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078:『ゼロの魔術師』①


 魔見水晶とは冒険者登録テストにも使用される魔道具だ。

 触れた物の魔力に反応して様々な色の光を放つため、その特徴を利用して属性適正や魔力量を調べる事ができる。

 そして純粋な魔力量だけでこの水晶を破壊したのは史上最高の魔術師と言われる偉大なる【大賢者】モンドールだけだという逸話があるらしい。


 だが、本当にそうなのだろうか。

 純粋な魔力量だけではない、何か別の理由によって水晶が破壊される可能性もあるのではないか。


 エナンから話を聞いて、そして実際に自分が適性試験を受けてから……俺の頭の中にはそんな疑問が浮かんでいた。

 

 モンドールの魔力にはもしかしたら俺と同じ特徴があったのではないだろうか。

 全ての属性に適性を持つという魔力特徴が。


「全属性の複合魔術……知っているのか?」


 問いかけてくる師匠は疑うような声色だった。


「いや、原理は理解してるつもりだが魔術としては未完成だ」


 全属性を使用した魔術なんてこれまで読んできたどんな魔術書にも存在しなかった。

 全属性の複合魔術など現在の魔術界には存在しないのだ。


 そんな魔術を使おうとしているのだから、師匠に疑われるのも当然だろう。


 前例が見つからないままだったから独学で開発してきたが、未だ完成には至っていない。


 そもそも、きっかけはあの適性試験だった。

 水晶が壊れた時の反応とモンドールの逸話。


 全ての属性は本来、同時に存在することはできないとされている。

 打ち消しあう関係を持つ魔力同士が存在するからだ。


 だがそれを実現できたらどうなるのか。

 それに興味が湧いたのだ。


「そうか、やはり現代には伝わっておらんのだな。だが、確かに()()()()ならヤツの無効化すら凌駕(りょうが)できるかも知れん」


「……えっ!? 師匠、全属性の複合魔術を知ってるのか!?」


「当たり前だ。ワシが作った傑作だぞ。究極の複合魔術、ワシの夢の1つだったからな」


 まさかそんな魔術まで作っていたとは。

 さすが師匠だぜ。


「ワシにも使いこなせなかった魔術でもある。だが、お前ならできるかも知れないな。いや、お前にしかできない……か」


「とにかくやってみるしかない。いや、やってみせる!! だから教えてくれ、その魔術を」


「教えるのは構わないが、先に言っておく。簡単な魔術ではないぞ? 1発で成功できるモノでもないからな?」


 釘を指すようにペシと師匠の尻尾が頬を打つ。

 俺もその危険性は理解しているつもりだ。


「わかってる。俺だって未完成だが、あと1歩の所なんだ。感覚はある程度つかんでる。成功させてみせるさ」


「ふむ、その若さであと一歩か。さすがだな…………ん? お前、ワシよりすごくね?」


「え? いや、完成させてる師匠の方が凄いと思うけど……俺1人じゃ未完成のままだったかも知れないしな」


 そもそもの基盤が師匠の魔術理論なのだから、師匠なくして今の俺はない。


「でも、だってワシが100年以上かけて生み出した魔術だぞ? どうしよ。やっぱ教えるのやめとこうかな」


「えっ!? そんな事を言ってる場合じゃないだろ!?」


「だって負けたくないんじゃもん!! なんかお前には負けたくない!! すげー! 師匠すげーって思われていたいんじゃもん!! お前に尊敬されていたいんじゃもん!!」


 師匠が急に駄々っ子のようになってしまった。

 スーがちょっと引いている。


 師匠の事は普段からめちゃくちゃ尊敬しているのだが、伝わっていないようだ。


「えぇっ!? いや思ってますって!! すげーですよ! 師匠すげー! マジリスペクトっす!!」


「本当か? 本当に思ってるのか?」


 目の前では魔人がその身体を再構築させている。

 数秒もすれば猛攻撃を受ける事になるだろう。


 それまでに術式を完成させなければマジでヤバい。


「本当ですって!! というか、マジで時間ないから! 急ぎましょうよ!? なんでもしますから! ね!?」


「ん? 今何でもするって言ったな? よし、その言葉を忘れるなよ」


 急にいつもの冷静な師匠に戻る。

 あ、コレなんかハメられた?


「さて、全属性による複合魔術……特筆すべきはその破壊力だ。全ての属性同士が()()()()()()()()()()()事で純粋な破壊力だけを抽出する。故にワシはこう名付けた。『ゼロ』とな」


 そしてドヤ顔のまま師匠は尻尾を伸ばして俺の腕を撫でる。

 尻尾のその跡に魔法陣が刻まれていく。


 記された術式が『ゼロ』なのだろう。


「術式は至ってシンプル。問題はそれを実現できるかどうかだ。お前には適性があるのはわかる。あとは魔術師として、腕の見せ所だぞ」


「なるほど、そういう事か……」


 魔法陣の中に記された術式はたったの1文である。

 その1文で師匠の言っていた意味が理解できた。


 それはまさしく、俺が探していた「あと一歩」だった。


「くれぐれも暴発させたりするなよ? ワシらが消し飛ぶからな」


「ご主人さまがそんなことするわけないのです!! ご主人さまなら絶対に大丈夫なのです!!」


 その危険性は理解している。


 俺は1つ深く呼吸をすると、術式に自身の魔力を適応させる。


 術式は至ってシンプル。

 だから余計な再構成も必要ない。


 焦らず、適応だけを完璧にこなす。


「グオオオオオオーーーーー!! オレ復活!! 殺戮ショーの始まりダァーーーーー!!!!」


 だが魔人の再構築の方がわずかに速かった。

 俺に抱きつくスーの腕に力が入る。


「ヤツが仕掛けてくるぞ。間に合うか?」


「師匠、防御たのむ」


「3秒だけだぞ」


十分(じゅうぶん)だ」


 必要なのは魔力のバランスだ。

 完全なる調和が究極の破壊を生む。


 これはそんな魔術なのだ。


 魔人が多属性の弾丸を横殴りの雨のように降らせる。

 師匠はわずかな魔力で効率的にそれを打ち消し、あるいは町の外へ着弾するようにと受け流した。


 やはりさすがだ。

 ほんのわずかな力で強大な魔力を相手にきっちり3秒、俺とスーを完璧に守り抜いてくれた。


 適応完了。

 魔力が持つ全属性を1つの術式に集中させる。


 師匠が刻んだ詠唱はたった一言だ。


「『ゼロに変われ』」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話がスムーズに進んでいてとても読みやすいです [気になる点] ルードとマリンの会話がタメ口と敬語がごっちゃになっているのでどちらが話しているのか少しわかりづらいかなと思いました [一言] …
[一言] 一番いいところで終了ですまた明日ですね!
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