ね!! 死ね!! 死ね!! 死んでくれえええええええええええ!!!!」
トランが繰り出す攻撃を、俺は剣先だけのわずかな力で受け流す。
魔力切れから解放されて身体と思考が正常に戻った今見ると、それは【剣聖】とさえ呼ばれた薔薇の勇者とは思えないあまりにも稚拙な斬撃だった。
隙だらけで無駄も多い。
だからわずかな力を受けただけで簡単に軌道が逸れてしまう。
亜人化の影響か、それとも魔人に精神を侵された影響が残っているからなのか……。
「グゾオオオオオオオオ!!!! なんでお前なんかがあああああああアアアアアア!!!!」
怒りと狂気に任せた力ずくの攻撃をあえて剣で受け止める。
亜人の体は純粋な人間だった頃よりもすさまじい筋力を持つようだが、自身に【身体強化】を付与した俺の身体能力はそれすらもさらに凌駕していた。
こうして剣と剣をぶつけても押し負ける事はない。
身体能力も、剣技さえも、今のトランに負ける要素などなかった。
「グウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!」
トラン愛用の剣、ローゼンシュバルト。
薔薇の装飾がほどこされたオリハルコン製の剣である。
オリハルコンは古い時代、神々よって人に与えられたと言われる最も硬い鉱石から作られる貴重な金属だ。
対して俺の剣は町の武器屋で買ったただのアイアンソード。
お手頃な価格の鉄の剣だ。
本来なら、刃が打ち合えば俺の安物の剣など簡単に壊れてしまうだろう。
理性を捨て去ったような咆哮と共に力任せに押し付けられる刃。
だが先にヒビが入ったのはトランの剣だった。
「【硬化魔術】」
魔術によって剣の硬度すらも俺が上回っている。
勝敗など分かり切っていた。
これ以上は無駄な争いにしかならない。
「もう止めろ。今のお前じゃ俺に勝てない」
「うるせえええええええええええええ!! クソがああああああああああああああ!!」
大切なハズの剣が壊れていくのも無視して力を込め続けるトランに、俺は哀れみを感じざるを得なかった。
これ以上は見ていられない。
そして話も通じないらしい。
「だったら俺が終わらせてやる」
「えあっ!?」
あえて力を抜いて剣を傾けると、すべるようにトランが体勢を崩す。
自由になった剣の刃を水平に、全身をひねり、茨の鞭がしなるように剣を振るう。
薔薇の剣技。
それはトランだってよく覚えているハズだ。
「や、やめろおおおおおお!! それは俺の技だろうがああああああああああああああ!!!!」
「『薔薇十字』!!」
トランの得意技である。
「ウギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
剣と鎧も貫いて、トランの体に十字が刻まれる。
亜人化した部位を狙ったから致命傷にはならないだろうが、戦意を削ぐには十分な効果だろう。
「ウグゥゥゥゥ……! いてぇ……いてぇぇぇ……!! なんで俺がぁ……! 俺さまがこんな目にぃ……!!」
「……【拘束】」
倒れたトランの体を拘束し、自由を封じる。
今度はちゃんと最後まで話をしたかったのだが、こうも暴れるようでは仕方ない。
しばらくはこのままジッとしてもらおう。
「ご主人さま!!」
剣を鞘に戻すと、戦いの決着を察したスーが駆け寄って来た。
そのまま俺の胸に飛び込んでくる。
「わたし、魔術が使えたのです!! ご主人さまのお役に立てたのです!?」
魔術に成功した事がよほどうれしいのか、いつも以上に尻尾が揺れている。
まだ教えていない魔術を自力で使うなんて、普段からかなり勉強していたのだろう。
いつも肌身離さず持っているくらいだったからな。
それでも難易度の高い補助魔術だ。
やはりスーにはその才能があるらしい。
「良くやった。助かったよ」
「えへへ……」
まるで「褒めて褒めて」と言わんばかりに突き出された頭をよしよしと撫でてやると、スーはいつものようにふにゃっとした笑顔になる。
この笑顔を見ると強大な魔術による疲れもどこかで飛んでいきそうだ。
「ルード! やっぱりアナタだったのですわね!」
「リリルルか」
そんなナデナデタイムの間に現れたのはリリルルだった。
「ルード、無事だったか!」
「ルードさん! 無事でよかったです!」
「サヴィニアにエナンまで……」
続いてサヴィニアやエナンもやってきた。
そして町中の人々までもが続々と集まってくる。
「おぉ、空にいた魔術師さまだ!」
「この人が俺たちの町を救ってくださったんだ!」
「結界を張ってくれた俺たちの救世主さまだぞ!!」
「町を救った英雄さまだ!! あの巨大なモンスターを倒したんだ!!」
「うおおおおおーーー!! ルードさまーーーーー!!」
やれやれ、なにやら急に騒がしくなってしまったな。
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