075:封印①
「圧倒的だな。……やれやれ、勝手にワシの弟子を名乗るだけはあるか」
空から見下ろす町の戦況は、人類の圧勝だった。
補助魔術で強化された冒険者たちによって死体人形は次々に駆逐され、強力で危険な亜人はリリルルやサヴィニアたち高ランクの冒険者が対応してくれている。
優秀な指揮者のおかげで連携も迅速だ。
結果として、人々への被害はほとんど出ていない。
魔人の魔力が集合や再生を繰り返してもしばらくは抑え込めるだろう。
みんな、もう少しだけ耐えてくれ。
「スー、匂いに変化はないか?」
「ないのです。結界の上、空にあるのです」
「ワシらも結界の外に出るぞ。接近して核の場所を特定する」
「わかった。スー、しっかり掴まってろよ」
「はいなのです!」
一気に上昇し、結界を突破する。
俺たちの体は一切の抵抗なく結界を抜けた。
本当に魔人の魔力にだけ反応する特別仕様なのである。
「面白イ魔術を使うナ、魔女のシモベ。人形遊ビは嫌いだったカ?」
ニヤニヤと真っ赤な笑みを浮かべる魔人と正面から向かい合うと、師匠の結界の凄まじさを思い知った。
感じる魔力の威圧感がまるで違う。
魔人の魔力は呪いに近いおぞましいモノだ。
その密度が今まで見てきたどのモンスターと比べてもケタ違いに濃い。
呪いを纏っているのではない。
存在そのものが呪いだ。
かつての神話の時代、勇者と共に魔王軍と戦った人類の祖先たち。
彼らの本能に刻み込まれた恐怖が受け継がれ、現在は呪いへの本能的な嫌悪感となった。
それは呪術が忌み嫌われる理由でもある。
魔人とはまさに恐怖その物なのである。
「相手にするなよ。ヤツの言葉に意味などない」
「あぁ。スー、大丈夫か?」
「は、はいなのです。ご主人さまがいてくれたら、わたしは大丈夫なのです!」
魔人を目の前にすれば、屈強な冒険者たちですら足がすくむだろう。
強がって見せてもスーの体は小さく震えている。
「あと少しだけ頑張ってくれ」
「はいなのです!」
封印するためには匂いを頼りに核を見つけ出すしかない。
そのために今はスーに頼るほかないのだ。
だから、できるだけ早く終わらせる。
「でハ、オレが直接アソんでやろウ!!」
先に動いたのは魔人の方だった。
巨体が膨れあがり、その中にいくつもの魔法陣が展開していた。
火、水、風……様々な属性の魔術の光が混在してまるで虹色に光っているようだった。
虹色の魔人か。
その名の通りである。
「直接ワシらを叩きに来たか。好都合だな」
「あぁ、追いかけまわさなくて済む」
「匂いは真ん中の方からなのです!」
「魔人の攻撃は俺がしのぐ! 師匠は結界の再構成を頼む!」
「全属性に1人で対応する気か!?」
「魔術の数には自信があるからな!」
属性魔術の基礎くらいなら全て使いこなせる。
こちらも7色の魔術で対応するまでだ。
【火矢】、【水弾】、【風刃】、【石礫】、【雷槍】。
そして【光線】と【闇影】。
俺は無詠唱でそれぞれの魔術を同時に発動し、さらに多重展開させていく。
魔力を消費しすぎるわけにはいかない。
術式は最低限に、効率化を重視だ。
「フハハ! さすがは魔女のシモベだナ!! この時代にまだこんな魔術師がいたとハ!!!!」
「まったく……ヤツと真っ向から戦える魔術師など、現世ではお前くらいのものだろうな」
魔人からはまるで遊び感覚でド派手な魔術が飛んでくる。
今までのモンスターとの戦いとはまるで次元の違う、高度な魔術の応戦になった。
その1つ1つが災害クラス。
結界がなければ魔術同士が打ち消しあうその余波だけで町が吹き飛んでもおかしくないくらいだ。
「シャレになってねぇな、魔人ってやつは!!」
「どうしタどうしタ!? そんなモノで魔女のシモベが務まるのカ!?」
魔人との魔術比べはわずかに俺が劣勢の様子だ。
そこにトドメとばかりに更に巨大な魔術が飛んでくる。
最初に見た隕石に近い闇の塊。
「おい、デカいぞ!? 本当に大丈夫か!?」
さすがに師匠も焦った声をあげる。
レアな声だな。
あとで録音機能を持った魔道具を作っておこう。
「とんでもない。まってたんだ」
俺は大きく魔力を割いた大技を待っていた。
追い詰められたのは当然、演技である。
「師匠、術式を借りるぜ」
「……なにっ!?」
攻撃してもすぐに元通りになる魔人の魔力をそぐにはこれしかないと考えていた。
俺が展開したのは小型の封印体だ。
師匠の結界の術式を応用し、それを小さな立方体に再構成したものだ。
「【魔力封印】」
闇の魔術を受け、それを飲み込むように立方体が巨大化し、その中に閉じ込めて圧縮する。
即席の魔術であるためぶっつけ本番になったが、無事に成功したようだ。
「ナニィ!? オレの魔力を閉じ込めただトォ!?」
これですぐには戻れないだろう。
魔人が大技を使った分だけ、その分大きく消耗させられたハズだ。
「俺はシモベじゃねぇ、弟子だっての」
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