076:封印②
「魔女の魔術だト!? シモベごときガッ!? ヌオオオオオオオオオオオオオ!!??」
魔人の魔力が封印体の中で荒れ狂う。
だが、そう簡単に破れるようには作っていない。
「ググゥゥゥッ!! このオレサマの魔力が、こんな人間ごときニィィィィィ!!??」
虹色の魔人の由来はその7色に変化する全属性を持った魔力らしい。
師匠の結界がこの魔人専用なのはそのせいだ。
全ての属性が同時に存在する事はなく、全てを同時に防ぐ事などできない。
魔力の属性には相生と相剋の関係があるからだ。
これは特定の属性の間で打ち消しあったり強めあったりする関係性である。
火は水に弱く、水は雷に弱い。
風は火を強め、火は土を強める。
封印の中でも魔人の魔力は変化を続け、抜け出そうとしてくる。
属性の弱点を突こうとしているのだ。
それに対抗するための師匠は属性の変化に適応する独自の術式を結界に組み込んでいた。
俺もその結界から術式を応用しているが、それでも完全には防げない。
魔人の属性は変化のパターンまでも変わり続けている。
術式を完全に適合させるには時間が足りないし、それに集中している余裕も今はない。
このままではいずれ封印から抜けられる。
だからその前に本体の核を師匠の結界で封印する必要があるのは変わらない。
まだ完成にはほど遠い未完成の術式だが、ハッタリには十分だ。
「やれやれ、ヒヤヒヤさせおって」
「アドリブで悪かったな」
即席の結界魔術といい完全にアドリブの作戦だったが、上手くいった。
攻撃を無効化する魔人の魔力を俺たちが切り離そうとしても骨が折れる。
だったら逆に1つの魔術として魔人の方から圧縮してくれた方が手っ取り早いというワケだ。
「ご主人さま! 匂いがさっきよりわかりやすくなったのです!」
濃密な魔力が少しだけ薄くなり、核の探知にも一歩前進できた。
「よし、一気にたたみかける!!」
俺はさらに攻撃魔術を展開しまくり、魔人を攻めたてる。
「グォォォォ!! ナ、ナンなんだお前はああああああああああああああああああああああ!?」
攻撃すれば封印されるとなれば、先ほどのような大技は使いにくい。
これで魔人の攻撃手段を制限できたことになる。
本当はそんなに簡単に封印を連発できるほどの術式は構築できていないのだが、俺はまだ魔人に対して力の底を見せていない。
このまま魔人には「こいつならそれくらいやってのけるかもしれない」と思わせれば良い。
封印に必要な魔力はすでに師匠に供給済み。
だから残りの魔力はハッタリのために使う。
そのために、ド派手にやる。
もちろん笑顔を忘れずにな。
「だから弟子だって言ってるだろ? ただの一番弟子だ!!」
「!? 勝手に一番弟子を名乗っておる!? 認めてないんだが!?」
大技が使えなくなった魔人に対しては俺の魔術の威力の方が上回っていた。
魔人の魔術をぶち抜いて、その巨体に穴を開けていく。
「グハアアアアアアアアアアアア!?!? 弟子だト!? 魔女の弟子などもういないハズ!! こんなヤツを隠していたのカ、魔女メエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!??」
「ご主人さま、核は上なのです!」
「おう!!」
魔人の体を破壊してもその魔力は消滅しないが、霧散して密度が薄れれば核の場所を探りやすくなる。
スーの嗅覚に頼りながら魔人の巨体を破壊し、核を追い詰める。
「良し、封印術式の再構成はできたぞ。いつでも行ける」
「わかった!」
師匠の準備も万端だ。
あとは最後に仕上げだけ。
「スー、そろそろ動きがあるハズだ。しっかり追ってくれ」
「はいなのです!」
こうなれば魔人は時間稼ぎに回るハズである。
時間をかけて有利になるのは魔人の方だ。
だが全体を見れば有利なのは俺たちである。
そもそも魔人はスーの嗅覚を知らない。
俺たちは師匠が核を見抜けないという前提で策を練っていると、そう考えているハズなのだ。
そこを追い詰めれば、必ずボロを出す。
どこかで核を逃がそうとするハズだ。
「クソがあああああああああ!! 人間フゼイが!! 人間ゴトキが!! 調子にノるナアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! オレサマは最強の魔人なのダアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
周囲に霧散していた魔力が一気に収束し、魔人の体がボコンと膨らむ。
その身体からボコボコと肉人形を吐き出した。
さらに【浮遊】の魔術をかけたのだろう。
肉人形を弾丸のように俺たちに向かって撃ち出してくる。
「シねエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!」
そして同時に魔術による攻撃も重なる。
それは封印される事など無視するような大技だった。
物理と魔力による高度な同時攻撃。
殺意全開にも見える一斉攻撃である。
「やっと出たな。ボロってヤツが」
だが、それは見せかけだけだ。
ほとんどは目くらましで威力は低い攻撃ばかり。
「下なのです!!」
大げさな一斉攻撃に隠れるように、数体の肉人形が逃げようとしているのを俺たちは見逃さなかった。
そしてその内の1体を、スーの嗅覚が正確に捉えていた。
他の魔力とは違う、核の匂いを。
「さぁ、仕上げは頼むぜ。師匠」
俺は1発の魔術を放った。
魔人が放ったハリボテの魔術をいとも簡単に貫通し、目標物へと真っすぐに突き進む。
それは黒い弾丸だ。
俺たちを覆っていた黒いマントの代わりである。
「ふむ、大筋は予測通りだな」
「その魔力、魔女カ!? ナ、ナぜオレの核がバレたのダァ!?」
弾丸は小さな黒猫に姿を変え、その肉人形に爪をかける。
バチンと結界が肉人形の内部から張られ、魔人の魔力がその肉体から弾き出された。
「これで終いだ……【封印牢・極天獄】!!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!???」
パキィィィィィィィィン!!
展開していた結界が巨大な水晶のように変化し、魔人を包み込んだ。
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