077:封印③
「師匠、やったか!?」
「今度こそやったのです!?」
「だから妙なフラグを立てるなって。封印は完了だ」
俺たちの目の前には結界が姿を変えたクリスタルが浮かんでいる。
七色を宿すその輝きの内側には、子供のような小さな姿となった魔人の影が封じ込められていた。
「これで俺たちの勝ち……なんだよな?」
「そのハズだが……」
見下ろした地上ではまだ戦いが続いている。
魔人の魔力が止まっていないのだ。
「……もう匂いはしません。核は封印の中だと思うのです」
「だろうな。ワシも封印の手応えは感じた。だが、何か様子がおかしい……」
クリスタルの中の魔人は微動だにしていない。
封印は成功しているハズだ。
なのに終わるはずの戦いが終わらない。
「とにかく原因を探るしかないか……」
「だな。ワシの魔力も限界が近い。町の結界を解くぞ」
黒猫モードの師匠を肩に乗せ、俺はスーを抱える。
降下しようとしたその時、地上から1つの影が俺たちにめがけて飛び上がってきた。
「ウギャオオーーーンッ!!」
とっさに【防壁】で弾いたその相手は、魔人の魔力を体にまとった異形の人影だった。
犬のような体毛が半身を覆うその亜人はコボルトだろうか。
だがその亜人の装備に刻まれた薔薇の紋章には見覚えがあった。
「まさか……トラン!?」
トランには似合わない怯えるような表情のせいでまるで別人にも見えたが、間違いない。
体の右半分が黒ずんだ灰色の体毛で覆われているが、その顔は間違いなくトランだ。
『黄金の薔薇』のメンバー。
シーンとメイに続いて、リーダーであるトランまでも亜人にされていたのだ。
そしてコボルトは最も臆病なモンスターと呼ばれている。
師匠に聞かなくても分かる。
トランが奪われたモノ、それは勇気だ。
「ギャオ、ギャ……グ、クク……クハハハハ!! 魔女とそのシモベどもヨ、どんな卑怯な手を使ったか知らないガ、良くオレの核を見抜いたナ……!!」
「その声……魔人!?」
トランの表情が一変したかと思うと、急にゲラゲラと笑い始めた。
そしてその口から吐き出される声までも変わる。
それは口調までも明らかに、封印したハズの虹色の魔人だった。
「だが、無意味だったナ……言ったハズだゾ、オレは進化しているとナ!!」
「この人、さっきの核と似てる匂いがするのです……!?」
「どうなってるんだ!? 核は封印したハズ……!!」
「……適合者か」
師匠がこぼした言葉には聞き覚えがあった。
魔人適合者。
文字通り、魔人の魔力に適合した者の事だ。
通常、魔人の魔力に人間は耐えられない。
シーンやメイが良い例である。
獣のような雄叫びを上げるあの亜人たちを見れば分かる通りだ。
まずその精神が破壊される。
だが稀にその魔力に適合できる者がいるともされる。
魔人と精神が共鳴した結果だと言われているが、その詳しい原理はわかっていない。
魔人の精神構造を理解することなど人間にはできないからだ。
「……コヤツはよっぽど魔人のヤツに気に入られたらしいな」
「これが適合者……? ただ体を乗っ取られただけじゃないか……」
適合しているようには見えない。
トランの体を魔人が使っているだけだ。
「適合者には2種類ある。魔人の力を支配する者と、そして魔人の力に飲み込まれる者だ。コヤツは飲み込まれたようだな」
その成れの果ての姿がコレだというのか。
生きたままの死体人形である。
あまりにもひどすぎる。
「……さっきみたいに追い出せないのか?」
「無理だな。適合すれば、それはもう新しい魔人だ。今のコヤツは虹色の魔人の複製のようなものだよ。新しい核と言い換えても良い。なるほど、核を封印しても魔力が消えないワケだな」
「フハハハハ!! 感じるゾ……魔女の魔力はもう尽きかけていル! オワリだナ!! オレの勝ちダァアアアアーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
散らばっていた闇がトランの体に集まっていく。
まるで魔人が蘇ったかのように、小さなコボルトの体は巨大な魔人の体へと変わる。
「ったく、ヤツめ性質の悪い切り札を隠しておったな。さて、どうしたものか」
師匠はもう結界すら張れない。
もう1度、魔人を封印する事は不可能だろう。
声色は冷静だが、かなり追い詰められている。
だったら、俺がどうにかするしかない。
師匠の弟子として、何か役に立つ方法を考えるんだ。
問題は1つ。
ヤツが倒せない事。
厄介なのは全ての魔力属性の無効化だ。
これをどう攻略すれば良い?
絶対に壊れないハズの物を壊すようなこの無理難題を…………ん?
「なぁ師匠、この魔人は全ての属性を無効化するんだよな?」
「ん? なんだ今更。見ての通りだよ。魔力によっては破壊されない。形を失ってもまた戻る。それがヤツの魔力だ」
「複合属性だったらどうだ? 属性無効化の穴をつけるんじゃないか?」
「狙いは悪くないな。だがヤツも複合属性を使える。ヤツにできる属性では無駄だぞ」
「それって何種類だ?」
「さぁな。だがワシが知る限りのほとんどの属性は試してある。もしやるなら全属性でも複合しない限りは無駄だろうよ」
「良かった。だったら試す価値はありそうだ」
「……おい、お前まさか」
俺にもまだ、切り札がある。
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